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3学期は問題行動対応から始まる

 10月から再び荒れました。1学期よりもひどい状況。
 それでも、冬休みに出席・成績に問題がある生徒さんの補習を完了しホッとしたのもつかの間。
 1月8日、3学期の始業式を終えた放課後、JRから電話が入ります。

電話の内容は

 私のクラスのB君とD君とが列車内で喫煙し、それを注意した車掌に対し、強い反抗的な態度を取ったとのこと。
 学年主任と一緒に駅に向かうと、駅長室に、B君・D君と駅長。それに、当事者の車掌さんがいました。車掌さん、かなり怒っています。
 状況はこんな感じ。
・学校からの下校途中。制服着用。
・車掌室から、二両編成の列車の1両目で高校生が騒いでいるのが見えた。手には煙草を持っていた。
・煙草を吸っていた…というよりも、煙草を振り回しながら二人で何かを大声でしゃべっていた。非常にはしゃいだ状態に見えた。
・車内は禁煙であるので、注意するために座席に向かった。
・最初は、声が大きいことを注意したがこれは無視された。次に煙草を持っていることを指摘し、列車内は禁煙であることと、所属高校(制服でわかります)を確認すると、反抗的な態度を取り出した。
・やがて暴言を吐くようになり、最後には胸倉をつかんで殴ろうとした。

 B君、D君ならあり得ること。ちなみに2人は8人の暴れるグループ所属。
 本人たちにも言い分はあるでしょう。しかし、彼らに共通するのは、こんな大事になると想像できないこと。そういう社会性・学習能力が低いこと。そんなわけで、虚勢を張りつつも内面はビクビクしているはず。
 2人が恐れているのは、親に知られること。保護者は怖い方でも暴力的な人でもありません。しかし、2人とも親の前では「良い子」なので、そのイメージを崩したくない。次に停学になること。そして、今回の件で決まっていた就職の「内定」が取り消されるのではないかということ。そんなことだと考えました。 

JRとの交渉

 車掌さんが何を望んでいるかです。選択肢はいろいろあります。
 本人たちには、「君たちの言い分を聞く前に、まず大人の話し合いをします」「その結論によって、君たちの言い分を聞く人は変わる」「ただ、大人の話し合いは密室ではやらない。君たちのいる前で、ここで行う」「駅長さん、車掌さん、それでよいですか」。
 変な話ですが、これで、この場の主導権を握りました。
 そして、ご迷惑をおかけしたことを謝罪し、対応として、「JRとして何か罰を与える」「学校に処分を一任する」「警察に通報する」「家庭に処分を一任する」という選択肢が考えられるが、まず車掌さん・駅長さんの意見を伺いたいと問いました。
 「警察に通報してもよいのですか」と駅長さんが問い返します。
 2人は、ものすごい視線で駅長をにらみます。怯えていることの裏返し。
 「この件をどうするかを決める権利は、JRにあると考えます。ですから、まず、それを決めてください。私たちは、学校の先生である前に一社会人です。」
 2人は非常に厳しい状況にあることを自覚したと思います。学校で処分となると停学は確実。警察に送られれば内定取り消しの可能性が高まる。親に知られた場合、学校外での出来事なので先生のせいにできない。
 整理すればことは単純なのです。JRがこの2人に社会罰を与えたいなら、自社で処分か、警察に連絡すればよい。これで終わりにしたいなら、学校か家庭に引き渡せばよい。そういうこと。大きくは二択に過ぎません。
 

私が考えていたこと

 田舎暮らしに慣れてきた私は、地域の人々の関係性というものを理解するようになってきました。おそらく、車掌さんも駅長さんも、その沿線にある本校が「荒れていること」を知っている。本校のイメージは良くなく、先生に対する不信感もある。学校への通報となったのは、制服を着ていることだけなく、そういう背景もあるだろう。
 一方で、関係性の濃い地方の暮らしで、JRが地元の顧客に罰を下すこと、警察に突き出す可能性は低い。おそらく学校一任にするはず。ただ、JRで罰を下す、警察に突き出すという選択肢を学校が提示すること、その決定権をJRに与えることで、車掌さんの怒りは収まるはず。これが本件の着地点と考えました。
 この想定が外れ、もし、警察にとなってもそれだけのこと。そもそも学校外の出来事ですから、私たちの仕事ではない。当時、学校・先生がそんな風に考えるのは珍しかったと思います。しかし、警察でなければ停学です。
 しかも、学校外での犯行なので、暴れて自分の思い通りにすることできない。頼みの担任にも決定権はない。「いいか、これが社会というものだ」と心の中でつぶやいていました。
 駅長さんも車掌さんも、しばし黙り込みます。

学年主任の対応

 ここで学年主任が、二人に話しかけます。
 「車掌さんの言うことに間違いはないか~」
 「煙草は吸ったのか~」
 「大声でふざけたり、騒いだりして、乗客の方に迷惑をかけたのか~」
 二人の返事は「yes」です。
 「何か言い分はあるか~」という問いには「ありません」と答えます。
 全面降伏ですね。
 「まず、誰に、何をするべきだ~」
 ここで、D君が立ち上がり、「申し訳ありませんでした」と車掌さんに対して頭を下げました。B君は不貞腐れたままですが、D君が促し、一緒に頭を下げました。
 駅長さんが車掌を促し、駅長室の外に出ます。
 戻ってくると、謝罪を受け取ること、本件はなかったことにすること、ただし、今後同じようなことがあった場合は強い対応をすること、そのために氏名や連絡先をこの用紙に記入すること…と述べました。要するにブラックリスト掲載です。
 そして、私たちに向かい、学校に連絡して申し訳なかったこと、先生方の対応には感謝していること、できればこの場でこの件は終わりにしたいので学校での処分はしないでほしい…と伝えてくれました。
 
 私は、学校で処分しない…ということは難しいと返しました。
 学校への電話で、本校生徒が喫煙したことはすべての教員が知っている、生徒も認めている。だから処分なしというわけにはいかない。ただし、社会と学校との共通ルールに「二重罰は下さない」というものがある。もし、JRが何らかの罰を下してくれれば、学校での処分を回避することはできる。
 たとえば、先ほどのブラックリスト掲載について、その同意に保護者の署名を求めることは可能ですか。未成年ですし…。

 学校に戻り、管理職・教務主任・生徒指導部長に報告しました。
 下校途中の列車内で喫煙の事実があったこと。そのことで車掌から指導を受け、駅長から訓告があったこと。JRが保護者に知らせるなどの対応をすること。
 「つまり、JRが処分するということでいいの?」という教務主任の問いに、そういうことですと答えました。
 「では、みなさん。本件は学校では処分はしないということでいいですか?」と生徒部長が言います。
 「明日の放課後、学年主任と担任とから少し注意を与えておいて」と教頭が言います。

 翌日、朝のHRに向かうと、2人は気まずそうに座っていました。
 私はいつものようにHRを済ませ、その日は終わりました。
 教頭から言われた注意はしていません。
 数日後、B君母から電話がありました。JRから連絡があり、文書に署名して届けたそうです。
 その翌日、B君・D君を呼び、B君のお母さんから電話をいただいたことを伝えました。

 しかし、B君は卒業式の日、また問題を起こします。
              続く…。
  

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