見出し画像

あなたが捨てたゴミを拾うのは誰ですか?

毎日、電車通学をし、実家から満員電車に揉まれながら、私立の高校に通っていた。
いつものように土曜日の授業は午前中で終わり、JR横浜線の菊名駅のホームで八王子方面へ向かう電車が来るのを待った。
見上げるとホームの屋根越しに青空が広がる気持ちのいい天気が見えた。

本を読みながら電車の到着を待っていると、電車が風を切りながら緩やかに減速し、駅に入ってきた。
ドアの近くに立ってると電車が完全に停車し、すぐにドアが開いた。
私が車内に乗り込むと、座席が空いていたので、座って辺りを少し見渡した。
運転席のある車両だったので、ドアの入り口付近で私と同じくらいの年齢の高校生が3人ほど集まって、ファストフードを食べながら座り込んでいた。
私はマナーが良くないなと思い、その姿がとても気になったが、周りの大人も何も言わないし、しばらく様子を見ることにした。
電車内は彼女たちの笑い声が響き、楽しそうに話す様子が時折見られた。
通り過ぎる窓から見えるのどかな景色に癒やされながら、私は静かに本を読み続けた。

彼女たちがようやく駅を降りていき、その姿を目で追うと、ファストフードのゴミを電車内に置きっぱなしにして去っていったのだ。
ゴミをまとめることもなく、飲んだら飲みっぱなしで包み紙のゴミも床に転がっていた。
私はその様子を見かねて、座席から立ち上がり、1人で怒りを感じながらゴミを片付けた。
同じ年の若者として恥ずかしいという思いと、とても同じ高校生と思えない振る舞いに落胆していた。
ましてや、私よりも年上のスーツ姿の男性やお年寄りの女性、座席に座っている大人も電車内の吊り革につかまって立っている大人も、誰も私がゴミを拾う姿に無関心だった。
もしかしたら、心の中で何か思っているのかも知れないが、私に声をかけることもなければ、立ち上がる様子もなく何もしない姿に、私の目には無関心な大人に見えた。
これだけ大人がいたら、食べ散らかした彼女たちに声をかける人くらいいるだろうと思っていたが、期待を裏切られたようで少し悲しくもあった。
この時、初めて世の中の大人というのはこんなものなのかと、思い込みが変わった瞬間だった。

電車は最寄り駅に到着し、私は自分が食べてもいないゴミをまとめて持ち、何も言わずに電車を降りた。
駅構内に設置されたゴミ箱へ、持ち去ったゴミを捨てて、改札を出た。
家に帰る途中で、彼女たちの行動が頭に浮かんだ。
なんで、自分たちの食べたゴミを片付けることをしなかったんだろう、と思い返した。
彼女たちと直接会話したわけではないから、これは私の憶測でしかないが、
「駅員さんがやってくれるし、私たちは客だから何してもいいでしょ?」
そのような態度にも受け取れた。
堂々と床にゴミを捨てる人の姿を目の当たりにして、無神経で無関心な人が世の中にはいるんだと知った。





私は幼少の頃、週末の朝、両親が車で父方の祖父の家に連れてってくれた。
祖父の週末の日課といえば、近所の駅の広場まで散歩に行き、ゴミを拾いをすることだった。
足腰が丈夫で元気な祖父は、よたよたと歩く私の小さな手を繋いで、腰にゴミ袋を下げて、トングで煙草の吸殻、空き缶や空き瓶を拾っていった。
ある程度ゴミを拾い終えると、一緒にゴミ拾いを手伝ったご褒美にジュースを買ってもらい、近くのベンチに座って休憩した。
祖父はカバンから袋を取り出し、中に入っていた食パンの耳を小さくちぎり、鳩に餌をやっていた。
私は餌に群がる鳩に興味を持って、鳩の群れに突っ込んで無邪気に遊んだ。
祖父と一緒にゴミを拾った日の出来事が楽しい思い出となって、今でも気がついたらゴミを拾う習慣がついたのかも知れない。






社会人になってからもこの習慣のお陰で、私はゴミを拾うことに抵抗はなく、落ちているゴミを見つけたら拾ってゴミ箱に捨てるなり、家に持ち帰るというのが当たり前となった。
カバンの中にビニール袋を常備して、通勤途中でも小さなゴミに気づいた時に、いつでも拾って持ち帰れるようにしている。
駅や街に落ちているゴミを一つ拾うことは小さな事かもしれない。
でも、それは決して無意味なことではないと思っている。
高校生の頃に感じた大人たちの姿勢を見て、反面教師として受け止め、私は自分の行動に胸を張れる大人になることを決意した。

もしも、あなたが何気なく、ゴミを道に置いていったら、きっと誰かが拾うだろう。
地域の清掃員かもしれないし、近所の住人かも知れない。
都心や自然の多い場所なら、有志のボランティア団体かもしれない。
誰かが拾うかも知れないたった一つの小さなゴミも、もし、あなたが気づいて一つでも拾って持ち帰ったら、きっと良いことをしたという感覚が積み重なって、1日を気分良く過ごせるのではないだろうか。
些細な行動だけれど、試しに行動することで、あなたの思い込みが変わるかもしれない。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?