弦綺

詩や小説、随想を主に書いています。 暖かい目で見守っていただけると幸いです。

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マガジン

  • 流れ星の向こう

    夢を失った全ての人に告ぐ。これは少年少女が繰り広げた、夢と希望の物語だ。  修道院に住むリナはある出来事をきっかけに、シスターに逆らうことを決意する。待ち受ける波乱を乗り越え、流れ星の向こう側にたどり着くことはできるのか。 最後まで彼らの冒険譚を見届けていただきたいと思う。

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小さな灯火を

 私はバス停の前のベンチに座っていた。 「寒い…」  こんな日に限って、薄着をしてきた自分自身を恨みたい。  バスが来るまで、後、三十分もある。近くに店もない。  どうしよう…と途方に暮れていると、ふと、カイロが目の前に現れた。  驚いて顔をあげる。  そこにはカイロを差し出す青年の姿があった。 「落とし物です」  私はカイロなど元々持っていなかったはずだ。 「えっ、私のじゃ…」  ありません、と言おうとしたが、青年の言葉に遮られた。 「落とし物です‼︎」  あくまでも、そう

    • 新しい道に進もうと思う。 それは、いばらの道。されど、きぼうの道。

      • あけぼの草

         春色の蕾が、ぷっくりと頬を膨らませた。  もうすぐこの子は、咲くのだろうか。頬に溜めた空気をふっと吹き出して、微笑むのだろうか。私は笑う気分になれないのだが。  呼吸をする度、暖かくなった空気が体に入ってくる。それとともに、荒んだ心がほぐれていくような気がした。おそらく、悩みが尽きることはない。しかし、人はどんなことでも乗り越えられるのだろう。  冷たい風とともに、覚えのある香りがした。あの子だ、と私は思った。私は勢いよく顔をあげ、辺りを見渡したが、どこにもあの子の姿はなか

        • 月下美人

           それは 始まるときは 突然で  あっけなく 終わってしまうもの  それは ぼんやりとした世界を  鮮やかに 変えてしまうもの  それは 人を  生まれ変わらせるもの  それは 枯れない恵みを  人に 施すもの  それは 豊かな心を  人に 与えるもの  それのおかげで 輝けることを  幸せな気持ちに なれるんだということを  私は 君に 教えてもらった

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        小さな灯火を

        マガジン

        • 流れ星の向こう
          10本

        記事

          久しぶり、note。 ただいま、note。 ありがとう、note。 いってきます、note。

          久しぶり、note。 ただいま、note。 ありがとう、note。 いってきます、note。

          流れ星の向こう 9話

           リナは笑った。彼女の笑い声が、部屋にこだました。  レポルトがシスターであったことは、予想外であったが、ショックを受けたのは、それを知った時だけであった。動揺する自分の奥底で、計画実行のために頭を働かせる自分がいたのだ。しかし、レポルトがシスターであると言う事実により、計画の実行は絶望的になった。リナは何年もかけて練った計画を、また一から作り直さなければならなかった。リナは途方に暮れた。希望を失いかけた。しかし、彼女が奮い立たせてくれたのだ。  エスティアには感謝しなけ

          流れ星の向こう 9話

          舵を取れ

           少し疲れた日には、決まって深呼吸をする。  すると、肺の中に新しい空気が入ってきて、新しい自分に生まれ変わる。  そんな時の私は、自然と歌を口ずさみ、心も体も踊っている。  スキップをしながら買い物をし、回りながら料理をする。水の音楽を聴きながら、デッキブラシと一緒にダンスをする。  想像力の船に乗ってしまえば、何でも遊びだ。  やらなければいけないこと、やりたくないことを、やりたいことに変えてしまう。それが、人間の脳の力だ。

          舵を取れ

          ブラックコーヒー

           終わってしまった。淡い桜色は、ふわっとどこかに消えていった。甘いような、酸っぱいような、そんな味はもうしない。口の中でとろけるような、まろやかな食感も、もうしない。残ったのは、ほろ苦い大人の味。  ずっと僕は夢の中にいたのかもしれない。届くはずのないものを、追いかけていたのかもしれない。届かないと思いながら、君の隣にいる僕を想像する日々。自分から何かを起こすわけではなく、ただ、側にい続けることを、密かに、けれども切に願っていた。  あるとき、僕は悟ってしまった。僕が君に相応

          ブラックコーヒー

          咲いていて 私たちの 希望の華

          咲いていて 私たちの 希望の華

          私はとても幸せな人間なのかもしれない

          私はとても幸せな人間なのかもしれない

          甘え

           不条理なことがある度に、どうして?と思う。  うまくいかないことが多いことは、よくわかっているはずなのに…。  その度、その度、悲しくなる。  そうか、この人には届いていなかったのか、と。  この人に、そんな価値がなかったのか、と。  与え続けることはできるけれど、それでも返してもらいたい。  そう思うことは、普通のこと?

          「ほら、ね」と私は微笑む。

          「ほら、ね」と私は微笑む。

          手紙

           ふと、思った。  一見したら、意味のない言葉に、  思いが込められているかもしれない、と。  読み返して、読み返して、  そうして、気づく。  書き手の意図に。  それに気づいた私は、  無性に感謝したくなった。

          流れ星の向こう 8話

           リナはただ人形のように生活していた。生きる光と活力を奪われた瞳は、かつてのリナを彷彿とさせた。もっとも、以前よりつまらない人間と化してしまったかもしれないが…。 「リナ…」  寝室でうずくまっているリナに、エスティアが声をかけた。 「…」 「リナ!」  エスティアが少し声を荒げた。 「放っておいて!」  エスティアの顔から表情が消えた。  彼女はツカツカとリナのベッドに歩み寄り、布団を無理やりとった。 「何よ!」 「リナはもっと頭がいいと思ってた」  そう言い捨てて、エス

          流れ星の向こう 8話

          流れ星の向こう 7話

          「冗談でしょう?」  レポルトは首を振る。 「冗談だと言って」  レポルトは顔を歪めた。 「ごめん…」  リナはその場に座り込み、ただ、涙を流していた。

          流れ星の向こう 7話

          流れ星の向こう 6話

          「ご、ごめんなさい」  リナは地面に伏せ、許しを乞う。 「静かに」  その声を聞いた、リナは顔を上げる。 「レポ…ルト」  シスターは何も言わない。 「レポルトでしょう?」  シスターは依然と黙っている。 「どうして、止めたの?」  リナは彼に縋り付く。 「ねえ、どうして…?」 「俺が…」  ようやく、口を開いた彼は、こう言った。 「俺が、この修道院のシスターだからだ」

          流れ星の向こう 6話