《土木文学》「戊辰鳥 後を濁さず」第69話
六月二十二日(土)
今日は、プロフェッサージンベエザメによる土木の実験講義である。
まずは軟弱地盤についてだ。
用意されているのは、硅砂という砂と霧吹きとコンテナボックスだけだった。
ジンベエザメはコンテナボックスの中にパラパラと薄く砂を撒き、霧吹きで砂を湿らせ、という作業を何回も繰り返して、器用に水で満ちた砂の地盤を作り上げた。深さはコンテナボックスの半分くらいで、今見えてる表面が地面だ。と言っている。
「これが軟弱地盤だ。緩く結びつきあった砂たちの隙間に水が満杯に入っている。空気は一切入っていない。どうだ。器用なもんだろう。」と、言いながらジンベエザメは掌で地面を押した。そして離した。ジンベエザメのゴツゴツとした手の形がぽっかりとできており、その窪みには水が溜まっていた。
「これが、圧密沈下だ。正しくは砂ではなく粘土だが、こういう軟弱地盤は、上から重さがかかると凹んじまっって、水が浮き出てくる。建物をつくる時にはあらかじめ、建物以上の重さをかけて、地面をあえて沈下させるんだ。そうすることで土の粒たちのくっつきが強くなる。」と、言う。また、
「その時には、滲み出てくる水を処理をしないといかん。その一連の作業を地盤改良というんだ。」と、ジンベエザメは教えてくれた。
地盤改良にも色々ある。
化学物質を流し込んで土の中の水を、ところてんみたいにする薬液注入。
セメントをプロペラを使って地面の中に力強く混ぜ込んで固める混合処理。
セメント混じりの水を勢いよく吹き出して固める高圧噴射。
などなど。
また、それらを軟弱地盤の全てに施工すると大掛かりになるので、上からみた時に碁盤の目や、規則正しい水玉模様になるように位置を決めて、地中深くまで施工することもあるらしい。
「ひっくり返すと地中にパルテノン神殿を作るようなもんなんだ。」と、ジンベエザメは言った。
土中の見えない世界には、ギリシャ神話の世界が広がっているらしい。
土木文学を超えた土木神話だ。
神話で終わればよかった。こっからは思い出したくない。
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