ブラックコーヒー
終わってしまった。淡い桜色は、ふわっとどこかに消えていった。甘いような、酸っぱいような、そんな味はもうしない。口の中でとろけるような、まろやかな食感も、もうしない。残ったのは、ほろ苦い大人の味。
ずっと僕は夢の中にいたのかもしれない。届くはずのないものを、追いかけていたのかもしれない。届かないと思いながら、君の隣にいる僕を想像する日々。自分から何かを起こすわけではなく、ただ、側にい続けることを、密かに、けれども切に願っていた。
あるとき、僕は悟ってしまった。僕が君に相応しくないことを。僕と君は違う世界の住民なんだということを。どうして、僕は努力を怠ってしまったのだろう。どうして、僕は諦めてしまったんだろう。何度もあったではないか、君の隣にいる機会は。本当は君が欲しい。
屈託なく、笑う君が好きだ。成功して、嬉しそうにする顔も。真剣な顔も。一生懸命頑張るところも。最後まで諦めないところも。さりげない気遣いも。全部。君といたい。一緒にいたい。誰にも、渡したくない。
でも、僕には勇気がない。自分の思いすら、口にできない。
でも、でも、変わりたい…!
君は少し驚いたような顔をする。そして、微笑む。
「ありがとう」
その言葉だけで十分、胸がいっぱいになった。
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