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主婦キミエの秘密

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「わかった。絶対この人が犯人よ」
 ぶよぶよとした贅肉を揺らしながら、キミエは言った。
「えぇ〜? 一番怪しくない人じゃん。絶対違うよ」
 娘は目の前で流れるサスペンスドラマの犯人を推理する母親に正直な気持ちを伝えた。
 数十分後、母親が指し示した男が犯人として、探偵に崖に追いやられていた。
「お母さんすごい! 前も当てたし、そういえばその前も…もしかして百発百中なんじゃない?」
 娘は興奮して鼻息を荒くする。
「お母さんもしかしたら…探偵になれるかも!」
 熱のこもった言葉を紡ぐ娘にキミエは小さくはにかんで言った。
「やあね。私なんて見ての通りただのおばさんよ」
飲んでいたお茶を持ち上げて流しに向かう母親に、娘はつまらなそうな視線を投げかけた。
「お母さん、明日はパートだからちょっと遅くなるわ」
 背中を向けたまま、母キミエは娘に告げた。
 翌朝、キミエは薄暗い、廃ビルの地下室にいた。
 彼女は黒いスーツに身を包み、硝煙の残る銃口をそっと胸元にしまった。 
 ごく平凡でありきたりな主婦キミエは仮の姿であり、ひとつも証拠を残さずターゲットを始末する闇の住人であった。
「さすがだ。あれだけの人数をたった一人で片付けるとは」
 依頼をキミエに与える情報屋が、その仕事ぶりを賞賛した。
「近頃…サスペンスドラマを見るのだけど」
 キミエは目出し帽を脱ぎながら気だるそうに言った。
「ドラマ? あんたもそんなものを見るのか」
 驚きの表情をのぞかせる男にキミエは小さくはにかんで言った。
「やあね。私なんて見ての通りただのおばさんよ」
 途端、キミエは表情を凍らせて続ける。
「最近のドラマは裏の出来事に通じすぎている。あんな表現、闇の者じゃないと知りえないわ」
「どういうことだ?」
 情報屋の男は、興奮して鼻息を荒くする。
「裏社会をメディアにリークしている者がいるわ…話してはならない線引きもしないでね」
 キミエはそう告げると、一瞬でその場から姿を消した。
 そこから先はお前の仕事だ、と言わんばかりに。
 廃ビルを離れたキミエは、そのまま出版社へ向かう。
 あるブツを受け取るのだ。
 編集部へ訪れたキミエは、静かに別室へ迎えられた。
「先生!! 新しく出る推理小説、予約時点で重版決定! まだ先生に見本誌を渡す前からの決定ですよ!!ありえない! 流石は超人気売れっ子推理作家!!」
 キミエの担当編集は、興奮して鼻息を荒くする。
 ごく平凡でありきたりな主婦キミエは、仮の姿であり、それでいて闇の住人であり、さらには大ベストセラー作家であった。
 ハイテンションな編集者にキミエは小さくはにかんで言った。
「やあね。私なんて見ての通りただのおばさんよ」

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