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東大生の米談義 番外編 -最近のお米動向- #6

Podcast「東大生の米談義」の番外編となるお米News #6です


先日Podcast#4を配信しました。
(毎週土曜日16時頃更新)
ご感想お待ちしております!(Instagramも更新中!)


食と命の循環

Kimono Momをご存知だろうか。
元舞妓・芸妓のMOEさんが着物が溶け込む等身大の日常生活を発信するYoutubeの登録者数は現在293万人、SNSの総フォロワー数は約600万人にのぼる。

着物に割烹着姿で家庭料理を作り、英語を交えてレシピを解説するスタイルは一世を風靡し開設して1年で70万人近くの登録者数を獲得した。

そんなKimono momが手がける、アマゾンUSの醤油部門にて一番欲しいものランキング1位を獲得した「UMAMI SAUCE」が国内での一般販売を大泉工場NISHIAZABUでスタートした。海外で流行った日本食の’逆輸入’である。

最近アボカドロールという寿司とは似ても似つかないものを食べたがこれが意外にも美味しかった。インバウンドや日本料理の動画配信によって広まった日本食は海外の文化に揉まれて日本へ戻り、日本食に新たな刺激と進化をもたらしてくれるのかもしれない。

RICE DAOもその一助となるべくはじめは日本語のみで投稿していた動画も英語字幕の活用を進めている。日本食へのさらなる関心の呼び水となりたい。


日本食隆盛の一方で、それを支える水産業は問題を抱えている。

高水温が続いたことに加え、赤潮の発生がノリの成長を阻みノリ相場が過去最高という。養殖技術が確立した1980年代以降で最も状況が悪く、「不作を超えた凶作」という声もある。お米と違って越年在庫もなく品薄のため相場は2年間で2倍近く上昇しているそうだ。

日本の水産業において資源調査・評価関連の予算は「米国の4分の1ほど」と言われ、和食のだしを支えるコンブや各地の食文化を支える沿岸魚種への科学調査・管理が遅れていることへの指摘を含む政府への提言が5月27日に提出された。

コロナ禍明けの今年1~2月の訪日旅行者数が、インバウンド消費が日本の主要輸出品目として自動車に次ぐ第2位の金額となった2019年同期比で3%増加したことから日本食の柱となる水産物の経済効果を強調していた。

提言で訴えられた補助金に依存しない漁業のビジョンを描く必要性や、事業者や消費者が持続可能な水産物を見分けて応援できるような情報発信体制とトレーサビリティーの整備は、お米産業でも同様のことが言えよう。

そして産業構造だけでなく農業と水産業は実際、繋がっている。

サンフランシスコから田植えニュースで季節を感じていた中見つけた記事によると、秋田県仙北市角館町では田植え体験の前日に海洋ごみ問題を学んだそう。米作りの過程において肥料で使用するプラスチック皮膜などが予期せぬ形で海に流れ着いている現状を知ったと言うが、他にも「富栄養化」も問題視されている。

#3でも紹介した宮城県東松島市の木村正明さんを訪問した際、海苔漁師の相澤太さんとお話しする機会をいただいた。詳しくはこちらの記事を参照いただきたいが、とにかくその本気度にあてられた。

「肥料の三大要素」とも言われる窒素・リン酸・カリウムは生物が生存するために必須の栄養素で、元来動植物や人間を介しながら自然界でゆっくりと循環するものだったが、人工的に大量生産され化学肥料に多く含まれるようになった。
それも安価で即効性があるとして、この50年間で化学肥料の使用が約10倍に増加し、窒素は2020年時点で年間1億5000万トン以上が使われ、その半分は川や海へと流れ出ていたという。

大量の窒素やリンが水域に流れ出ると栄養分が豊富になりすぎる「富栄養化」が起き、それを餌とする植物プランクトンが異常発生して赤潮を引き起こす原因となる。農業は海洋とも、水産業とも繋がっている。

最後に、農地での窒素肥料がCO2の300倍の温室効果を持つ亜酸化窒素(N2O)の放出を加速することから、気候変動といった地球への影響を持ち得ることに触れておこう。

農業と水産業、陸と海、大気、生態系、そして地球の命はみな繋がっている。


24年産の動向

依然として米の値上がりが取り沙汰されるが、より大局を見たい。

2018年(平成30年)から減反政策が廃止されたことはPodcast初回でもお話しした通りだが、もう少し噛み砕くとこうだ。
それまでは、国が生産数量目標を配分し、それが県協議会、地域協議会へと細かく配分されていき稲作農業者の生産数量が決められていた。
30年産以降は、県協議会が国の情報提供をもとにそれぞれで生産指標を提示し、またそれを受けた地域協議会が需給動向と農業者の意向を考慮して生産目標を稲作農業者へ配分するようになった。(岐阜県農業再生協議会)

つまり生産者や集荷業者・団体の主体的な経営判断や販売戦略に基づき、需要に応じた米生産ができるようになったわけで、以降政府の役割は「米の流通に係るよりきめ細かい需給・価格情報、販売進捗・在庫情報等の提供」のみとなったのである。

注目の集まる令和5年産の状況(農林水産省)は5月31日にアップされ、令和6年4月末現在の出荷業者の全国の集荷数量は対前年同月差▲13.2万トン、販売数量が対前年同月差+7.5万トンであることから需給のギャップが数字で見て取れるようになっている。

こうした情報をもとに各産地の作付け意向が決まるわけだが、今年は全国ベースで増産となる見通しで、実現すれば6年ぶり、つまり平成30年からの新たな米政策ぶりであるという。

日経新聞「24年産米が増産へ 昨夏の猛暑受け高騰、農家意欲」によると24年産米の増産見通しについて、コメ卸は現時点で「24年産米の値下がり要因になる」とみる一方で、気象庁によると6〜8月は気温が平年より高くなるといい、暑さによる生産の下振れリスクは今年も拭えないのだそう。

こうした需給の絶妙な読み合いとは別軸で進む温暖化は価格変動の調整をより難しくしているわけだが、これに関して興味深い動画をYoutubeで見つけた。

【米の王者 陥落の危機】と題したYoutubeはカンテレNewsにより投稿されたもの。1956年に誕生し王者として君臨してきた『コシヒカリ』が酷暑による胴割れ、すなわち米粒の内部に亀裂が生じる現象により精米時の歩留まりや食味が低下している。

暑さに強いお米が近年のブランド米の開発傾向の特徴だと話したところだが、価格動向予測の安定においてこれらのお米が果たす役割は大きい。

時代のうねりは近い将来、コシヒカリという絶対王者を倒す’新米’を産むだろう。


気になるお米

日本酒が大好きな自分は、お米の中でも酒米のニュースはいつも見入ってしまう。

田植えの中でも酒米は特にワクワクする。山形市滝山の酒米研究会では、学生と地元農家のコラボで復活栽培された酒米「玉苗」の田植えを行った。
「玉苗」は「譲川」として山形市の蔵元「秀鳳酒造場」で純米吟醸として醸され、地域の酒販店だけで販売されるそう。

福岡県糸島では酒蔵、日本酒バー、そして〈いとしまシェアハウス〉が主体となり、それぞれの声掛けで集まった一般参加者さんと1年間みんなで育てた棚田のお米をお酒にする「クラフトサケ・プロジェクト」が行われた。

新潟県湯沢町では地域で育てた酒米と町内の水を使い新しい地酒を造る「日本酒テロワールプロジェクト」が始動しており、地域を巻き込み限定販売によりブランド化を図る日本酒はこれからもどんどん増えていくだろう。

最近読み始めたワイン漫画「神の雫」では、主人公神咲雫がワインを飲む際そのワインの作られた土地の情景が浮かぶシーンが印象的だが、自分も将来、日本酒を飲んだ時に土地土地の情景や地域の空気感を思い起こすことができるような人間になりたい。

他に面白い取り組みとして、新潟駅で販売される「食べくらべセット」では「魚沼産コシヒカリ」「ミルキークイーン」「新之助」というお米業界のトップスターの食べ比べができる。口で言っても伝わらないので口に入れてしまえというのは、是非とも真似したい考え方である。

最後に、政府が花粉症対策の1つに位置づけている「スギ花粉米」の開発について。

「スギ花粉米」は、花粉症の症状の緩和を目指して茨城県つくば市にある農研機構=農業・食品産業技術総合研究機構が2000年に開発を始めたもので以前から注目を集めてきた。
仕組みとしてはまず、スギによる花粉症の原因物質の一部を作る遺伝子をイネに組み込み、コメの「PBー1」というたんぱく質のなかにその原因物質を蓄積させる。このたんぱく質が胃液などに消化されにくい性質があることから、口から摂取しても花粉症の原因物質が分解されずに多くの免疫細胞が働く腸に届けられるという。

ただ、実用化にはうまくいっても5年10年を想定しており、まずは医薬品の原料として実用化を目指す方針だ。農林水産省では30日の議論も踏まえて方針をまとめて近く公表することにしているそうなので、楽しみに待とう。


お米とフードロス

フードロス解消の取り組みの広がりを各方面で感じる。

2012年、当時国連事務総長であった潘基文氏が「Zello Hunger Challenge」を宣言し、その際に定めた5つの目標の一つとして「責任ある消費を含め、食糧ロスまたは廃棄をゼロとする」を掲げた。それを踏まえフランスで「半フードロス法」が可決されて話題になり、こうした動きの中で日本でもフードロスに対する意識が高まっているという。(『値付けの思考法』日本実業出版社)

東京都渋谷区に本社を構える株式会社カウシェは廃棄する可能性もあった訳あり品を買取しお買い物アプリ「カウシェ」上で販売する事業を行っている。2021年の日本でのフードロスの量は年間523万トンである中で、「カウシェ」を通して販売した累積は約1ヶ月で約40トンに達したということからそのインパクトの大きさが窺える。

同社は、提供する農園ゲーム「カウシェファーム」でお米を育てるともらえる収穫品として九州の米農家にて収穫された「古米」を追加するそうだ。

同様のプロジェクトとして、亀田製菓は5月23日、米の副産物を有効活用し環境にやさしいビジネスモデルを確立するアップサイクルプロジェクト『Re Kameda』を開始。第1弾として、食べられない米を紙に変えた「おこめ名刺」を導入した。

名刺の制作にあたっては老舗紙屋であるペーパルとの協業開発を実施し、ペーパル社が紙の表面に塗る薬品の一部をお米に代替する技術を開発したことで、CO2排出量の削減が実現されて環境に配慮した名刺が誕生したそう。

猛暑により質が悪化したお米も捨てられることなくこうした形で利用されるのは、フードロス削減に繋がるとともに新たな収益機会を生み出している。

Podcastでも話したCSV戦略やマーケティングコンセプトの変遷という観点においても、こうした経済性と社会性を両立した企業活動は増えていくことだろう。

本日6月4日付でアメリカでの登記申請を済ませた当社も、お米フードロス解消に向けたリーディングカンパニーとなりたい。


ここまで読んでいただきありがとうございます!
次回もお楽しみに!

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