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《土木文学》「戊辰鳥 後を濁さず」第19話

四月二日(火)

 健康項目はホウ素とフッ素が高かった。

 これは予想通り。温泉について、この二週間徹底的に調べた。これは温泉に多く見られる傾向だ。

 生活環境項目はpHが10.1で、大腸菌は見つからなかった。温度は、26℃。あと12℃ほど加熱すれば温泉として使える。pHが高いので長湯はできないが、どこかヌルッとしたような泉質なのでそんなに長くは入浴しないだろう。

 というわけで、ハートは熱く、頭は冷静に、一旦深呼吸して封筒に書いてあった調査機関の番号に電話をかける。

「あー、カピバラ市のトキさんですね。添付資料見てくれましたか。いつにしますか。」

と言われてもう一枚、封筒に資料が入っていたことに気づく。

「温泉法におけるメタン濃度測定について、及びその実施日程の調整について」と書いてあった。

「これだ。すぐ来てほしい。」そう伝えて電話を切った。

 それと同時にジンベエザメも、「やった。」と声を上げた。

 ぬるま湯の水面に地道に落としてきた玉石が、孔壁こうへきのどっかに引っかかったのだろう。ぬるま湯の中をゆっくりと沈殿していくことで密に積もった玉石が、ついに地表面まで到達し孔を塞いだ。
 地面に残った細かな隙間を埋めるために、ジンベエザメは砂の入った25kgの袋を切り、元あった孔のあたりにおんまけている。今は、地面にまあるい灰色の部分があるだけで、孔があったなんて誰が思うだろう。

 つまり。

 メタン濃度の測定ができなくなったってことだ。温泉がなくなったことを怪しまれたら最後。トド川に排水していることがバレたらどう説明しよう。

 禍福かふくあざなえる縄のごとし。

 調査機関の担当者は一時間後にやってくる。

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