《土木文学》「戊辰鳥 後を濁さず」第81話
八月二十六日(月)
クロヒョウが「調査費用を調達できた!」と、嬉しそうにやってきた。
だが私は、最近のことを整理したかった。
なので、「田んぼのあたりを歩かないか。」と、クロヒョウを誘った。
稲は所々黄色に染まり、収穫の段階へ移りつつあることを告げている。
もたげだした穂先が風にゆれ、キラキラと西日に輝いている。
洗いざらい話をした。
下水排水費用で、資金がそろそろマイナスへと転じること。
それを補填するには、新ターミナル駅構想に同意し、土地を売る必要があること。
そうすると、計画が出来上がるまで期間がかかること。
そうなると、スタジアム建設が平塚市の解体計画に間に合わず、候補地を奪われてしまうこと。
ならばと、スタジアムの建設だけを選ぶと、資金がショートしてしまうこと。
他にも、交通の問題で影響があること。
だから、カピバラ市のために排水処理施設を作ることになるかもしれないこと。
しかし、市長選の結果次第では、どうなるか分からないこと。
仮に、排水処理施設ができたら、スタジアムが建設できないこと。
本当は、サッカー専用スタジアムと新ターミナル駅と温泉の複合施設を作りたいこと。
洗いざらい話をしたら、最後に私の本音がわかった。
サッカー専用スタジアムと新ターミナル駅と温泉の複合施設を作りたいんだ。
「けれど、どうしよう。」
「任せろ。」と、クロヒョウは言う。
「けれど、トキの土地だ。トキの気持ちを大切にしたい。
俺は、アロワーナというサッカーチームに関わるあらゆる人たちの、その全てを背負っている。だから頑張りたい。
しかし、トキの気持ちが、まだ固まっていないのなら、どうしようと少しでも悩んでいるのなら、俺は勝手な口出しはできない。
気持ちが固まったら教えて欲しい。
色々、話をしてくれてありがとう。」
と、冷静に熱く伝えてくれた。
気づけばあたりは、真っ黄色になっていて、先に帰っていく長い影を踏まないように、いつもより少し離れて歩く自分がいた。
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