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はっぴぃもぉる 006

彼女は呆気に取られた様子でこちらを見た。

まだその可憐な瞳は、声の主を捉えることができずにいるようだ。
ようやくピントがあったのか、駆け寄ってくる。グレーのパーカだ。
もう一度言う。

「久しぶり。」

ピントはしっかり合っているはずだ。それでもその瞳は怪訝な色をしている。

「久しぶりって何よ。ついこの前会ったばかりじゃない。それに、見かけたら私から声かけるって、言わなかったっけ。」

新たな出会いと久方ぶりの心の触れ合いへの高揚、そして瞬時の手のひら返しの忘却と言ったこの僕の二日間の紆余曲折を、彼女はもちろん知らない。
その気温差にやっと気づいて少し恥ずかしくなり、そのせいで変に強がりたくなった僕は、さらに相手を困惑させる。

「僕の方から声をかけたらいけないルールなんてあるわけ?」

例の如くその唇を吊り上げ彼女は答える。

「はあ。呆れた。この前はあんなに煙たがってたくせに、さぞかし私が恋しかったのね。」

図星だろうと何だろうと、一度掲げた強がりの看板は、なかなか下げられない。

「僕は君の名前すら知らない。君は名乗ってすらいない。この前の君の図々しさと言ったら、こっちこそ呆れるよ。」

先日は飲み込んだ言葉をいとも簡単に吐き出す。

「もういいわよ。あんたなんかに名乗る気は無いわ。とにかく、そっちの感情の波に合わせてサーフィンでもしてるわけじゃ無いんだから、こっちはこっちで忙しいのよ。」

ここで初めて周りの目に気がつく。
恋人同士の喧嘩にでも見えただろうか。
客観的な視点を得て落ち着いた僕は、居直って問い質す。

「この前の話の続き。あれ、聞かせてよ。」

話したがっていたのは彼女の方だったのだからと、上手く餌を撒いて釣竿を垂らしたつもりだった。
しかし安物の小魚には一瞥もくれずに、

「私今からまたバイトだから。こっちのタイミングでまた話しかけるって言ってるんだから。少しは大人しく待っていてよね。じゃあね。」

 そう言って彼女は颯爽とその場を後にした。

はっぴぃもぉる 007へ続く

小野トロ

はっぴぃもぉる 005

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