祈る対象の有無 「お祈りします」は何に祈っている?

「今後の健闘をお祈り申し上げます」
「道中のご無事をお祈りします」

など、日本語の特にかしこまった表現の中には、
ところどころにこの「お祈りします」という言葉が出てきます。

僕は読書生活のなかで、宗教に関する本を読むことがあります。
つい先日も宗教的寛容の歴史に関する本を読んでいて、ふと思ったのです。

西洋に限らず、日本以外のほとんどの国々の人たちには、
何らかの祈る対象がある。

それに対して、僕たち日本人は何に祈っているんだろうか。

宗教的な意識が希薄な日本人と言えども、
お寺や神社や伝統的な神々にまつわる様々な行事に関わることはあり、
日常生活と不可分な要素も確かにあります。

無宗教と言うには宗教との結びつきは強過ぎ、
宗教的な情熱を持っていると言えば真っ赤な嘘になる。

そんな僕らにとって、「祈る」という行為が他国や他文化の人々のそれとは明確に意味が異なることは間違いなさそうです。

「うちは浄土真宗だから」といって、
面接試験に落ちた就活生のお祈りメールに
「あなたの幸運を仏に祈ります」と送る採用担当者はいないでしょう。

「みんなの勝利を天国のおじいちゃんに祈って待ってるね!」
と言う部活のマネージャーもいないでしょう。

それでは、私たちは何に祈っているのでしょうか。

たとえば「お祈りメール」の意味を熱心なキリスト教信者に説明することができるでしょうか。

prayは宗教的な意味合いがあると思います。

ではwish?hope?
グッドラックのような言葉にも、言葉の根底には神の存在があるでしょう。

宗教が生活に根付いている人からすれば
「信仰する宗教が無いのに何故祈るんだ?」
となるのでしょうか。

それでも日本語には「神頼み」という言葉がありますね。

「もうこうなったら神頼みしかない!」
と思っている人の念頭には自分の信じる神の存在があるでしょうか。

否。
というパターンの方が多いのでは無いでしょうか。

だんだん追い込まれてきましたね。
もうここまで来ると、私達が祈る対象は
「空っぽ」「虚無」
すなわち「何もない」ということになってしまうのでしょうか。

と思いかけたところで、新たな思考の小道を見つけました。

自分が実際に祈るとき、何に祈っているのか?
それを考えてみました。

僕が祈る機会。

3月11日。
1月17日。
8月6日。
8月9日。

言い出すとキリが無いような気がしますが、
戦禍や災害に祈るというのがまず1つ。

そして、闘病中や戦禍の真っ只中にいる人たち、
発災後間もない時の被災者へ。

サッカーで贔屓のチームがビハインドを背負っている時。
相手の守備をこじ開けられない時。

某虎球団が貧打に喘いでいる中で
やっとこさ見出した満塁のチャンス、などなど。

過去の戦禍や災害に対してと、現在のスポーツなどに対しての祈りでは種類が違いますね。

戦禍や災害の犠牲者に対して祈る時は何に祈っているでしょうか。

それはきっと、実際に目の当たりにはしていない
想像上の惨禍における人々の姿、表情。
そしてそれが無ければ迎えていたはずの次の日の朝や大切な人との未来。

そうしたものを脳裏に浮かべて、
その人たちの無念やあらゆる感情に向かって祈っているような気がします。

もう1つのスポーツの応援の際の祈り。
これは、同じチームを応援する、同じ思いを持つ人たちの気持ちを、祈りを、
元気玉のように集めて届けようという試みではないかと思うのです。

どちらにしても、祈りの発信者である自分と祈りを捧げる対象者の間に介在する神の存在が無いだけで、
結局は宗教的な行為なのではないかと思います。

結論としては、私達日本人の祈るという行為には、祈る者と祈られる者の間に神のような何らかの存在を介さずに行われる宗教的な行為ということになります。


思いの強度が低いであろう
企業のお祈りメールから
大手術を控えた家族への祈りまで
その強さは様々にあるとは言え、

その祈りが届くという確信が無いままに漠然とその願いが届くのではないかという「神的な何か」「神秘的なもの」の存在を信じているという点においては、
充分に日本人の「祈る」という行為も、
宗教的な行為であると思うのです。

ということで、私達日本人も、
他国の人たちのような明確な神、教えや教典は形として持たずとも、

充分に宗教的であるということになりますね。

それでは、なぜ日本では「宗教=胡散臭い」とする向きが強いのでしょうか。

信心深い人たちを見てどこか愚かしいと思う感情の正体は何なのでしょうか。

その辺りをまた別の記事で考えていければと思います。

それでは、今回はこの辺で。

小野トロ


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