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【小説】とあるおウマさんの物語(18話目:宴と、取材と)

前回までのあらすじ

理念は「2着こそ至上」。能力はあるけど、上は目指さず気ままに日々を暮らしていた1頭の芦毛の競走馬:タマクロス。

なんだかんだで初挑戦の重賞でも2着となり、ついにGⅠ出場となってしまう。そうしたら主戦ジョッキーの「GⅠ出場に必要な勝利数が足りない事件」が勃発。鈴木厩舎の人馬の頑張りにより、なんとか必要勝利数を確保する。

本文

小坊主をG1出場させるプロジェクト『小坊主プラス3』が無事完遂し、かつ宴会予算も削られなかったということで、今夜は盛大な宴が催されていた。どちらかと言うと、馬にとっては後者の方が重要だったのだけど・・・。

ともかくメグロマックが勝利し、更にはジンロ姐さんにも久しぶりの勝ち星が上がった事もあり、大いに盛り上がっていた。 人間側をちらと見ると、小坊主がダブル鈴木の調教師とオーナーに挟まれ、次々と杯を重ねている。

(こりゃあ、今夜もゲロまみれかな。)

そう確信する俺。一方、こちら馬側も今夜の主役であるマックと、ジンロ姐さんが杯を重ねていた。
 
「・・・プハー。あ~、おいしい~~!」

「今夜の酒は、格別でござるな~!」

二頭の間には鈴木厩務員その三さんが酒瓶を持って、何故かお酌係をしている。担当馬が二頭とも勝利し、嬉しいのだろう。
 
「いや~、良かったですね姐さん。特に最後の飛越は見事でしたよ。」

俺は素直に感動したと話す。

「私も驚いたわよ。まさか、前の三頭が皆大コケするなんてね。無我夢中で飛んだからよく覚えてないけど・・・。でもきっと、鈴木騎手とタマが揃ってGⅠ出場出来るようにっていう、神様の思し召しなのかもよ。」
 
「そうっスよ! 自分の場合は、小坊主が最初に宙を飛んだんスけどね!」

グラスワインダーのこの発言に、皆大笑い。

「飛んだと言えば・・・、某もある時から記憶が飛んで、得体の知れない何かから逃げ回っていたら勝利していたのでござるが、あれはなんだったのだろう・・・?」

「「・・・・・・」」
 
このマックの発言に、主犯であるジンロ姐さんは気まずくなったのか、

「やあねえ、マック。夢でも見てたんじゃないの? 別に勝ったからいいでしょ? さぁ、飲んで飲んで!」

と、マックに酒を勧めた。

「そうか、夢でござるか」

するとマックは勧められるままに酒を飲んでいく。
 
 
(上手くごまかしましたね・・・)

その様子を見た俺は、姐さんのかわし方に感心していた。
 
「ところで・・・姐さんの勝利って久方振りって聞いたけど、実際どれぐらいなんや?」

ここでメシちゃんがひょんな事を聞いてきたが、これが地雷だった。

「え? 確か、俺のデビュー前だから、4年ぐらい前でし・・・!?」
(しまった! 姐さんの年に関する話題は禁句だった!)

ゆっくり姐さんの方を見ると、表情が固まっている(汗)。
 
周りを見ると、マックとオルフェーブーはあらぬ方向を見て我関せずを決め込んでおり、グラスはにやにやしながら(やっちまいましたね?)的な視線を送ってくる。それでも俺は恥を忍んでフォローしてくれと、グラスに目で合図を送る。
 
すると、グラスは心得ましたと目で返答をした。

「そんなに前じゃなかったっスよ。確か、ジンロ姐さんがまだ、うら若き乙女の頃だったっス!」

「・・・・・・(汗)」

グラスはナイスフォローを入れたつもりなのだろうが、余計に地雷を踏む結果となってしまった。
 
「タマ、グラス。今夜は私と飲み比べしよっか?」

満面の笑みだが、目の横に怒りマークが浮かんでいるジンロ姐さん。危険を察知したのか、きっかけを作ったメシアマゾンは脱兎の如く逃げ去って行く。
 
こうして俺とグラスは夜遅くまでジンロ姐さんに付き合わされ、翌日は猛烈な二日酔いに襲われるのだった・・・ (泣)
 
ーレース五日前―
 きつかった二日酔いを乗り越え、俺はGⅠに向けて割と真面目に調教をこなしていた。レースまで残り五日となったこの日、調教に向かうと見物席の所に人だかりが出来ていた。近付くと、その人たちは以前にもうちに取材に来たマスコミの人たちであった。
 
「前回の反省で、今回はセンパイが走ってるところを取材するらしいっスよ。」

いつの間にか、隣にいたグラスワインダーが話しかけてくる。

(なるほど。前回は調教師のおっさんの独壇場だったからねぇ。同じ轍は踏まないって訳ね。)

前回の取材を思い出し、納得する俺。
 
 今日の調教は併せ馬というもので、他の馬と並んで走り、合図が出たらスピードを上げて抜き去るという調教だ。鞍上は本番でも手綱を取る鈴木小坊主君。あのプロジェクトで何かを乗り越えたのか、ここ最近の調教はかなり気合が入っており、顔付きも少し凛々しくなった、・・・気がする。
 
ぶぉおっ!
 
そう思っていたが、俺に跨った状態で小坊主は盛大な屁をかましやがった。

(やっぱダメだな、こいつ)

前言撤回し、呆れながら調教を開始した。
 
 結局、今回の取材は俺にとっては調教中にカメラを向けられたのと、マイクを持ったお姉さんが何かを話していたのを見た、程度ぐらいだった。

(さぞかし無難な取材になったかな?)

そう思っていたが、そうでもなかったらしい。
 
グラスから聞いたのだが、マスコミはなるべく調教師のおっさんは避け、鈴木厩務員その一さんや小坊主ジョッキーに取材するも、取材中の画面の隅にちょこちょことおっさんが映り込んで来たとのこと。

前回同様スーツの上着をズボンにインした『え●りイン』から更に進化し、ポマードを髪にたっぷりつけた玉ねぎヘアーをばっちり決めていたそうで・・・(汗)。
 
そして、問題はおっさんだけではなかったそうな。
小坊主がインタビューを受けたのだが、これが酷かったとのこと。お姉さんから質問をされると、緊張し過ぎのせいか、目をキョロキョロさせながら、

『あ、あ、あ、あの、その、で、で、でででですから』

と、全く要領を得ない話っぷりだったとか。
 
トドメは見かねたお姉さんが助け舟を出して、

『あなたにとって、タマクロスはどんな存在ですか?』

と質問するも、小坊主の回答は、

『う、う、ウマです!』

だったそうな・・・(汗)。
 
(当たり前だ。俺はサラブレッドなんだから。)
(それ以外の答えを期待してたんだよ! かけがえのない存在です、とか。)

この回も放送された直後に視聴者の話題になり、ネット上では『鈴木厩舎 やばい』がトレンド上位にランクインしたとのこと。
 
ホント、この人たちはポンコツぶりなら文句なしにGⅠ級であると、つくづく感じたのであった。

つづく

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