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ラブの愛

「好きって幻みたいだな。好きな気持ちがちゃんとあっても、その形を探していけば雲のように姿を消して、でもそこには確実に存在していて」
掴もうとすれば指の間からすり抜けていく。掴めないから見つめるしかなくて、形がないから保存もできなくて、永遠はないから今を大事にするしかなくて。
その中に飲み込まれてしまえば視界が悪く、思うように動けなくなる。

花を贈ること、季節を一緒に感じること、食べ物を贈ること、ふたりで抜け出す飲み会、ふたり以外のその他全てが消える瞬間、一緒にご飯を食べること、一緒にドラマを観ること、増えていく写真の枚数、昨日の話の続き、沈黙と、余白。それぞれが生きてきた道、それぞれが歩いていく道、それぞれが持つ愛と、それぞれが望む愛。

誰かを通して見た世界は、色んなものが輝き時間は緩やかに流れている。そしてまた誰かを通して見る世界は、コンクリートで固められ冷たく銃声が鳴り響いていた。
全力で走った後のように心臓が小刻みに音を鳴らしている。駆け巡る焦燥感と身体を蝕む不安感が常にあるわたしは、穏やかさが、ゆっくりと流れる空間が、なによりも救いだった。背中をさすってくれる手は、涙を拭う手は、いつもより暖かくて泣いてしまった。
取るに足らないものが愛するものに変わる瞬間、大事にしたいものが増える瞬間、見たこともないような自分に出会える時、空が広がり色付いた。そんな感覚をいつまでも持っていたかった。それが人を好きになることなんだと思った。
わたしは、あなたがあなたのままで生きていけることを祈っていた。

ふたりの間にある埋められない距離も、心の隙間も、届かない部分も、一緒にみつめることができるならもっと深い場所で、もっと広い場所で、手を繋ぐことができるだろう。
その距離は、その隙間は、愛が入る余白だった。

柔軟性を失い絡まりあった心を丁寧にほぐし、ほどく。もう落ちるところまで落ちた、極限まで小さくなった、という感じがする。
その時のわたしはその余白が存在することすら認められなくなっていたんだ。そんな自分を嫌い、軽蔑し、そしてその上正当化しようとした。チグハグになっていったわたしは考えるのを放棄し、そして周りの声に、自分自身の声にさえ耳を塞ぎ続けた。
己の持つ物差しで誰かの愛は測れない。
散々考えて失敗して培ってきた自分を、わたしは全てひっくり返してしまった。
人は皆それぞれ生まれ持った根っこの部分は一生変わらないんだと、わたしは思う。だから生きていく上で培った人格や、こういう人であろうとする人格にこそ、その人自身が詰まっている。
その根っこの部分だけを握りしめていた1年間だった。
そんな自分を許せなくて、苦しかった。だけどもういい加減許してあげよう。それもまた、ご愛嬌ということで。また一歩、前に進むために。

ーー

永遠を願う今がある。ずっと続けばいいのにと願ってしまえるような瞬間がある。そんな瞬間を、わたしはかき集めたい。
離れた今も温もりが残っていてわたしを暖めてくれていた。「心が繋がる」の意味をようやく理解した。
だいすきな人が今日も健やかに過ごせていますようにと、毎日願う。
再会した時、あなたはどんな顔をするだろう。そしてわたしは何を思うのだろう。
その日に思いを巡らせながら、今を生きていこうと思う。一歩ずつ進んでいこうと思う。

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