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《土木文学》「戊辰鳥 後を濁さず」第68話

六月二十一日(金)

「トキさん、すみません。長々とこちらの考えるメリットの部分だけ話してしまって。
 結論を申し上げていませんでした。
 このターミナルを起点とした線路は、東海道新幹線とJR相模線の新駅である倉見駅を目指します。そして倉見駅を通過して湘南台駅へと接続します。湘南台駅はトラ急江ノ島線。相鉄いずみ野線、横浜市営地下鉄ブルーラインが接続する駅です。そのため、今日はこれだけの人数で伺っております。トキさんはトラ急線のみが関係しますので、今後は私のみが伺うことになると思います。
 今日は、大勢で突然押しかけて申し訳ございませんでした。塩害で被害を受けたイグアナ地区の土地活用として、この機会に一度考えてはいただけませんか。
 正確な金額は調査しないと分かりませんが、土地を購入させてくれませんか。
 また、伺わせていただきます。」

 そう言って、シマエナガさんたちは帰っていった。

 隣で聞いていてくれたジンベエザメがワクワクしている。土木技術者の血が騒ぐのだろう。あれこれどういう工法でどういう手段を踏むのか予想を立てていた。

 サッカー専用スタジアムを作りたくてワクワクしていた私よりも、あからさまにワクワクしているので、それとなく聞く。

「新ターミナル駅ができて、そこに、サッカーのスタジアムも作れるのかな。」

 ジンベエザメの答えはこうだった。

「できる。駅直結型になる。試合終わりの群衆を捌くためにどうするかは課題だが、できる。むしろ建物の重さが軽いから、いいかもしれない。」

 やった。

「それは、いつ頃になるんだい。ジンベエザメ。」

「うんと。計画から完成まで二十年後くらいじゃないか。こんだけの大工事だ一朝一夕ではできないよ。」

 困る。それでは、スタジアムが別の場所に取られてしまう。クロヒョウが来たら相談しないと。

「なぜ、二十年後なんだい。長崎は六年で出来上がったよ。」

 と、聞く。
 ジンベエザメが答えたのは、この土地の地盤の悪さってやつだった。

 軟弱地盤。地盤改良。圧密沈下。聞き馴染みのない四字熟語がジンベエザメの口から出てきた。

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