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疾走っていく 2082文字#シロクマ文芸部

風の色は、透明だけど、風(ふう)の色は、透き通った水色だな。

青葉は、そう言った。

🧢🧢🧢
「青葉〜っ!学校行くぞ〜っ!!」

朝早く、小学校からの同級生『柳城 青葉(やなしろ あおば)』を迎えに来た。

青葉の両親である「匠海さん」と「若葉さん」は、こうやって俺が訊ねてくる事にはもう慣れっこで、「朝ごはん居る?」とか「野球は順調か?」なんて聞いてきてくれる。

申し遅れましたが、俺は『青柳 風真(あおやなぎ ふうま)』高校三年生で野球部所属。
最後の夏の大会を目指して頑張っている。

そして、青葉は

「……いやだ。まだ眠い…………」

……いつもの事である。

「じゃあ、いいよ。俺先に行くからっ
じゃあなっ、青葉っ!」

「うぇ、えっ?!待ってよっ!!」

青葉と俺は、高校では3年間クラスが一緒だ。四六時中一緒に学校での生活を共にしている。

何故かと言えば、学校側の配慮と俺自身が直談判したからだ。

「ほらっ、青葉!朝ごはんっ!」

急いで着替えている青葉を急かす。

「この子はもう〜、また夜遅くまで野球の動画見てたんでしょっ!」

若葉さんが追い打ちをかける(笑)

着替えを終え、洗面所へ行き顔を洗い、髪を整えた青葉は、急いで走らせてくる。

「ほらっ!青葉っ!朝ごはん」

「……わかったよっ!」

そんなバタバタとした朝を過ごし、無事に高校へ俺と青葉は出発した。

歩っていけば20分。

近い場所にある学校だ。

「風(ふう)野球の荷物持つよ。重いだろ?俺の座ってる膝に乗せればいいからさっ」

「平気だよ。毎日の事だし、さぁ!行こうっ!」

俺は、青葉の「足」である「車椅子」を押していく。

青葉は小さい頃に戦った骨肉腫という病気の影響で車椅子生活をおくっている。病気は回復したものの、立って体を動かす事が難しくなった。

でも、青葉は元気だ。

青葉と俺が高校3年間同じクラスになった理由はここにある。

けれど、俺自身が1番に臨んだ事で、それを学校が叶えてくれたカタチだ。


「……青葉、昨日また夜遅くまで野球部の映像見てたのか?」

「うん。見てたよ。1回気づいたらもっともっとってなってさ〜」

「……野球部としては頼もしい限りだけれど、あんまり無理するなよな」

「わかってる!」

青葉は野球部でマネージャーをしている。青葉は俺の影響で野球を好きになり、データ分析をするようになった。

それがメキメキと制度を上あげていき、野球部では「神様 仏様 青葉様」なんて言われてしまっている。

それに対して、青葉は満更でもない様だ(笑)


学校と部活を終え、青葉と並びながら家に帰宅していく帰り道。

田舎だから道も広くて車通りも少ない。

街頭もそれなりにあり、いい道だ。
なんて、俺は思う。

だって、こうして並んで、青葉と話せるのだから。

「風」

「うん?なに?」

「今日、あんまり打てなかったな、何処か痛んだりしてるか?」

「いや、してないよ。

ただ……今、あんまり打撃の調子が良くない」

「…、だよな」

「まあ、打てない時は駄目だ。
段々深みに嵌まって行きたくはないから。あんまり気にしないでおく」

そんな強がりを言う俺を、青葉は見抜いていたようでじーーーーと車椅子から見上げて見つめてくる。

「…、青葉………なんか………照れるわ」

「え?…」

「……ゴホンッ、いや、なんでもない」

俺は青葉の車椅子に付いている手押しハンドルを握って青葉の車椅子をゆっくり押していく。

「風、いいよ。疲れてるだろ?」

「平気。……それに、俺がしたいんだ」

「?」

青葉は、高校を卒業したら大学へと進む。俺は、小さい頃からの夢である「自動車整備士」になる為、専門学校に通う予定だ。

2人でこうして同じ場所から帰るのは、高校で最後になる。

「青葉、覚えてるか?」

「うん?」

「青葉が、風の色は透明だけれど、風の色は透き通った水色だって言った時の事」

「う〜ん……。覚えてるよ」

「青葉は、どうしてそう思った?」

「どうしても何も、風の事見てて素直に感じた事を言っただけだよ?
風は、透き通った水色に見えるんだ。俺には


………風が隣に居てくれたから、俺はやりたいことをやりたいって、言えるようになったんだからっ」

「……そ、そう………なのか……?」

「うん、そうだよ」

……何だが、まだ理由は良く分からなかったけれど、青葉にそう見えているなら、それで良いや。と、こっちも思った。

嬉しく思った気持ちに、変わりはないし。

「…青葉っ!少し走って車椅子押してもいい?」

「……うん。いいよ」

「よし、行くぞ〜!それ〜〜〜!!」

俺は優しく、けれど出来る限り早く、青葉の車椅子を走って押していく。

でこぼこ道じゃない道をまっすぐ疾走っていく。

「あはははっ!!風っ!凄い風が気持ち〜!!」

「怖くないか?」

「へーき!ねえ、風!もっと!もっと早くっ!」

「だーーめ、速度はここまで」

「え〜〜〜〜?」


疾走っていく。

疾走っていく。

道は、一旦別れてしまうけれど、俺にとって青葉は、大事な友達だ。

どうなるか、なんて先はわからないけれど、願うなら青葉と命が許す限り、友達であり続けたい。

神様、仏様、青葉様。

よろしくお願いしますよっ!


なんて、思うのだ。

〜おわり〜

こちらの企画に参加させて頂きました。

ありがとうございました。




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