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Paris

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2019年7月の記事一覧

Paris 20

 愛煙家にとって、欧州(に限らず多くの海外の国々)への滞在は少々不自由を感じるものかもしれない。今や多くの国では喫茶店やバーであっても店内で煙草を吸うことができず、したがって、一服のたびにテラスへと席を外さなければならない。これは飲食店に限らず、あらゆる屋内での喫煙が認められていないため、建物の入り口における副流煙がときおり問題視されたりする。路上喫煙率も極めて高く、規制を厳しくした結果が裏目に出ているようにも思うが、あくまでもプライオリティが置かれているのは火の不始末による

Paris 19

 リビングから聞こえる生活音で目が覚めた。寝起きのままで寝室を出ると、同じように起きたばかりの宿泊客たちが食卓を囲んでいた。前夜から続く合宿のような気分。日本の片田舎に来たようだった。朝食を軽く済ませ、煙草を吸いに屋外へ出て、そこがパリ郊外の街であることを再認識した。雨は上がっていた。  宿を出る頃、ようやくヨナスが起きてきた。一緒にパリ市内まで行くかと尋ねたが、なぜか即答で断られてしまった。休息日なのだろうか。確かに宿は居心地が良く、何人かは昼までの時間をリビングでゆった

Paris 18

 時刻はすでに夕方から夜へと変わる頃だった。それゆえに、メトロはとても混雑した。退勤ラッシュだ。東京のそれと変わらない。持ち上げるのがやっとのスーツケースを引きずって、わずかな人の隙間に乗り込んだ。スーツケースを持ってパリの北端で満員のメトロに乗るなど、10代の頃ならトラブルが恐ろしくて避けただろう。しかしガブリエル・ペリで降車したときには、トラブルに巻き込まれなくて良かった、そんな感想は頭の片隅にも思い浮かばなかった。やっと身体的負荷から解放された、それだけだ。  友人と

Paris 17

 ベルシー駅でメトロを降りると、雨だった。高速バスのターミナルまでは数分ほど歩かなければいけない。私は駅前のカフェのテラス席で雨宿りをすることにした。気温は少し肌寒くて、ちょうどコーヒーを一杯飲みたい気分だった。  コーヒーも飲み終えてしまい、雨が勢いを失うタイミングで席を立とうと待っていたが、雨足は徐々に強まるばかりだった。そろそろ友人の乗るバスも着く頃だろう。仕方なく、その日は雨に濡れることにした。煙草を吸い終わるとギャルソンにラディシオンを頼んだ。  エスカレーター

Paris 16

 宿の裏口前で手巻きの煙草をヨナスと回しながら、ガブリエル・ペリの街に色を感じないのは天気のせいかもしれないと考えていた。朝の快晴はすでにはるか東へと飛んでしまっていた。灰色をした雲は重く、それは雨粒を地上に漏らすまいと堪えているようだが、時間の問題のように思えた。役所の周りをしばらく歩くと、スーパーに立ち寄って水を買い、宿へと戻った。大きいサイズのペットボトルの水の値段が1ユーロを大きく下回っていた。そうか、ここはバンリューだった。  宿へと戻ると、そこには先ほどまではな