マーケティングでアーティストのファンは増えるか?【エンタメみらい会議 Vol.2】
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マーケティングでアーティストのファンは増えるか?【エンタメみらい会議 Vol.2】

Modern Age/モダンエイジ事業部のレーベルヘッド・高野修平(@groundcolor)が、エンターテインメント業界で活躍している方やブランドの担当者など、いま語り合いたい方をゲストに迎え、マーケティングを通してエンターテインメントとブランドの未来について熱論する「エンタメみらい会議」

第2回のゲストは、米国発デジタル音楽ディストリビューションサービス「TuneCore」の日本法人「TuneCore Japanチューンコアジャパン」で代表を務める野田威一郎のだいいちろうさん(@TuneCoreJapan)。有名アーティストからインディーズまで、数々のアーティストをその目で見てきた野田さんとともにお送りする今回のテーマは「ヒットする(人気が集まる)アーティストに必要な能力とは?」です。

チューンコアジャパン株式会社/Wano株式会社 代表 野田威一郎
香港で中学・高校時代を過ごし、慶応義塾大学へ入学。卒業後は株式会社アドウェイズに入社し、その後2008年に独立、Wano株式会社を設立した。「日本のエンターテイメント文化をITの技術を駆使して世界に広げていく」ことを軸に、音楽・映像×ITサービスを次々と展開する。2012年には、誰でも自分の曲を世界(2021年現在185ヵ国以上)の配信ストアで配信販売できるアーティスト向けの音楽流通サービス「TuneCore Japan」をTuneCore Inc.と創業。有名なアーティストからインディーズのアーティストまで、ジャンルを問わず幅広く利用され、2021年4月時点で総額170億円をアーティスト・レーベルに還元。また、現在は楽曲だけでなく動画も配信するサービス「Video Kicks」をスタートさせている。
株式会社トライバルメディアハウス Modern Age/モダンエイジ事業部 事業部長/レーベルヘッド 高野修平
株式会社トライバルメディアハウス所属。『Modern Age/モダンエイジ』事業部 事業部長/レーベルヘッド。チーフコミュニケーションデザイナー、クリエイティブディレクター。 トライバルメディアハウス内にある日本初のブランドマーケティングと音楽マーケティングを融合させたマーケティングレーベルを設立。ナショナルクライアント、テレビ局、音楽配信会社、映画配給会社、レコード会社、アーティストといった幅広いエンターテインメント業界を支援している。最新刊は『始まりを告げる《世界標準》音楽マーケティング』M-ON番組審議会有識者委員、尚美学園大学非常勤講師。‬年間講演本数は70本を超える。

アーティストファーストを体現する「TuneCore Japan」

高野:今回の「エンタメみらい会議」では、現代そしてこれから先の未来で活躍するアーティストに必要な能力・スキルとは何かを議論していきます。

もちろん、アーティストなので歌唱力・演奏力・作詞・作曲などの音楽的な能力やセンスが必要なことは大前提ではありますが、現代の音楽シーンでヒットを生み出しているアーティストたちを深堀りすると、それだけではない「+α」の力があると僕は考えています。その「+α」の部分を今回野田さんとともに考えていきたくてお声がけをしました。

野田:僕自身「TuneCore Japan」でとくに支持を得ているアーティストを見ていて、楽曲のすばらしさに加えて別の要素が光っているなと感じています。その要素は、おそらく高野さんが考察する「+α」のことでしょう。間違いなく、現代でヒットを生み出すアーティストが持ち合わせている能力であり、これからを生きるアーティストにいっそう必要となってくる力です。

「TuneCore Japan」は、アーティストたちがその「+α」を含めた自身の魅力を発揮しながら世界に音楽を届けられる場所なんです。

高野:「TuneCore Japan」の創設以降、相当伸びていますよね。改めて、「TuneCore Japan」とはどんなサービスなのか教えてください。

野田:一言で表現すると「音楽のデジタルディストリビューションサービス」ですね。自身がつくった楽曲を「TuneCore Japan」に登録するだけで、Apple Music・Amazon Music・LINE MUSIC・Spotifyなど55以上、185カ国以上の音楽ストリーミングサービスにまとめて配信することができるサービスです。

これまで、音楽を発信する方法はCDをつくって販売することが基本でした。音楽事務所やレーベルなど、音楽を流通させるための専門の企業がいて、音楽アーティスト(以下、アーティスト)たちはまずそこに所属することを目標にしていました。しかし、デジタルの時代に突入し、自分がつくった音楽を聴いてもらう方法はCDだけではなくなりました。むしろ、デジタルが主戦場になりつつあると言っても過言ではないかもしれません。

ただ、この数年でサブスクリプション型の音楽配信サービスやYouTubeなど数多のプラットフォームが生まれましたが、アーティストが自ら個人で音楽をそういったサービスに配信することはできませんでした。それを可能にしたのが「TuneCore Japan」です。

高野:事務所に所属していれば、原版権・著作権などの「権利」に関する手続きはすべて専門のスタッフに任せられますもんね。「TuneCore Japan」ではどのような対応を行っているのですか?

野田:自分で権利を持たれている方であれば、誰でも使えます。なので、事務所やレーベルに所属したうえで「TuneCore Japan」というサービスを利用する必要がないんです。年齢や立場関係なく、本当の意味で“誰でも手軽に音楽を配信できる”。それが「TuneCore Japan」最大の魅力です。

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高野:インディーズで活動するアーティストにとって非常に助かる仕組みですね。

野田:そうですね。さらに「TuneCore Japan」で特長的なのは収益の仕組みです。「TuneCore Japan」では、配信後得られた売上の100%がアーティストに還元される、という仕組みにしているんです。ただし、我々は手数料としてシングルであれば1曲につき年間1,551円、アルバムであれば1作品につき年間5,225円の登録料をお支払いいただきます。

高野:売り上げの100%がアーティストに還元されることは従来の配信サービスやレコード会社だとまずないので、かなり画期的ですね。僕自身、アーティストにもっと売り上げが還元される世の中になってほしいと常々思いながら、何かできないかと試行錯誤しているので、アーティストファーストなスタイルの「TuneCore Japan」を尊敬してやまないのですが、これまで業績を伸ばしてきたなかでターニングポイントとなった時期はありましたか?

野田:やはり音楽ストリーミングサービスがローンチされはじめた2015~16年頃ですかね。それよりもっと前から、着メロ・着うたといったダウンロードサービスがありましたが、デジタル化が加速するなかでストリーミング配信が生まれ、音楽を聴く手段が増えたことが「TuneCore Japan」にとっても追い風となったように感じます。

さらに2018年以降にストリーミング配信が生活者に浸透し始めたことで、「音楽を自分でつくりたい」「自分を表現したい」と考えた若いアーティストたちがストリーミング配信で配信するようになっていった。サービス開始当初は、20代後半~30代のアーティストが利用している層のメインを占めていましたが、今は20代前半のアーティストが一番多い層なんですよ。若者たちの“自身を表現したい”というクリエイティブへの関心の高さと「TuneCore Japan」の特長がマッチしたことで、利用者の年齢層も広がり、より多くの方に利用してもらえるようになりました。

高野:多くのアーティストが音楽を「TuneCore Japan」から発信し、その音楽を生活者が受け取るという流れのなかで、直近でいうと瑛人さんのように配信サービスから爆発的にヒットするアーティストが生まれているわけですが、今後の目標は何でしょう?

野田:国内のヒットアーティストを引き続き生み出していきたいので、アーティストファーストなサービス形態を今後も続けていきます。あとは、やはり海外の市場をより伸ばしていくことですね。今年の3月に中国の大手配信サービス「Tencentテンセント」と「NetEaseネットイース」への楽曲提供をスタートするなど、すでに市場拡大に向け動いていますよ。中国に加えて、東南アジアや南米も視野に入れています。


現代でファンを増やすアーティストが備えている能力とは?

高野:先ほど野田さんがおっしゃった「ヒットアーティストもどんどん生み出していきたい」という目標の実現には、「TuneCore Japan」のようなプラットフォームも必要ですが、やはりキーとなってくるのは“アーティスト自身”になるのかな、と思うんです。「TuneCore Japan」からはさまざまなジャンルのヒットアーティストが誕生してきましたが、野田さんの目から見てヒットしたアーティストの特徴は何でしょうか?

野田:時代によって「ヒットするための条件」みたいなものは変わってきたように思いますが、いつの時代も共通するのは「楽曲の良さ」「クリエイティビティ」「ファンをキャッチする個性」であると考えます。“かっこいい”でも“かわいい”でも何でもよくて、「誰が聴いても何かを感じさせることができる」アーティストは遅かれ早かれ大きく羽ばたきますよね。

逆に、変わっていったのは「ファンを増やすための方法」です。昔はSNSなんてありませんでしたから、限られた手段のなかでファンを増やしていましたが、現代は違います。自分の音楽を聴いてもらうためのきっかけをどうつくるかが勝負の時代なので、「(TuneCore Japanから)このプラットフォームに配信してみよう」といった感度が高かったり、「自分はこういう見せ方をした方がいい」、「今の流行りはこれ」といったポイントの押さえ方が上手だったりする人が、ヒットを生み出すアーティストに多いと感じています。

高野:「押さえるポイントが上手な人」は、やはり俯瞰で見る力・物事を総合的に見る力に長けていますよね。ミュージシャンだったら音楽、のように自分の専門領域や得意ジャンルに閉じこもるのではなく、その周りを取り巻く環境や流行などを総合的に判断し、取捨選択したうえで押さえたいポイントをうまく自分たちのブランディングに取り入れる。それは、アーティストに限らずどの職業・どの企業にも共通しているように思います。

あとは、新しいものに対して否定的にならず、とりあえずやってみる人も成功しているアーティストに多いのではないでしょうか?

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野田:おっしゃる通りですね! 「まずやってみよう」という精神はヒットを掴むうえで重要です。まさしく「TuneCore Japan」でも、ヒットしたアーティストを見ると「とりあえず登録して配信してみたんです」といった、フットワークの軽さを兼ね備えているケースが多いです。

高野:企業の事業推進にもまったく同じことが言えるんです。「知見が足りないからできない」「情報が揃っていないから動けない」という企業が少なくないと思うのですが、それではだめで。知見・情報が揃う=他の企業に先を越されている、という状態なので、そこから新たなバズ・ヒットを生むのは非常に難しくなります。とりあえずやってみることで、膨大な量のトライ&エラーが積み重なる。これが財産となって、バズやヒット作を生み出すことができるんですよね。小さな挑戦からでもテストケースは生まれるので、まずは些細なことでも構わないから実体験を重ねていくことが大切だと日々感じています。

野田:企業の方の気持ちもわかるんですけどね……。かけられる費用や責任を天秤にかけたときに、どうしても一歩を踏み出せないこともありますから。

高野:アーティストの方に話を戻すと、昨今だとやはり「セルフプロデュース力」も欠かせないということ。その最たる例がYouTuberだと思っていて。彼らはセルフプロデュース力の塊ですよね。社会にどう見られているか、視聴者からどう反応されているか、自分たちに求められていることは何か、などを細かく分析したうえで、自己を表現する。この一連の流れがみんな当たり前のようにできていて、さらにその精度が高い人がヒットを生み出し続けられる。

野田:YouTuberの場合は、高野さんの言うようにセルフプロデュース力に長けているからバズる・ファンが増えるというパターンがほとんどだと思います。ただ、アーティストの場合は音楽のセンスとセルフプロデュースのセンスは別物だと考えたほうがいいかもしれません。セルフプロデュース力がない場合は、マーケティングができる別の人の力を借りてほしいですね。そしてチームをつくり、戦略的なヒットを生み出す。偶発的に生まれているヒットももちろんありますが、最近のヒットアーティストの傾向を見ると、実は戦略的にファンを増やしているパターンが多いんですよ。その事実からもマーケティングの重要性をひしひしと感じますね。

マーケティングの力でファン増加を狙う

高野:「戦略的にヒットを生み出す」という話で気になったのですが、データを見たりクチコミを見たり、いわゆるマーケティング活動をアーティストが行っていることもあるんですか?

野田:最近のアーティストはとくに多いですよ。ヒットしているアーティストを見ると、自分でデータを集めて整理したり、そのデータから分析をしたり、誰かにやれと言われたわけではなく、自ら自然とマーケティングを取り入れている。ある意味これも才能の一つだと思います。嫌々やっていると、どこかで必ずやらされている感がでてしまったり、途中でやらなくなったりしてしまいますから。日常的にクチコミも見ていますしね。クチコミから、自分たちの音楽は「どういう層が聴いているか」「どんなときに聴かれているか」「どんなことに使われているか」などを拾い上げて、自分たちが音楽を発信するうえでの戦略に活かしている。

その観点で行くと、SNSをやっているアーティストの方が、現代はやはりファンが増えやすいですね。未だにSNSをやっていないアーティストは、今すぐ始めた方がいいくらいです! さらに欲を言えば、Twitterと「TuneCore Japan」など、いくつかのプラットフォームをクロスさせることで、より強力な戦略が設計できると思います。戦略的にやりすぎるとクリエイティビティが失われることがあるので、そこが難しいところではあるんですけどね……。

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高野:僕もアーティストの方にはぜひSNSに力を入れてほしいと強く思っています。SNSを含め、戦略をしっかり練ったうえでファンを増やす努力をすることは大切です。そのことを踏まえたうえで、マーケティングにできることは「好き」になってもらう打率をあげることだと考えています。そのアーティスト自身や楽曲を好きになりそうな人はどんな人かを分析し、候補である人に訴求していく。マーケティングは、偶発的なヒットを生むためにも必要な方法なんです。

野田:運が良くてヒットしたとしても、ヒットが続かなければ単なる一発屋になってしまいますから、そのためにもマーケティングは大切です。せっかくヒットが生まれたのだから、そこで終わらないように、継続してニュースを発信していく。小さなニュースをいくつかつくって発信を続けたうえで、新曲発表などの大きなニュースを届けると、次なるヒットが生まれる可能性が高まります。その小さなニュースをつくるために、ファンの傾向・クチコミ・時流などを分析するマーケティングがアーティストサイドにも必要ですよね。

高野:おっしゃる通りです。さらには、ヒット自体もマーケティングで分析する必要がありますよね。「なぜヒットしたのか」と理由を分析することはもちろんですが、今はCDの売り上げだけがヒットの定義とは限りません。音楽配信サービスやSNSなど、聴者が使っているサービスはバラバラなので、当然ヒットが生まれる場所もさまざま。必ずしも楽曲を配信した場所でヒットが生まれているとも言い切れませんしね。ヒットが生まれた時にいかに細かく分析できるかが次につながるかどうかの分かれ目であると感じています。

野田:高野さんがおっしゃったことを体感した出来事があって。「TuneCore Japan」で配信したアーティストの楽曲が、ある日TikTokでバズっていたんです。さらにはさまざまなインフルエンサーの発信によってYouTubeへも波及していきました。ヒット作の配信元は「TuneCore Japan」であっても、バズがどこで起きてヒットにつながるかはわからないおもしろさを実感した瞬間でしたね。

この例が生まれた理由の一つが、当時外出自粛期間中だったこともあり、普段はSNSをそこまで活用していない年齢層の芸人さんたちがTikTokを熱心に見始めたことにあるんです。若い世代がすでにTikTok上で使用していた楽曲を芸人さんたちが知り、自身のYouTubeチャンネルで楽曲のパロディを披露し、楽曲自体のさらなるヒットにつながったんですよね。

高野:トライブ(※1)を超えることでヒットが生まれることへの可能性を感じるとともに、やはり若い世代からヒットが生まれることを実感できる事例ですね。だからこそ、ヒットを生むための戦略の一つとして「(ターゲットとする)世代を落としていく」ことも一つの手です。10代、さらにはもっと下の年齢の子たちに着火した瞬間に、ものすごいバズが起こることがありますから、いかに若い世代に知ってもらうか・興味をもってもらうかを試行錯誤していくと、新たなヒットの誕生につながるのではないでしょうか。

※1 年代や性別を超え、共通の趣味・興味・価値観で形成される集団。

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野田:若い世代の話から派生すると、若い世代がアーティストを志しやすい環境を「TuneCore Japan」でつくっていきたいと常々思っています。アーティスト一本で勝負したい人はもちろんですが、学業と両立しながら音楽を配信したり、別の業界・職種で働きながらインディペンデントアーティストとして活動をしたり、そういった人もどんどん増えていってほしいです。そのサポートをするために「TuneCore Japan」がありますから。二次創作や権利関係の処理、還元する収益など、アーティストファーストな基盤は十分に整えてあります。

あとはいかに戦略を練ることができるか。自分一人でできなければ、できる人を巻き込んでチームをつくること。これが鍵ですね。

高野:僕たちモダンエイジでも、音楽を広げるためのマーケティングを行いながらアーティストの方を支えていけたらと思っています。すでにヒットしているアーティストを起用するのではなく、クライアントである企業の文脈や商品との関連性などを総合的に分析しながら、企業とアーティストをマッチングさせることを重要視しています。そこから新たなヒットを生み出すことが大きな目標です。

野田さんとの対談で、アーティストが現代、そしてこれからの未来でファンを増やしていくために必要な力の一つにマーケティングがあることを改めて実感できました。アーティストの未来のために、僕たちマーケターもいっそう奮闘していきます。本日はありがとうございました。


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▼野田さんのSNS、運営サイトなどはこちら
Twitter @TuneCoreJapan
TuneCore Japan  https://www.tunecore.co.jp/
▼高野のTwitter・noteアカウントはこちら
Twitter @groundcolor
note https://note.com/mafactory/

※新型コロナウイルス感染症防止対策に配慮のうえ収録を行っています。

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