見出し画像

【#5】アラサーOL女子の丁寧な生き方と失恋の傷の癒し方。

 -メインの仕事はOL、夜スナックでアルバイト・現在独身・31歳女子-

 大学進学から一人暮らしをしてきたが、恋人のいない今は、心底孤独に襲われる”独りぼっち暮らし”・・・。今まで恋人がいると、一人部屋で眠る夜も、瞼を閉じれば彼氏の顔が浮かんでくる。心が満たされる気持ちになった。恋人がいないと、その包まれるような温かさを感じることができない。当たり前のように連絡をするライン先が、今はない。萌花は、自分が頼りない、恋愛体質だと痛感した。
 それでも、萌花らしさを取り戻していた。失恋してしばらくは、気力がなく、生活が荒れたが、今ではできるだけ自炊する生活が戻ってきた。簡単にコンビニで買い物はしない主義、お金の使い方を工夫する生活をすること。萌花は”丁寧に生きたい”と常々、思っていた。
 ”丁寧な生き方”とは、小さなことからでいい、努力したいことや好きなことを、コツコツと続けていく。そして、お金の使い方を工夫する生き方。最低限、経済的に自立した女性であることも理想に掲げていた。
 ヨガマットを敷いた上に開脚、右足の膝を折り、体手前に足首を引き寄せた。”骨盤を立ててキレイな背筋で”。YouTubeから流れてくる声に合わせて、右腕を右サイドへ伸ばし、うーんと宙に弧を描き、左へ傾く。右わき腹がグーっと伸ばされ心地よさを感じる。理想の自分のために、朝のストレッチをしていた。
 夜のスナックの仕事をしていると、美に気を付ける女性が多いことに気づかされた。萌花は、怠け者になってはならないと、夜の蝶たちから刺激を受け、美容を気にしてコツコツやり始めた朝活だ。

UnsplashのNature Zenが撮影した写真

 ストレッチが終わり、洗濯機を回しながら、シャワーを浴びる。化粧水・美容液・乳液でお肌を整え、さっぱりしたところで、朝ごはんの準備にとりかかる。昨夜のうちにタイマーセットしていた炊飯器のお米は、いい感じでふっくら艶っと炊き上がっていた。

今日もおにぎり。具は、
・塩昆布握り
・梅干し
・鮭二つ
朝ごはんに、塩昆布と鮭を食べて、残りはお弁当にもっていく♡

テーブルに置いた海苔を巻いて頬張った。食べながら、お弁当用のおにぎりも海苔に巻いて、熱を冷ましていた。そして、多めに作ったネギとワカメのお味噌汁をすすった。お鍋に残ったお味噌汁は、こちらもお弁当へ。スープジャーに熱々をいれていく。ラップで包まれたおにぎりは、通勤ルートを共に移動するが、冬は冷たく固くなりがち。でも温かいスープがあるだけで、そんな冷たさも気にならず、ランチタイムを満足できる。昨日の晩、冷蔵庫にあった人参と椎茸・エノキとお豆腐のサッと炒めて合わせ昆布だし汁で軽く煮た一品の残りも、おにぎりのお供になる。今日の方が味が染みて美味しくなってる♡と、にんまりと顔が緩む。

 マグカップに麦茶を注ぎ電子レンジで温める。それをステンレスボトルに移し、蓋をしっかりと閉めた。コンビニでペットボトルの飲み物などは買わないように工夫している。ランチタイムセットの出来上がりだ。

 お財布の中のお札が、小銭に崩れると、いつの間にか、その小銭たちは消えている。一生懸命働いたお金を無駄にはできない。自動販売機やコンビニのちょっとしたお惣菜やパンやおやつ、これを節約することは、とても意義があると思った。
 食事が終わり、食器を洗い終わると、歯磨き、お化粧にとりかかった。

UnsplashのAnnie Sprattが撮影した写真


 ”止まない雨がないように、癒えない心の傷はない”
婚約者となるはずと仄かに期待した堤との別れから、泣いて、泣いて、立ち直れないとどん底に落ちたが、”スナックでのアルバイト”という、新たな行動を起こすことによって、一歩前進したのか、視点を変えることに成功したのか、泣く日が減っていった上に、どうしようもない無益な時間は、結果として、お財布を満たすお金へと変化した。萌花は、鏡を見つめ、慎重にマスカラを塗りながら、結果オーライと、納得するように呟いた。

 女性の失恋の傷の治し方は色々だろう。”時間”が心の傷を癒すこともあれば、”新たな恋”を見つけることで完治することもあるだろう。意外と、愛犬が心の傷を舐めてくれたり、全力で求めてくれる姿に、冷え切った心が温められることもある。女子会をやって騒げば鎮痛剤効果にもなるし、”恋愛はしない”と決意することだって、絶望の淵から這い上がってくる一つの方法だ。萌花は失恋の傷を癒すためにどうしたらいいのか、頭ではわかってはいたが、堤との別れが生んだ未練。行き場を失った愛が訴えてくる悲痛な声が消えない。愛しい恨みが消えるまで、新たな恋をするという気にはならないし、女子とつるんで騒ぐ気持ちにもなれない。失恋直後の萌花は暫く消耗していた。
 それでも時は過ぎていく。1日、また1日と。愛しい恨みと向き合う時間は、嫌という程あった。相手と友人を呪い、自分をも責め、そんな醜い自分を守る時間となると同時に、少しずつ冷静さを取り戻せるようになってくる。心の傷が癒えるより前に、萌花は、自分が一人、孤独な時間を過ごすことがリスクであることに気が付いた。
 麻酔からぼんやりと目覚め、次第に世界がはっきりと見えてくる。喉の渇きに気が付くと、次は水を欲するように、その水を掴みに、手を伸ばす。その手を伸ばせるようになるまで、身悶えすることすべて無駄ではないのだ。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?