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もう一人のお医者さん

教えてもらった医師に診てもらうため
その先生が外来担当の日を待ちわびて
総合病院に向かいました。

娘はちょうど試験期間だったので
とりあえず総合受付を済まして
後で娘を連れて来ることを
小児科受付で伝えると

「今日は先生が往診に出かける日なので
娘さんを連れて来られても間に合いません。
また日を改めてもらえますか?」

そう看護師さんに言われました。

診てもらえると
勝手に思い込んでいた私は
希望を失ったような気持ちになってしまい
看護師さんの前で泣き出しそうでした。

立ち尽くす私に

「あの…日を改めて」

もう一度、看護師さんが困ったように
私の顔を覗き込みました。

「娘が…娘が…倒れるんです。
どうしていいかわからなくて…
先生に診ていただきたくて…」

日を改めなければならないとわかっていても
泣かないように伝えてしまいます。

「はい?何ですか?」

「娘が…倒れるんです。
先生に診てもらいたくて…
今から早退させても…診てもらうことは
間に合わないでしょうか…」

看護師さんが困ってしまうだけなのに
言ってもどうしようもないことを
言い続けてしまいました。

「あの…少しお待ちいただけますか」

「すみません…本当にすみません」
申し訳無さで、自分が嫌で
でも帰れなくて立ち尽くすしかありません。

しばらくすると看護師さんが戻り
「今日はお母さんが受診してください
先生がお話を聞くそうです」
そう言ってくれたのです。

「ありがとうございます。
本当にありがとうございます。
本当にすみません…すみません…」

少し呆れたような笑顔で看護師さんは
うんうんと頷きました。

しばらくして順番が来ました。
やわらかい声で先生が聞きます。

「どうされましたか?」

日を改めないといけなかったのに
先生に話を聞いてもらえる

今の娘の状況を泣かないように
ちゃんと伝えようと
『冷静で話すこと』に集中しました。

いつ倒れてしまうかわからない 
娘の話を聞いた先生が驚いたように

「えっ!怪我してない?
どこか打ったりして内出血とか…
骨折とか…え?大丈夫なの?
他に疾患の可能性も診ないと…」

当たり前のようなその言葉を
これまで関わってきた医師から
聞いたことがありませんでした。

「ありがとうございます。 
CTも撮って異常ありませんでした。
幸い、今のとこはすり傷くらいです。
あと、てんかん疑いの脳波検査は
多分やっても てんかんじゃないから
冬休みにしましょうと言われてるので
まだ1ヶ月先ですが」

「そんなの検査しなきゃわからないよね」

こんな、当たり前の言葉を
どうして聞けてなかったんだろう。

冷静で話すことを頑張っていたのに 
我慢していた涙がポロポロ溢れました。

そして心療内科で処方された薬を見せました。

「これを服用してるんですか…」

先生が少し険しい顔をして言います。

「しかもちょっと量が…」

先生の顔色が変わり
私にこう言いました。

「私は17歳の子に、この量のこの薬は
飲ませたくありません!」

これが娘と私が薬と向き合うことになる
始まりの瞬間でした。


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