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【長編小説】二人、江戸を翔ける! 4話目:江戸城闖入記④

■あらすじ
 ある朝出会ったのをきっかけに、少女・|凛《りん》を助けることになった隻眼の浪人・藤兵衛とうべえ。そして、どういう流れか凛は藤兵衛の助手かつ上役になってしまう。これは、東京がまだ江戸と呼ばれた時代の、奇想天外な物語です。

■この話の主要人物
藤兵衛とうべえ:主人公。隻眼の浪人で、傘張り仕事を生業としている。
りん:茶髪の豪快&怪力娘。『いろは』の従業員兼傘貼り仕事の上役、兼裏稼業の助手。
ひさ子:藤兵衛とは古い知り合いのミステリアスな美女。
えり、せり、らん:いろはの従業員で、凛の同僚。

■本文

 よろづや『いろは』の料理店は人気があり、いつも大勢の客で賑わっている。値段が手ごろで料理がうまいこともあるが、矢絣やがすりの着物に紺のはかまという風変わりな従業員の制服と、それを着た可愛い従業員が多いことも理由の一つである。

「じゃあこれ、六番さんね!」

「はいよ!」

本日も客の入りは上々で、凛たちは忙しく立ち回っている。
客や従業員の話し声で賑わっていたのだが、ある人物が店に入ってくると店のざわつきがいっそう増した。

その人物とは、ひさ子であった。

「「おお・・・」」

「「すげえ・・・ 美人」」

客のほとんどが男のせいもあってか、多くの客がひさ子を一目見ては感嘆の声をあげていた。
それほど容貌は周囲から抜きんでていた。

ひさ子は誰かを探しているらしく、きょろきょろと周囲を見回すと、近くにいたえりを呼び止める。

「ちょっと、ごめんなさいね」

「・・・あ、は、はい!」

「ここで、凛っていう娘が働いているって聞いたんだけど、どこにいるのかしら?」

「あ、凛、ですか? え~と・・・ あ! あちらですね」

えりは顔を少し赤らめて凛がいる場所を指さす。
教えてもらったひさ子はえりへ礼を言うと、凛に近づいていった。

「ちょっといいかしら?」

「はい! ・・・って、ひ、ひさ子さん!」

忙しく働いていた凛は、声をかけてきた相手がひさ子だったため驚いてしまう。

「もう、お梅さんとのお話は終わったんですか?」

「ええ。・・・忙しい中悪いんだけど、ちょっとお話する時間、ある?」

「え、ええ」

そうしてひさ子は凛と連れだって、店を出ていった。
外に出て店から少し離れた所で二人は足を止める。

「それで、お話っていうのはなんですか?」

「そうね。あなたには、ちょっと忠告しておこうかと思って」

凛から切り出すと、ひさ子は意味ありげな顔をした。

「忠告?」

「そ。あんまり、藤とは関わらない方がいいわよ」

「・・・それは、白光鬼はっこうき、だからですか?」

「あら。そこまで知ってるのね。それもあるけど、深く関わるほど、後々深く傷つくかもしれないわよ」

ひさ子の目を見て、

(これは・・・ 挑発してるのね!)

と感じた凛は気持ちを落ち着かせようとする。

「お梅さんと同じこと言うんですね。だったら、私が言うことも同じです」

「・・・どんな?」

凛は口調が荒くなってきたが、ひさ子は努めて冷静だ。

「私が好きでやってるんだから、関わる関わらないは自分で決めます! それに、私が藤兵衛さんと関わることは、そもそもひさ子さんには関係ない話でしょ!」

「関係あるって言ったら?」

「え?」

予想外反の答えが返ってきたので、凛は戸惑ってしまう。
そんな凛にひさ子は近づくと、耳元でそっと囁いた。

「私と藤はあなたよりも、ず~っと関係が深いの。知り合ったのだって、ず~っと昔から。・・・あなたも子供じゃないんだから、これの意味、わかるでしょ?」

(え? え? そうなの!? じゃあ、やっぱり恋人・・・)

凛は大いに動揺し、動悸が早まっていく。次の言葉が出ず、しどろもどろになっていると、

「仕事仲間としてね」

と、これまた凛の考えと違うことを言ってきた。
ひさ子はにいっと艶美に笑う。凛にはその目が『あなたの考えてることなんてお見通しよ』と語っているように見えた。

「か、からかわないでください!」

凛は顔を真っ赤にしてやっとの思いで返すと、ひさ子はくすくすと笑って更に畳みかけてくる。

「まあ、そっちの方面でも、あなたが望むなら? 頑張ればいいけど? でも・・・」

「で、でも・・・?」

「あなたじゃ、遠そうだけどね」

「・・・・・・」

きっぱりと言われ、凛は頭が真っ白になる。ひさ子はその様子を楽しそうに見ると、

「話はそれだけ、じゃあね~」

と、言い残して去っていった。
凛は暫く呆けていたが、やがて腹の底から怒りがふつふつと込み上げてきた。

(な、なんなの、一体!? あの女~~~、言いたい放題言いおって~~!!)

ひさ子の後ろ姿に向かって、凛は歯ぎしりと同時に怒りをぶちまける。

 一方、三人娘は二人のやりとりを仕事そっちのけでしっかりと観察していた。

「凄かったわね~、あの人。・・・ね、ね、やっぱ藤兵衛さんの昔の恋人とかなのかな?」

「多分、そうね。でも、そうだとすると・・・ 凛に勝ち目、あると思う?」

「・・・悲しい程、ゼロに近い」

などと好き勝手に感想を述べるが、それらは全て凛に聞こえていた。

「あんたたち! さぼってないで、仕事しな! 仕事!(怒)」

結果、怒りの収まらない凛から、きつ~いゲンコツを頂くのだった。

「いった~!」

「て、手加減してよ~!」

「・・・馬鹿力!」

つづく

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