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《土木文学》「戊辰鳥 後を濁さず」第23話

四月六日(土)

 イベントの受付スタッフと言う説明だったが、今は駅からゾウ山に向かう県道で誘導灯を持って交通整理をしている。反対車線を見るはずのモグラはまだbadなようで、息が合わず、あわやイベント会場に入るキッチンカーと一般車両が、かちあいそうになった。

 ジンベエザメが作業の合間に教えてくれたが、あわやではなくヒヤリハットと言って、「三回ヒヤリとしたことが続くと思ったら、すぐやめろ。」ということだった。

 モグラの気分転換になればとイベントに誘ったが、飲食店経営者と雇われ店長は芯が違う。会場スタッフも、定食屋でよく見かけるバイトの大学生らしき青年が一人いるだけで、バイソンの勢いに押され、モグラも手伝わされることとなってしまった。
 受付ブースを設営していた大学生が、「そっちは適当でいいんじゃないっすか。こっち手伝ってください。」と、歩道から声をかけ、ヒヤリハットは一回で済んだ。

 イベント中は暇なもので、バイソンが各出店ブースに挨拶しながら購入した食べ物を頻繁に持ってきてくれるので、それの試食会みたいになっている。どれも酢が効いた手羽先で、名前は「とりす」といい、今回出店している市内の各居酒屋が夜にお店で提供しているものらしく、このイベントはその「とりす」をカピバラ市のB級グルメとするための決起と市民への周知を兼ねているらしい。

 骨にしゃぶりつきながらモグラは大学生に説教している。

「俺の見立て上、100人いて行動するやつは30人。そのうち続くやつは5人しかいない。」

 なんだか約分出来そうだぞ、めんどくさいな。という表情で大学生は聞いている。

「だから、ガクチカで書くことは、ボランティアの種類の多さでも成果の大きさでもなくて、いかに長く続いたかってことを書いた方がいい。そうすれば上位5%になれる。」

 モグラが調子を取り戻してきた。

 そう言えばだ。ここ数日、ジンベエザメは区画にトラックを何台も出入りさせているが、誘導員なんていない。

 不安になってきた。

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