筋肉治療
人との距離感を計ることが苦手だった僕は、学生時代ずっといじめられていた。
部屋にこもりがちで夜中に活動をしていたものだから、青白くて脂肪だらけの肉体となり、大学に進学しても友人ができることはなかった。
このまま寿命がつきるまで、何十年もこんな人生を歩まなくてはならないのかと思うと吐き気がした。
いっそ、もう終わらせてしまおう。
僕には生きること、毎日を積み重ねていくことが苦痛でしかなく、どう逃げたって人と関わらなくてはならない世界に我慢がならなかった。
***
そんなことを考えたあの日から、少しだけ時間が経った。
僕は両手を細い鉄に伸ばし、小刻みに震えながらそれを握った。
大きく息を吸い込んで、僕は覚悟を決めて力強く地面を蹴飛ばした。
僕の足はぶらぶらと宙に浮かんだ。
焼けるような痛み。血管が腕から浮き出ている。
日課であるこの懸垂トレーニングのおかげで、僕は今や美しい肉体を手に入れた。
はじめは苦しみでしかなかったジム通いも、近ごろは行かないと筋肉が衰えてしまうという不安にかられて毎日かかさない。
かつていじめられっ子だった僕は、今や自分の肉体をいじめて悦に入っている。
自分で言うのもなんだが、かなり良い身体をしていると思う。
本日のメニューを終えた僕は、ジムに併設している浴室で骨の髄まで身体を温めた。
湯上がりに脱衣所で麗しい肉体を鏡に反射させながら思わずほくそ笑むと、隣にいた男性が僕のボディーを褒めてくれた。
いまだに人との距離感を計ることが苦手な僕は、体中の血液が沸騰するのが分かった。
目が覚めると、僕はジムの救護室にいた。
のぼせ上がったしまったようだ。文字通り。
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