弦綺

あなたの灯火になれますように

弦綺

あなたの灯火になれますように

マガジン

  • 流れ星の向こう

    夢を失った全ての人に告ぐ。これは少年少女が繰り広げた、夢と希望の物語だ。  修道院に住むリナはある出来事をきっかけに、シスターに逆らうことを決意する。待ち受ける波乱を乗り越え、流れ星の向こう側にたどり着くことはできるのか。 最後まで彼らの冒険譚を見届けていただきたいと思う。

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小さな灯火を

 私はバス停の前のベンチに座っていた。 「寒い…」  こんな日に限って、薄着をしてきた自分自身を恨みたい。  バスが来るまで、後、三十分もある。近くに店もない。  どうしよう…と途方に暮れていると、ふと、カイロが目の前に現れた。  驚いて顔をあげる。  そこにはカイロを差し出す青年の姿があった。 「落とし物です」  私はカイロなど元々持っていなかったはずだ。 「えっ、私のじゃ…」  ありません、と言おうとしたが、青年の言葉に遮られた。 「落とし物です‼︎」  あくまでも、そう

    • 『書き始めよう、僕らの物語を』  私は、大切なものをしまうように、  優しく本を閉じる。  そして、言った。 「ありがとう」と。  その言葉を聞いた瞬間、  みんなは柔らかく微笑んだ。  そして、言う。 「こちらこそ」と。  私の目から、  一粒のしずくがこぼれ落ちた。  それを誤魔化すように、  私は笑う。  そして、言った。 「どういたしまして」と。 「ただいま」  そう言って、私はドアを開いた。  中には十三人の人々がいて、にこりと笑う。 「遅いよ」  誰かにそ

      • 鴇刻《とき》

         流れていく景色。離れていく駅。  それを眺めながら、私は思う。  願いなど叶わないのだ、と。  出発した電車。動かない足。  俺は絶望する。  どうして、思い通りにならないことばかりなのか、と。  けれど、それでも私たちは願い続ける。  だからこそ、願いは叶うのかもしれない。  けれど、それでも俺たちは足掻き続ける。  だからこそ、面白いものなのである。  何が起こるか、わからないのだから。  久しぶりに訪れたこの場所は、あの頃と少し変わっていた。  もう四年、こ

        • 流れ星の向こう 12話

           レポルトは下を向いていたが、やがて、決心をしたように、リナの顔を見た。 「行こう。マザーの娘を探しに。そして、広い世界を見に」  その言葉を聞いたリナは嬉しそうに微笑んだ。  二人はロープをつたい、部屋を出た。  身を潜めながら、ある場所に向かった。子供の頃に見つけた秘密の抜け道に。外の世界を怖がっていた頃の彼女たちはもういない。いるのは、未知の世界に心を躍らせる少年と少女だけだった。  二人は小さなトンネルから、外へと飛び出した。  外の世界はとても広く、美しかった。

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        小さな灯火を

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        • 流れ星の向こう
          13本

        記事

          流れ星の向こう 11話

          「正気で言っているのか、リナ?」  レポルトは信じられないという目で、ヴィクター__リナを見た。 「もちろん」  レポルトはため息をついた。 「そんなことを言うために、髪を切って、ヴィクターの服まで着て、こんな危険な真似をしたのか」  レポルトの口調はいつになく荒く、本気で怒っているようだった。しかし、リナはそんなことなど意に介さず、自分の話を続けた。 「あなたがシスターをやっている理由を、私なりに考えてみたの。男であるあなたがシスターをやる理由、それは、マザーにあるのでしょ

          流れ星の向こう 11話

          流れ星の向こう 10話

           コツン、コツン…。  足音が廊下に響き渡る。 「ヴィクター、早く部屋に戻りなさい」  ヴィクターと呼ばれた少年は、コクリと頷き、歩いて行く。  そして、ある部屋の前で立ち止まり、コンコンとノックをした。  ガチャっとドアが開き、出てきた人間は、ヴィクターを見るなり、顔を強張らせた。  そして、ヴィクターを部屋に急いで招き入れ、鍵を閉めた。 「どういうつもりだ」  部屋主が言った。  ヴィクターは笑って言った。 「流れ星の向こうを見に行かない?」

          流れ星の向こう 10話

          君へ

           久しぶりに見た君は、みんなの輪に囲まれていた。  少し変わった君を嬉しく思い、また、少し寂しさを感じた。  それから、私はたいした会話をすることもなく、その場を去った。  さよならは言わなかった。また、いつか、会うような気がしたから。  それは私の願いかもしれないし、そうでないかもしれない。  けれども、きっと、私は君を忘れない。  もうあの頃のような感情は持っていないけれど、君は私にとって、とても大切な人だから。  だから、だから、どうか、幸せに。

          新しい道に進もうと思う。 それは、いばらの道。されど、きぼうの道。

          新しい道に進もうと思う。 それは、いばらの道。されど、きぼうの道。

          あけぼの草

           春色の蕾が、ぷっくりと頬を膨らませた。  もうすぐこの子は、咲くのだろうか。頬に溜めた空気をふっと吹き出して、微笑むのだろうか。私は笑う気分になれないのだが。  呼吸をする度、暖かくなった空気が体に入ってくる。それとともに、荒んだ心がほぐれていくような気がした。おそらく、悩みが尽きることはない。しかし、人はどんなことでも乗り越えられるのだろう。  冷たい風とともに、覚えのある香りがした。あの子だ、と私は思った。私は勢いよく顔をあげ、辺りを見渡したが、どこにもあの子の姿はなか

          あけぼの草

          月下美人

           それは 始まるときは 突然で  あっけなく 終わってしまうもの  それは ぼんやりとした世界を  鮮やかに 変えてしまうもの  それは 人を  生まれ変わらせるもの  それは 枯れない恵みを  人に 施すもの  それは 豊かな心を  人に 与えるもの  それのおかげで 輝けることを  幸せな気持ちに なれるんだということを  私は 君に 教えてもらった

          月下美人

          久しぶり、note。 ただいま、note。 ありがとう、note。 いってきます、note。

          久しぶり、note。 ただいま、note。 ありがとう、note。 いってきます、note。

          流れ星の向こう 9話

           リナは笑った。彼女の笑い声が、部屋にこだました。  レポルトがシスターであったことは、予想外であったが、ショックを受けたのは、それを知った時だけであった。動揺する自分の奥底で、計画実行のために頭を働かせる自分がいたのだ。しかし、レポルトがシスターであると言う事実により、計画の実行は絶望的になった。リナは何年もかけて練った計画を、また一から作り直さなければならなかった。リナは途方に暮れた。希望を失いかけた。しかし、彼女が奮い立たせてくれたのだ。  エスティアには感謝しなけ

          流れ星の向こう 9話

          舵を取れ

           少し疲れた日には、決まって深呼吸をする。  すると、肺の中に新しい空気が入ってきて、新しい自分に生まれ変わる。  そんな時の私は、自然と歌を口ずさみ、心も体も踊っている。  スキップをしながら買い物をし、回りながら料理をする。水の音楽を聴きながら、デッキブラシと一緒にダンスをする。  想像力の船に乗ってしまえば、何でも遊びだ。  やらなければいけないこと、やりたくないことを、やりたいことに変えてしまう。それが、人間の脳の力だ。

          舵を取れ

          ブラックコーヒー

           終わってしまった。淡い桜色は、ふわっとどこかに消えていった。甘いような、酸っぱいような、そんな味はもうしない。口の中でとろけるような、まろやかな食感も、もうしない。残ったのは、ほろ苦い大人の味。  ずっと僕は夢の中にいたのかもしれない。届くはずのないものを、追いかけていたのかもしれない。届かないと思いながら、君の隣にいる僕を想像する日々。自分から何かを起こすわけではなく、ただ、側にい続けることを、密かに、けれども切に願っていた。  あるとき、僕は悟ってしまった。僕が君に相応

          ブラックコーヒー

          咲いていて 私たちの 希望の華

          咲いていて 私たちの 希望の華

          私はとても幸せな人間なのかもしれない

          私はとても幸せな人間なのかもしれない