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【長編小説】二人、江戸を翔ける! 4話目:江戸城闖入記⑥

■あらすじ
 ある朝出会ったのをきっかけに、茶髪の少女・りんを助けることになった隻眼の浪人・藤兵衛とうべえ。そして、どういう流れか凛は藤兵衛の助手かつ上役になってしまう。これは、東京がまだ江戸と呼ばれた時代の、奇想天外な物語です。

■この話の主要人物
藤兵衛とうべえ:主人公。隻眼の浪人で、傘張り仕事を生業としている。
りん:茶髪の豪快&怪力娘。『いろは』の従業員兼傘貼り仕事の上役、兼裏稼業の助手。
ひさ子:藤兵衛とは古い知り合いのミステリアスな美女。

■本文

 三人は早速、城内の建物に近づく。
 そこには一本のがぶら下がっており、それをひさ子が引くとカパッと出窓の枠が外れた。

「へ~、準備いいですね」

「ふふ。こういう大仕事ほど、事前の準備が重要なのよ。さ、ここから入るわよ」

 凛が素直に感心すると、ひさ子は一丈程(約三m)はある高さを軽やかに跳んで窓へと到達する。
次いで、藤兵衛も荷物を持ったままひさ子の後に続いた。

「さ、次はあなたの番よ」

「・・・これるか?」

「ゔ・・・」

かなりの高さであったがが、この程度で挫ける凛ではなかった。

「ふふん、江戸っの力、見せてやるわ」

そう言って気合を入れると、

「えぇぇえい!」

と、壁を駆け上りながらの大跳躍!

「「おぉ!」」

目標地へ美しく到達・・・ のはずが窓を通り過ぎ、ひさしに激突してしまった。

ぎゃん!

「「・・・・・・(汗)」」

緩やかに落ちていく凛を藤兵衛が捕まえ、城の中へ引きずり込むが凛は既に気を失っていた。

「・・・体力だけは、合格ね」

「だろ?」

ひさ子の呟きに、藤兵衛が返すのだった。

 凛を復活させた後、三人は江戸城内を進み出す。
 忍び込みのため灯りの類は持たなかったが、城内には灯りが所々ともされており、それを利用して薄暗い中を進んでいく。

「そう言えば、今回の目的って何なの?」

ここで、凛が小声で藤兵衛に尋ねてきた。

「たしか、依頼主の盗まれたお宝が巡り巡って、江戸城内に持ち込まれたらしい。で、それを取り返すってのが今回の仕事だ。・・・だったよな? ひさ子」

「ええ、『大体』合ってるわ」

(ホントは訓練なんだけどね。でも、途中でいい物があれば頂戴するつもりだし、それをしても構わないって話だったから嘘をついた訳ではないわね)

ひさ子は『大体』と表現したところに、色々な意味を含ませて答えた。

「お宝っていうのは?」

「小さくて、光っていて、高値で売れそうなものよ。大丈夫、私が把握しているから」

凛の問いには、あやふやなことを言ってごまかした。

「・・・お前にしては、随分大雑把だな」

「そう?」
(やば。藤ってば、もしかして勘付いたのかしら?)

「・・・しかし、天下の江戸城が随分頼りないな」

 ひさ子の不安は藤兵衛の方から話題をそらしたため、解消する。ひさ子は小さく息をつく。そして、城内の様子は確かに藤兵衛の言う通りであった。
 警備の侍はいるが、雑談ばかりしている者や囲碁や将棋に興じている者、ぼ~っとしていたり寝ていたりする者がいたりと、緩みきっている様子が見てとれた。

「ホントね」

凛も大いに驚いている。

(確かにこれじゃ、側用人様が不安になるのもわかるわね。・・・まあこちらとしては有難いけど。このまま順調に進んで『あいつら』に会わなければ楽勝かもね)

事情を知っているひさ子は驚きはせず、別のことを考えていた。

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 城へ忍び込んで一刻ほど(約二時間)は経過した。三名は少し進んでは見取り図を開いて確認、また少し進んでは確認、と慎重に歩を進めている。
ある時になって突然、

「む。こっちよ!」

と凛が叫び、方向を変えた。
藤兵衛は初仕事での出来事を知っているため、

(また、野生の勘でも働いたか?)

と、ひさ子にも合図をし、凛の後を追う。
すると行き着いた先は台所であった。そこは今日の仕事は既に終わった後なのか、誰もいなかった。

「いい匂いがしたのよね。小腹も空いたし、ちょっとつまんでかない?」

 凛は言いながら棚を開けて中に入っている物を食べ始めている。
 その様子を見た藤兵衛とひさ子は呆れたが、そろそろ小休憩を入れようと考えていたこともあり、丁度いいと凛に続く。

「む、さすが天下の江戸城。旨いもの食ってるな」

「確かに・・・ 庶民から税を取っては、こんな贅沢なもの食べてるのね」

そうして一通り食べた後はお茶を淹れるなど、泥棒一行はやりたい放題だった。お茶を飲み落ち着いたところで、三名は次の行動を開始する。

「よし! これで、元気満タンよ!」

「・・・お前、時々すごいよな」

そんな会話を交わす二人を見て、ひさ子は、

(なんだかあの娘のペースに巻き込まれてるような・・・ まあ、いいわ)

と感じたが、あまり深くは考えないようにするのだった。

つづく

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