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「きっかけ」について

昨日、歌詞の話をしました。今日も歌詞の話ではあるんですが、
今日は歌詞から話をスタートさせるのではなく、1つのキーワードを出発点に、色んな曲の歌詞を見ていきたいと思います。

さて、さっそくそのキーワードなんですが、「きっかけ」という言葉です。この言葉、みなさんはどんなイメージを抱かれますか?

僕のスタンスを最初に示しておくと、基本的には
「きっかけ待ち人間は良くない」です。
目に見えるわかりやすいきっかけなんてない。
それはきっと過ぎ去った後にわかるもので、
「あー、あの時のあれがきっかけだったんだなあ」というものだ。
そう思っています。

さて、まず紹介するのは
宇多田ヒカルの「道」です。
この曲の見どころはなんと行ってもサビの、

「it's a lonely load, but I'm not alone.」

の部分ではないでしょうか。
ここは簡単に言うと、
「1人だけど、独りじゃない」
物理的には1人だけど、孤独ではない、という状態を描写しているのだと思います。
この歌詞はとても美しいと思いますが、
今回のテーマの「きっかけ」の登場シーンは、

「人生の岐路に立つ標識は在りゃせぬ」

この部分です。直接「きっかけ」と言っているわけではありませんが、
ここでは「岐路」というのが「きっかけ」とニアリーイコールではないでしょうか。

つまりは、「人生には、わかりやすく、『ここが岐路(≒きっかけ)ですよ〜』って教えてくれる標識なんて無いよ」ってことですね。

「俺にも何かきっかけさえあれば頑張れるのになあ…」って思ってる人って多いんじゃないでしょうか。

そこに対して、甘えんな!ってケツ叩きしてくれるような、心に響く歌詞ですね。

続いて紹介するのが、僕が大好きなMr.Childrenの「天頂バス」という曲です。

この曲の2番の冒頭に

「明日こそきっと って戯言抜かして 
 自分を変えてくれるエピソードをただ待ってる 木偶の坊」

という歌詞があります。

これもなかなか強烈な歌詞ですよね。

この歌詞は、この曲を真剣に聴くようになった時期と、自分自身がそういった心境で甘えてた時期が被ったこともあり、僕にとってはとても大事な曲です。

そして最後に紹介するのが、乃木坂46の「きっかけ」です。
この曲はライブで桜井さんがカバーしたことでもお馴染みで、乃木坂ファンの中でもファンの多い名曲ですよね。
この曲はタイトルにそのまま「きっかけ」とありますが、

歌詞の中にも、サビ部分で
「決心のきっかけは理屈ではなくて いつだってこの胸の衝動から始まる」
と登場します。
僕はこの部分よりも、
2番のサビの

「決心のきっかけは時間切れじゃなくて 考えたその上で未来を信じること」

ここに注目したいと思います。

自分の道を決めるきっかけは、大学受験や就職活動など、自分から意識せずとも自動的に訪れるタイミングに「時間切れ」で訪れるものではなく、度重なる葛藤の果てに、「考えたその上で 未来を信じること」だと。
確かに、そうだなあ、と。

この2番のA・Bメロでも、

「横断歩道渡って いつも思う 
 こんなふうに心に信号があればいい 
 進みなさい それから止まりなさい 
 それがルールならば 悩まずに行けるけれど」

きっかけを待っていれば、誰かの指示があれば、楽なのになあ、と甘えたい、流されて生きていきたい、という感情が見られますが、

その直後に

「誰かの指示待ち続けたくない 
 走りたいときに 自分で踏み出せる  
 強い意思を持った人でいたい」

と、矛盾した感情が描かれています。
わかりやすいきっかけがあれば楽だけど、誰かの指示に従順に生きるのは嫌だ、というこの歌の主人公の心の葛藤を描いていますが、
これは現代人共通の悩み、葛藤でもあると思います。

この歌詞の醍醐味は更にその先にあります。

ラストのサビの前に、

「ほら人ごみの 誰かが走り出す
 釣られたみたいに 一斉に走り出す 
 自分のこと 自分で決められず 
 背中を押すもの 欲しいんだ きっかけ

と畳み掛けてきます。

先ほど見た2番のサビの歌詞はあくまでも「そうあれたらいいよね」という理想であって、
この曲の主人公や現代人の多くは、この部分の心境に近いのではと思います。

理想だけを語る歌詞に、人は共感しませんし、魅了されません。

この曲はケツ叩きの叱咤激励と共に、
「そんなこともあるよね」「大丈夫、皆そうだよ」と慰めてくれる。

理想の提示→現実把握からの、
ラストで
「現実はわかった、みんな一緒だ、だから皆でまた理想に向かって頑張ろうよ」というマインドセットが完了する。

初めから一辺倒に理想を追えとケツ叩きをされ続けたり、
逆に現実だけを突きつけられても、
どちらもしんどいだけだと思います。

この順番でマインドセットされて、最終的に曲全体として明るい方向へ向かっていくのがこの歌詞の素晴らしいところだと思います。

そしてラストに
「決心は自分から 思ったそのまま… 生きよう」と続いて曲は終わります。

最初に見た2つの曲も、
「きっかけ待ち人間はやめろ!」と強烈にケツ叩きをしてくれますが、
それは突き放しではなく、
逆に「いつでもきっかけは転がってるんだよ、捉え方次第で何でもきっかけになるんだよ」
と前向きに捉えられる余地もしっかり残しておいてくれています。

そして最後の「きっかけ」も、
「自分のこと 自分で決められず 背中を押すもの欲しいんだ」と思いつつも、
「走りたいときに自分で踏み出せる強い意思を持った人でいたい」
と矛盾した感情を抱え葛藤している、という現代人の悩み、生きづらさの象徴とも言える心理状態にこの曲の主人公はありますよね。

最後の「決心は自分から 思ったそのまま生きよう」
この状態にある現代人はまだまだ少ないと思いますが、
こうあれたらいいなあと思う理想形ですよね。
まさに僕が教育を通して育みたい価値観の1つであるし、
つくりたい社会像と、その社会に生きる人のイメージに近いと思います。


今回は、3つの曲から、「きっかけ」という1つの言葉を軸に考えていきました。
こういったアプローチで思考を巡らすのも面白いなあと思いました。
読者の皆さんが面白いと思ってくれたかどうかは別として。

僕も「誰かの指示(支持)を待ち続けたくない」し、書きたいときに書きたいものを書きますので、
これからもこのスタンスで、
「思ったそのまま生きよう」と思います。

それでは今回はこの辺で。
ご拝読ありがとうございました。

小野トロ

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