【洋画考察】映画「アウトフィット(The Outfit)」のネタバレ考察
この記事では、映画「アウトフィット(The Outfit)」をネタバレあり考察していきます。未鑑賞の方はUターンをオススメします。
それではいきます!
主な登場人物
★レオナルド・バーリング
本作の主人公。裁断師としてシカゴで仕立て屋を経営している。メイブルを娘のように大切に思っている。
★メイブル・ショーン
主人公の店で受付嬢として働く若い女性。なんだかんだ言いつつもレオナルドを父のように慕っている。実の父はライアン・ショーンという男で、かつてボイルの下で働いていたが命を落とした。
★フランシス
ボイルの部下だが、もともとはボイル家の人間ではなく“野良犬”で、ボスに拾われて組織に入った。ボスにラットがいると伝えたことで、リッチーの下につくことになった。過去にボスを庇って6発撃たれており、ボスはこれを高く評価している模様。
★リッチー・ボイル
ボスの息子で組織の跡取り(No.2)。メイブルとデキている。家族でもアイルランド系でもない“野良犬”だったフランシスをよく思っていない様子。
★ロイ・ボイル
組織のボス。レオナルドの店の1人目の客であり常連客。ギャングのボスにしては温厚で常識人。
登場する組織一覧
●ボイル一家●
○本作のメイン的存在となるアイルランド系ギャング組織。
○アウトフィットからの「“ラット(裏切り者)”がいる」という封筒を見てラットを探している。
○FBIが仕掛けた“テープ”の再生装置を入手してラットの正体を明らかにしたい。
○テープがラ・フォンテーヌの手に渡ると力を与えてしまうため、彼らの手に渡るのを阻止したい。
●アウトフィット●
○アル・カポネが作った実在の大物ギャング組織で、シカゴを牛耳っている。(ここのメンバーだった有名なギャングたちは、これまで様々な映画で描かれてきた)
○テープを複製してボイル一家に渡した(という設定で、実際はレオナルドが仕組んだ事)。
○ボス曰く、ボイル一家がラ・フォンテーヌ潰しを終えられるか静観しているらしい。
○タイトルの「アウトフィット」は、ギャング組織のアウトフィットと衣装(英語でOutfit)をかけている。
●ラ・フォンテーヌ●
○フランスのギャング組織。
○ボイル一家と敵対関係にある。
○“テープ”を探している。
○メイブルから情報を受け取っていた。
※「ロウ(=サヴィル・ロウ)」はロン
ドン中心部のメイフェアにあるストリートの名称。高級紳士服店が並んでいる。
考察
①裏で何が起こっていた?
終盤で、この夜の一連の出来事はレオナルドが何ヶ月も計画していたことだと明かされます。しかし全てをレオナルドがやったわけではなく、ラ・フォンテーヌに密告したりFBIにテープ(盗聴器)を仕掛けさせたのはメイブルで、レオナルドは手紙を仕込んだだけのよう。「何ヶ月も計画していたのね」とメイブルは言っていましたが、これがよく分かりませんでした。
何ヶ月も前から計画はしていたもののすぐには実行せず、虎視眈々とタイミングを窺っていたということでしょうか。メイブルがリッチーから「ボイルが戦争を起こすつもりだ(ボイルが『アウトフィットは我々がラ・フォンテーヌ潰しを終えられるか見ている』と言っていたことから、『戦争』=『ラ・フォンテーヌ潰し』と思われる)」と聞いていたことをレオナルドは知っていたので、組織内部が混乱状態になるこのタイミングを狙って手紙を仕込み、彼らが疑心暗鬼になり勝手に揉めている間にその場その場で彼らを追い込む選択をしたのかな、と思いました。
②フランシスが戻ってきた時、テープが無かったのは何故?
リッチーの手当が終わると、フランシスは1人でテープの再生装置を探しに行きます。その後リッチーが眠っている間にテープを隠したのだと思います。
ボイル一家は自分たちが持っているテープはアウトフィットが本物のテープを複製して送ってきた物と思っていますが、あのテープは元からレオナルドがアウトフィットのフリをしてでっち上げた偽の証拠品であり、ラットの正体が実際に記録されているわけではありません。そのためフランシスが再生装置を探しに行くと言ったのを聞いて隠したのだと思われます。
③リッチーとフランシス
その1:二人を隔てる決定的な“差”
2人には明らかな実力差があります。
序盤でリッチーが撃たれたときは激しい銃撃戦だったようですが、そんな中でもフランシスは無傷でした。さらに、先に発砲したリッチーはフランシスに当てられませんでしたが、後から撃ったフランシスは一発で瞬間的に急所に当てています。リッチーが撃たれて店に来た時に、フランシスは「お前の腹に穴が空いたのは引き金を引くべきときに固まったからだ」と言っていましたが、この時も躊躇ったのでしょう。ギャングの世界では、いざという時に引き金を引けない甘さが命取りとなります。
さらに、作中で語られていますがリッチーは「やらかしてばかり」らしく組織内での実績はほとんど無さそうです。にも関わらず、ボスの息子というだけで態度が大きく、少しでも気に障ることを言われるとすぐに突っかかります。実力と態度が伴っていないただのボンボンです。
それに対しフランシスは“野良”上がりでありながら非常に野心溢れる男で頭も良く、時にはボスの代わりに撃たれるなど血の溢れる滲む努力も重ねながら事実上のNo.3にまで這い上がりました。結果的にはレオナルドの手により組織は破滅の一途を辿ることとなりましたが、そんなことなど知る由もないフランシスはリッチーを殺し、ボスもラ・フォンテーヌに売り、いとも簡単に2人を排除していましたね。
そういうわけで、No.2でありながら温室育ちで「やらかしてばかり」なのに態度だけが大きいリッチーと、家族じゃないにも関わらず自力で事実上のNo.3まで這い上がりトップを狙うフランシス。この差は歴然です。
ちなみにですが、発砲シーンをよく見るとフランシスはリッチーがよそ見した瞬間に射線から外れ、即座に発砲しています。一方でリッチーは、撃つか撃たれるかという場面でよそ見です。こういった細かいところに差が表れているわけです。
③リッチーとフランシス
その2:二人の関係
メイブルやレオナルドとの会話シーンを見るに、リッチーはフランシスのことをよく思っていないようです。理由は、『フランシスがボイル家の血を引いていない“野良犬”なのに優秀だから』でしょう。フランシスはボイル家の家族ではありませんが、[その1]で書いた通り非常に賢く優秀な男です。そんな彼は過去に体を張ってボスを守り6発も撃たれており、リッチーはボスから幾度となくその話を聞かされてきたのでウンザリしていました。(6発も撃たれてよく生きているな……)
リッチーは“よそ者”の彼が組織内で力を増していき、いつか越されてしまうと分かっているからこそ、そして彼が自分より優秀だと分かっているからこそ気に食わない存在だったのでしょう。
フランシスはフランシスで、リッチーを頃合いを見て蹴落とすつもりだったと思います。なんならボスのことも。
③リッチーとフランシス
その3:なぜ挑発されても堪えたのか?
最初にフランシスが戻ってきた直後のシーンで、リッチーがあからさまに挑発を重ねる一方で、フランシスは何を言われても黙って堪えています。一体なぜでしょうか?
考えられるのは、普通に“ボスの息子だから”です。リッチーはボスの息子なので穏便に済ませたかっただけだと思います。フランシスはリッチーを撃った後、「なぜ俺に撃たせたんだ?今からお前が死ぬ前に聞く最後の言葉を言う。だから地獄で思い出してくれることを祈る。お前が死ぬのは、馬鹿だからでもノロマだからでも傲慢だからでもない。弱いからだ」と言いますが、そんなことを言う人間が優しさを持って我慢してあげたとは思えません(笑)
④リッチーとメイブルの関係
周囲は「2人はデキていた」と認識していますが、メイブルは本気ではありませんでした。あくまで情報源にするために好意があるフリをしていただけです。
殺されたリッチーの亡骸を見たときの表情は、“愛する人が殺されたことへのショック”ではなく、“残酷に殺された人間の死体を初めて見たことへのショック”の表情に見えます。また、ボイル家の一員として生きて死んだ父親を「クズ」呼ばわりして嫌っている彼女が、ボイル家No.2のリッチーを好きになるとは考えにくいですよね。
⑤メイブルとレオナルドの関係
しかし、メイブルがレオナルドを父親のように慕う気持ちは本物です。閉店後にリッチーと店に忍び込んだ際、レオナルドがいないと思って普段は言わないような褒め言葉を述べているところからもそれが窺えます。
対してレオナルドもメイブルを娘のように大切に思っています。
2人がいつ頃どういった経緯で出会ったのかは描かれていませんが、レオナルドがシカゴで開店した際に受付嬢として雇ったことが始まりだったのでしょう。ギャングの一員として死んだ父親を持つ娘と、ギャングに妻子を殺された男。似た者同士感じるものがあったのかもしれません。
時折お互いに「君は私の娘ではないから……」「あなたは私の父親ではないから……」とこぼしているのは、「本当にそうならいいのに」という願望の表れかもしれません。
(※メイブルの父親はかつてボイルの下で働いており、そのときに何か不幸な出来事が起こったせいで命を落としたようですが何があったのかは明かされていません)
⑥レオナルドがトドメを刺さなかった理由
レオナルドはフランシスをハサミで刺した後、トドメを刺そうと再びハサミを振りかざしたものの思いとどまります。それは、フランシスや妻子を殺したギャングのような「野蛮」な人間に成り下がりたくなかったからでしょう。
フランシスはリッチーを殺したとき、頭を撃ってトドメを刺しました。また、最後のシーンでレオナルドは、「私がスーツを着るのは、“自分は野蛮ではない”と言い聞かせるためだ」と言っています。つまり、トドメを刺せばフランシスのような「野蛮」な人間と同じになってしまうため堪えたのです。また、「自分の家を燃やした悪党たちと同じになりたくない」とも思っていたのでしょう。
レオナルドは本当に「やり直す」ことが出来るのか?
レオナルドはまた「やり直す」つもりのようですが、ラ・フォンテーヌに偽のテープを渡しているので怒ったラ・フォンテーヌに追われるはずです。ロウで見つかったようにどこに逃げてもきっとまた見つかり、何らかの代償を支払わされるでしょう。そもそもアメリカに来たのも、当時遂行できない任務を与えられて逃げたが追いかけられ、結局見つかってしまい悲劇が起こったからですよね。今回も逃げた先でいずれラ・フォンテーヌに見つかり、またロウでの悲劇を繰り返すことになりそうです。
〈気になる点〉
・ボスが優しすぎる
ロイ・ボイルはギャングのボスの割には色々と甘いです。大抵のギャング映画に登場するボスは冷酷無情で殺人も乱暴もいとわない支配者として描かれていますが、本作のボスはレオナルドの嘘に簡単に言いくるめられ、操られてしまいます。もはやフランシスの方がギャングらしいくらいです。そりゃあ死にますわ……。
・レオナルドはリッチーに真実を話していた?
レオナルドはリッチーが目覚めた後の長い会話シーンで、リッチーに「お前がラットなんてありえない」と馬鹿にしたように言われるまでは彼には真実を話していたようにも見えます。しかし、その直後からは彼にも嘘をつき始めます。これには何か意味があるのでしょうか?
〈感想〉
サスペンスとしてよく作られており、フラグ回収もしっかりしています。
マーク・ライランスの何を考えているか分からない終始ポーカーフェイスな演技が地味に不気味で、レオナルドのミステリアスさを増幅させています。
フランシス役のジョニー・フリンがイギリス人だと言うことに驚きました。彼は本作で初めて見たのですが、アメリカ英語が上手なのでイギリス人とは気づきませんでした(笑)でも確かにインタビュー映像等を見るとイギリス英語なのでギャップ萌え。てか彼、シンプルにこの役が似合いすぎです。
最後まで読んでくださりありがとうございます。参考になりましたら幸いです。
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