【短編小説】#002:モザイク ― Episode2: 薄片(はくへん)
★短編小説 #002:モザイク ☆もくじ (全5話)
・Episode1 : プロローグ
・Episode2 : 薄片(はくへん)(← いまココ)
・Episode3 : 余光(よこう)
・Episode4 : 残響(ざんきょう)
・Episode5 : 遥遠(ようえん)
*バックナンバー*
◆#001 : グッバイ!タモリ倶楽部
Story
(Episode1 : プロローグのつづき)
母校では50歳になる年に同窓会が行われたのを機に、たびたびクラス会が開かれるようになった。私は積極的に参加するほうではなかったが、時間と気持ちに余裕がある時に顔を出すようにしていた。
そういえば、カナコと同じ中学出身のミユキがいる。彼女はクラス会の幹事をするくらいだから、いっと彼女の消息を知っているはずだ。私は来月予定されているクラス会で聞いてみることにした。
半年に1回ペースでクラス会が行われるようになると、懐かしさや珍しさは消えて、ただの飲み会になっていた。参加数も最初は8割ほど集まったが、今では20人もいれば大盛況というところだ。ミユキは幹事なので事前に彼女に参加の確認をする必要はない。
今回のクラス会は全部で12人というこじんまりした飲み会になった。
私は会場に着くと早々にミユキの横に座り、慌ただしい彼女に代わって出席の確認や会費徴収をした。彼女の隣に座るということは必然的に幹事の手伝いをすることになる。ムードメーカーのミユキはまだ場に馴れていない人のところへ行ったり来たりしながら会を盛り上げる気づかいができる有難い存在だ。彼女のサービス精神のおかげでいつも楽しくて和やかな会になる。
乾杯から30分ほど過ぎ、ちょうど空気がほぐれてきたタイミングでそっと彼女にカナコの話を出した。
「ねぇ、ミユキって柳井さんと同じ中学校だったよね?」
「え?柳井さん?…。」
中学・高校と同じ学校だったくせに、カナコのことを忘れているようだった。
「ほら、柳井加奈子さん。私たちと同じ3年C組だったじゃない。すごく優秀な…。」
「あぁ、思い出した!そうそう。中学も一緒だったわ…私、すっかり忘れてた~っ。」
そう言うと、ミユキは悪気のない苦笑いをした。
「そういえば、同窓会のハガキを送ったんだけど返信が無かったわ。でも、あて先不明で戻ってきていないからご実家はそのままあるはず。クラス会のお知らせも2~3回は送ったはずなんだけど…。ほら、もう連絡はほとんどメールでできちゃうでしょ。だから、今はハガキの連絡は止めちゃったのよ。」
返信がなかったにも関わらず、何度かハガキを郵送したミユキは大したものだ。私なら同窓会で返信がなければそれで諦めてしまうのに…。だから、幹事という面倒な役割も喜んで引き受けてくれているのだろう。
「柳井さんって、いま、どうしているか知っている?中学が同じなら、ご実家の場所くらいは分かるでしょ?」
と聞いてみると、
「そうねぇ…。ちょっと待って…。」
ミユキはお通しが入った皿をじっと見つめてしばらく考えてから、
「柳井さんは中学の時からすごく優秀だったけど、ホントにおとなしい子だったから学校が同じでも接点はほとんどなかったのよ。中学で私と仲が良かったヨリコっていう子がいるの。彼女は柳井さんの家のご近所だったと思うから、まずはヨリコに聞いてみるわ。でも、なんで柳井さんのこと?あなた、別に仲が良かったわけじゃないでしょ?」
私がカナコの消息を知りたそうにしていることを不思議に思ったのだろう。私だって気になる理由は分からない。でも、元気にしているか知りたかったのだ。
「あなたは覚えていないだろうけれど、2学期の最後のころ、私は柳井さんの隣の席だったのよ。」
「へぇ~、そうだったんだぁ…。じゃ、ヨリコに聞いて分かったら連絡するわ。でもね、私がヨリコに連絡するのも30年以上ぶりよ。ホントに恐ろしいくらいあっという間に過ぎちゃうわよねぇ。」
一次会がお開きになって今回の参加目的を果たした私は、このままみんなでカラオケに行こうと誘うミユキのそばに駆け寄って、
「柳井さんのこと、よろしくね!」
と耳元でひとこと言うと、一次会で失礼した。
***
クラス会から2週間ほどたったある日、ミユキからメッセージが届いた。
[今晩、電話していい?]
用件ははっきりしているのにどうしてメッセージで教えてくれないのだろう。勿体ぶる理由なんてないのに。おしゃべり好きな彼女のことだから、ほかにもクラスメイトのネタがあるのだろうか。そんなことを思いながら
[OK]
のスタンプを押した。
夜9時過ぎ。大学生の息子は夕飯を食べるとすぐに自分の部屋に戻り、夫は飲み会でまだ帰ってきていない。
私がリビングのイスに座りながら動画配信サイトの韓流ドラマを観ているところに [伴野美由紀] と表示されたスマホの着信音が鳴った。
タブレットに表示している停止ボタンを押して通話ボタンを押すと、ミユキの声は思いのほか落ち着いていた。
「柳井さんのこと…ヨリコに連絡して…分かったわよ。」
「ほんとに?…で、元気にしているって?」
「…それがね…亡くなったんだって。」
「え?」
想定外の内容に、私は言葉を失った。
「亡くなったのは私たちが大学3年生だった時。つまり20歳とか21歳とか?」
「病気だったのかしら。高校卒業から3年ってことよね?」
大学3年…つまり、カナコがメッセージカードを寄せてくれた日からそう時は経っていない。
●Episode 3:余光(よこう)へつづく
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