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こばなしつめつめ

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短い小説の記事だけまとめてみました。
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記事一覧

赤ウインナー

私は友達のこと、好き。こんなにも酷く惨めでどうしようもない私に、こんなにも優しい友達。
大好き。愛してる。
けどそれは全部私の生み出した妄想かもしれない。私に友達がいること、それが全部全部私の思い込みなんじゃないかって。
(もし、これが思い込みじゃなくて本当に友達がいたとしたら、私はその子たちにとても失礼なことを言っているね。最悪だね。ごめんなさい。)
落ち込んだ時、決まって私はこういう強い思い込

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橋かけごっこ

とある、あわいの曜日のこと。

橋をかけよう。週に1度、あなたと待ち合わせをするために橋をかけたいの。

そうお願いされては断る理由がない。
橋を作るため、私たちはとっておきの材料を持ち寄ることを約束に今日は解散した。

次のあわいの曜日のこと。

私たちは手を泥だらけにした。土手の粘り気の強い、手ですくう。泥をはね散らかして、爪の中までかなしい色を詰め込んで。こんもりと山を作る。 私たちは同時に

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本日のユートピア

暑い季節は好きじゃない。涼しい夜風を楽しめるのもあと少しって思うと喜びがない。

12月に行きたい。
季節で一番好きなのは秋だけど冬も好き。末端冷え性酷すぎるからあまり寒いと嫌だけど、それは重ね着とかすればどうにかなるし。
凛とした空気が好きだよ。

クリスマスの装いが好き。街がクリスマスに染められていくの好きな人、結構いると思う。
だから、クリスマスを封じ込めるためのスノードームとかあるのかな。

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カチコチおでこ

眼精疲労つらいよね、わかる、わかるって思いながら、いつもアルバイトしてる。

私も酷い眼精疲労なので、押さなくても勝手に眉間が痛いんだけど、それでも暇さえあれば、ツボがある眉間の部分を、指の関節でゴリっと押してみる。

するとどうよ、コリにあるまじき音がするのだ。
コリッでも、ゴリッでもないの。
パキッ ポキッ なの。パキパキ音が鳴ってんの。
戦慄がたったかとすばやく駆け抜けていった。

私はこの

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刺してくる、

刺してくる、

空から墨をぶちまけたような、真っ暗闇。真っ暗闇を浮いている、一人の少女。

自分は浮くことすら許されていない気がする、少女は毎日そう考えていた。

ギラリと光る北極星。 鋭く尖った指先。星の指先から、少女の心臓まで、一直線にのびゆくもの。一角獣の角のような、鋭い閃光。

真っ暗闇を浮いていると、見えなかったはずの光が刺してくる。仄かにひかる。 そうして先程から眺めていた一角獣の角のような閃光が、少

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最近のこと③「ハムスター」

明らかにおかしい。時間の流れ方、水あめのようにトロリとして、何も流れないの。
私だけじゃない、友人も、大好きなアーティストさんも、同じこと言ってる。

さあてどうしたものかと思い夜道を歩くと

カラカラカラカラカラカラカラカラカラカラカラ

小さな音がしてくる。もう一度耳を澄ませて。

カラカラカラカラカラカラカラカラカラカラカラ

聞き覚えのある音。昔、部屋でハムスターを飼ってたから私はすぐ分か

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去年のメモ(アザラシの話)

去年のメモ(アザラシの話)

小さい頃、私の友達がアザラシに連れていかれちゃった。
私はアザラシが憎い。憎いけれども、今はその憎らしくてたまらないアザラシに攫われたい気分だったのだ。
それはどうしてかというと、細々としたあれこれがあって、あわよくば、昔連れていかれたお友達に会いたいのだ。
そんなこんなで冷たい海に来た。

やってきたのはアザラシではなく、セルキーだった。
あの時、友達を連れていったのはあなた?

「違う、そうで

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川魔女ごっこ

夜になる二歩手前の頃、屋形船がドロリとした波を連れてきた。
屋形船をようく見てみると、川魔女が魔女集会してる様子がちらりとみえた。

川魔女って確か、さびしい大人の涙腺をちょん切る「なつかし煮」を作るという言い伝えがあったっけ。なつかし煮の煮汁で炊き込んだ深川めしとか。

なつかし煮を食べさせ、かなしく泣かせた人の涙を集めては怪しいことをするとか。昔おばあちゃんが教えてくれたっけ。

でも、あの屋

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ネッシー小旅行

ネッシー小旅行

エセ土手沼に生息する、ネッシーに乗る勇気がまだない。タダ乗りネッシーじゃなくて、切符で乗るタイプのネッシー。
ネッシーは毎晩やってくる。大体、翡翠色の身体をしている。日によって青みがかったり黄色がかったり。理科室にそういう液体あったでしょ。

勇気を振り絞り沼まで歩くと、ネッシーは今日もいた。今日は苦い黄緑色だった。何となくこちらが睨みを効かせても、ネッシーはずっと動かないまま。なんだか少し負けた

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夢魔女さん、夢魔女さん

さらってくれないかしら。今日、この日、このときこの瞬間。

ふわっと香る、柑橘味で。

うちの近所のマロマロの木に、とても小さな朱色の実がなりました。
ですから今夜、それをちょいともぎ取って、煮詰めて、ジャムにしたやつを
あなたと囲む、お夜食として食べる予定であります。それだけのためにわざわざ胃を空っぽにしているのです。
ぼさっとしてると、隙間を狙って鈍色バクが私の胃を巣食うから。
だから、早くや

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氷菓、一角獣

無性に、冷たいものが欲しくなる。そういうときって割とあると思う。

冷たい風ふく、ある日のお話。

わたしがふと、アイスを食べたいと思ったその瞬間を狙うかのように、一角獣は現れた。

どこから来たのだろうね。あなたは。
物流センターの、クール便の部屋かしら。ちょうどさっきのわたしのような、くたびれたひんやりを携えて。

でも、一角獣は、目だけはくたびれていなかった。毛並みはくたくたでも、目はタピオ

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卯月の花嫁

卯月の花嫁

卯月の花嫁よ
誰も目覚めぬ眠れぬ時間

ひとり、婚礼衣装に袖を通す。

何もあたたかくない袖。
ぬくもりは暦に置いてきたままで、相手のことを置いてけぼりにするような儀式だけが行われる。

嫁入り道具なんてものも存在しない。

ここには、いのちの気配がしない。
鋭く冷たい風だけが、私に見送りの唄を贈ってくれた。
こんな姿、きっとひと月だけ。できればそうでありますように。祈る、祈ることしか。
爪の

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星の砂を片手に 【前編】

あるところに、奈帆(なほ)という少女がいた。

奈帆は生まれつき、髪の毛の色が青かった。その青色というのもただ青いのではなくて、海のような色をした美しい髪なのだ。

頭のテッペンは深海のようなコンコンとした深い青、髪の真ん中は青と水色のグラデーションが綺麗で、毛先は南国の海のような、明るいターコイズブルー。

くせっ毛で元々ウェーブ髪なのも相まって、奈帆の髪の毛はまさしく「波」だったのだ。

(い

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スパイテディ【ぷち長話】

テディベアの首についてるリボンには、とある秘密があるってご存知?

これはもしかするとのお話なんだけど、テディベアってのは、サンタさんのスパイじゃないのかって、そういうお話。

某名探偵の蝶ネクタイが機械仕掛けなのだから、テディベアのリボンに何かしらの仕掛けがあってもよかろうよ。
でも、子供たちは鋭い。
カチンコチンのプラスチックのリボンじゃなく、クタクタの可愛い色した生地のおリボンで秘密を隠さな

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