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《土木文学》「戊辰鳥 後を濁さず」第16話

三月三十日(土)

 イニシャルコストは250万円から50万円に減額された。

 小型のプリンターから印刷されたばかりの請求書にそう書いてある。

 どうやら長期化しそうだからと中和装置を購入した場合の値段を伝えてくれていたらしく、実際のところ、ジンベエザメはリース契約をしていた。炭酸ガスのボンベは最初に搬入した本数をほぼ空にした形で、中和装置とともに返却したのでランニングコストもかかっていない。
 地盤の調査の方も、その後に予定していた採取した土の分析試験ができなくなった関係でその分をカット。これは配管の工事代金にそっくり変わった。

「内訳は、これよ。」
 と、言って、印刷されたばかりの二枚目をジンベエザメは差し出してくる。

 小型のプリンターは黒と赤の二色ずりで、当初の工種の末尾には黒字で「廃工」と書かれている。
 追加となった配管工事は材料やら作業内容やらその数量と単価、またそれを掛け合わせた小計と合計金額に至るまで全て赤字で書かれ、各行末尾全てに「追加」という文字が並んでいた。

 土木工事は、ざっくりと言い値の世界だと思っていた。
 きっときっと値切るかな。ドンドン。とは、させないつもりのようだ。

 コピー機から今度は見積書が出てきた。

「んで、今後もぽっかり孔があいてるってわけには、いかんだろうから、ぱっと見で売約済みの区画っぽく整えると、こう。」

 金額が250万円に戻った。真っ赤な内訳で一際大きい金額が玉石の処分費だった。
 愕然としていると、やれやれとジンベエザメはPCのエンターキーを押した。

「無料宿泊期間延長サービス付きで、これでどうだろう。」
 と、言いながら、新たに印刷された紙を差し出し、プリンターの電源を切った。

 金額は250万円のままだったが、工事名が赤字で
「旅館朱鷺之湯 露天風呂新設工事」に変わっていた。

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