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夕焼け小焼けに手を繋ぎたい。

帰り道の空が染まっていた。
最近はすぐに暗くなってしまうから、赤い帰り道を急いで過ぎる。

梅雨がはじまる前だったから、5月頃。同じように真っ赤な帰り道を辿った日を思い出した。
西日が眩しくて、夏に向けての空気が少し鬱陶しくて、紫外線を思えば気分の落ちるような、そんな夕方。
落ちていく太陽に向かって進む信号待ちの耳が捉えたのは尾崎豊のI LOVE YOU。中学校の学ランを着た男の子たちが綺麗なユニゾンで紡いでいた音。
10代になったばかりの彼らがなんで?とか、学校で習ったのかな、でもバイク盗んじゃったりベッドを軋ませちゃったりする人の歌は果たして授業に出てくるのかな?とか。
なんだか不思議で、何より、声変わりを終えた男の子たちの尾崎豊はとても綺麗に色づいて。
西日が眩しいだけじゃない、素敵な色の夕方を大事に仕舞って持ち帰った日。


それから、こことは違う町ですれ違った年配の男の人。アルバイトに急ぐ私と、散歩中の彼。
小さな橋ですれ違ったのは冬の夕方だった。冷たい空気に驚いて鼻がツン、とする冬。
彼の腰にはラジオか何かのスピーカーが下げられていた。
流れていたのはビートルズ。
彼も少しだけ口ずさんでいた。私も少しだけ口の中で転がした。夜に向かう橋の上。アルバイト先の洗い場。星が見える橋の上。少しだけ、ずっと。
I want to hold your hand. 手を繋ぎたいんです。手を、繋ぎたいんです。
寒さとさみしさと、夜の匂いが少しだけする夕方。私のポケットに入ったまんま。


夕焼けと一緒に何かを焼き付けて、私の鼓膜網膜を伝って樹状突起が手を伸ばす。コカ・コーラの瓶の欠片みたいなものを拾っていくの。ダンゴムシの家。小さな秘密基地。川に降りるのにぴったりな岩場。昨日の夕日。明日すれ違う人。ポケットいっぱいになった欠片を偶に取り出して、なんて小恥ずかしい事を考える私の鼻を金木犀が掠めていった。
もうすぐに、冬。

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