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レモンとウキウキの朝 #シロクマ文芸部

 レモンから手足が生えていた。
 昨夜、机の上に転がしておいたレモン。
 今日は休みだから、蜂蜜漬けにでもしようと思っていたのに。
 レモンから。手足。
 机の上をぴょこぴょこ歩いている。
 救いなのは、リアルな手足ではなくて、アニメみたいというか、なにかのキャラクターみたいに見えることだ。
 いや、それが“救い”なのかはわからないけれど。
 リアルな手足だったら窓の外へ放り投げているかもしれない。

 私は夢を見ているのだろうか?
 ベタだけど、頬をつねろうとした瞬間——

 プシュ!

「いったぁっ!!」

 果汁が飛んできた。
 手足の生えたレモンから。

「現実でした〜!」

 ……しゃべった。
 手足の生えたレモンが。
 顔もないのに。
 しゃべっている。
 ……いや、少なくともさっきまでは顔はなかった、と思う。
 今は、目を押さえているから確認できない。
 果汁を飛ばされたせいで。
 というか、私の考えていることがわかるのだろうか。

「なんとなくね」

 ……答えた。
 手足の生えたレモンが。

 私はまだしみる目を無理矢理開ける。

「……レモンだよね。手足の生えた」

 やっぱり手足が生えている。
 レモンから。
 顔はない。

「おっはよー」

 でもしゃべっている。
 やけに馴れ馴れしい手足の生えたレモン。

「なにして遊ぶ?」

 え? 遊ぶこと前提?
 私はレモンの蜂蜜漬けを作ろうと思っていたんだけれど。

「残念でした〜! 蜂蜜漬けにはされちゃいません!」
「いや、考えてることに答えるのなんで? ……じゃなくて、いや、もっといろいろ聞きたいこともあるけど!」

 目の前には手足の生えたレモン。
 しゃべるレモン。
 やたら馴れ馴れしいレモン。

 さて、どうする、今日の私。
 顔の見当たらないレモンが、それでもウキウキと見上げてきているように感じた。




#シロクマ文芸部 企画に参加しました。

『レモンから手足が生えた』が浮かんだら、それ以外に思い浮かばない罠にかかりました。



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2024.09.07 もげら

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