流行のつけペンを左利きが選ぶには①特性を知るのが大切
文房具のブームは移ろい変わる。インクブーム、ガラスペンブーム、そして2022年熱いのがつけペン。しかし、左利きがつけペンを選ぶには注意しなきゃいけないポイントがある。
※とても長くなってしまったので、目次で気になるところに飛んでください。できれば順番に読むことを推奨しています。
※この記事は個人で執筆しています。誤記がありましたら、クリエイターへの問合せから連絡いただけると幸いです。
つけペンを制するにはつけペンのことを知ろう
基本に道具は、多数派の右利き向けに作られている。つけペンも例外ではない。なので、まずはつけペンの特性を知って、使いづらいポイントを押さえて欲しい。
そもそもつけペンってなに?
ペン先にインクをつけながら書く筆記具のこと。金属製のペン先を軸に差し込んだものを一般的に「つけペン」と呼ぶ。
広い意味では、ガラスペンや羽根ペンのことも指す。
万年筆のようにインクをペン先に貯めておけないため、たくさん書くことはできない。その分、水洗いだけでインクを洗い流せるので、インクの交換が簡単にできる。(1)
つけペンが流行ったのは、インクブームの流れからだと考察されている。染料インクはもちろん、扱いの難しい顔料インク、古典インクに鮮やかなカラーバリエーションが増えてきた。このため、インク替えが簡単なつけペンが注目されたのだ。(2)
つけペンの仕組み
つけペンは、ペン先が紙に触れたときに書けるように作られている。これは毛管現象によるもの。
つけペンの場合、「つけペンをインクに付ける→切り割りから毛管現象でインクを吸い上げる」「紙にペン先を当てる→ペン先が開きインクが下がる」ことで書けるのだ。
なぜ左利きはつけペンが使いづらいのか
その理由は「押し書き」になる。
右利きの場合、字の横画を書くとき、左から右へ引くように書く。(引き書き)
左利きの場合、字の横画を書くとき、左から右へ押すように書く。(押し書き)
このとき、ペン先の進む方向と、ペン先にかかる力が逆方向になってしまうのが押し書きだ。
<引き書きの場合>
<押し書きの場合>
押し書きになると以下のような問題が出てくる。
尖ったペン先が紙に刺さる
必要以上の力が加わりペン先が開きすぎてしまう、もしくはペン先が引っかかり筆記が不安定になるので均一な線が書けない
インクが流れる方向と逆方向の力が加わるので、インクの出が悪い
そのため、元々つけペンは引き書きするための筆記具であり、押し書きとつけペンの相性は悪い。
ちなみに、アナログ作画の漫画家さんで左利きの方はいらっしゃる。この場合、ペンを引き書きしているから描けるのだ。つけペンならではの表現力のある線や、書き癖がそのまま個性として昇華することは、他の筆記具に替え難い魅力がある。(3)
しかし、文字を書く場合は、基本的に横画は押し書きである。従って、左利きがつけペンで文字を書く場合は、押し書きできるものを選ぶのが大切だ。
実際につけペンを書き比べてみる
2021年から2022年にかけて新発売された、2種類のつけペンを比べてみた。この2種類のつけペンの大きな特徴は、「ペンポイント」がついていること。
従来のつけペンは、ペン先が直接当たるため、書くたびにペン先がすり減ってしまう。つけペンのペン先は、基本的に消耗品なのだ。そこで、ペン先にペンポイントを付けた。万年筆に採用されているペン先の技術を、つけペンに最適化させたのだ。
ペンポイントと呼ばれる合金は、すり減りに強い素材で作られている。また、研ぐことで滑らかな書き心地が叶う。なので、同じペン先を使い続けられ、万年筆のような書き味のつけペンができた。
ペンポイントがつくことで左利きが得られそうな効果は、以下の2点だろう。
丸いペンポイントがつくことで、紙を刺す心配がなくなる
ペン先の大きな広がりを防げる
ただし、ペンポイントが付けば左利きでもつけペンが使えるとは限らない。つけペンの書きやすさは、製品特性や自身の書き癖による要素も大きいためだ。歯切れの悪い文章で申し訳ないが、この比較は一個人の意見として参考にして欲しい。
①iro-utsushi<いろうつし>|PILOT
PILOTの「iro-utsushi<いろうつし>」は2022年6月20日に発売されたつけペン。ペンの太さは細字(F)と中字(M)の2種類。ペン軸は木軸と樹脂軸がある。
とても軽い樹脂軸と手に馴染む木軸が、手に取りやすい価格で手に入る。無駄のないシンプルなデザインに、惹かれる方もいるのではないだろうか。
今回は細字(F)、ノンカラーの樹脂軸を試してみた。
<引き書きの場合>
やわらかなペン先のしなりが特徴。筆圧をコントロールすると、線の強弱がつけられる。
<押し書きの場合>
しなやかなペン先で、ペン先に加わる力が安定しないためか、インクが薄くなってしまう。筆圧の弱い人はやや強めに押すとインクが乗る。意識的な筆圧のコントロールが必要だ。
<まとめ>
「従来のつけペンらしいしなやかなペン先に、ペンポイントをつけて使いやすくしたつけペン」という印象。また、ペン先の種類が少ないが、線の強弱がつけられるので1本で表現豊かな線が引ける。
おすすめできる人は
しなやかなペン先が好み
つけペンを使い慣れている
絵を描きたい
逆におすすめできない人は
硬いペン先が好み
文字を書きたい左利き(特に筆圧弱めの方)
▼今回使った商品はこちら。
②hocoro|セーラー万年筆
セーラー万年筆の「hocoro」は2021年12月10日に発売されたつけペン。ペン先を取り外して本体に収納できるのが特徴である。ペン先は付け替えることができ、細字、1.0mm幅(カリグラフィータイプ)、2022年8月1日に発売された2.0mm幅(カリグラフィータイプ)、筆文字タイプと4種類から選べる。
軸色はシロとクロの2種類。インクをペン先に一定量ためておけるリザーバーパーツも登場し、使いやすく機能的なつけペンとして話題である。
今回は細字、軸色はシロを試してみた。リサーバーはつけていない。
<引き書きの場合>
やや硬めのペン先が特徴。筆圧のコントロールによる線の強弱はつけづらい。
<押し書きの場合>
インクの出かたは少し鈍くなるものの、問題なく書ける。硬いペン先のおかげで安定した書き心地だ。
<まとめ>
「誰でも書けるように調整したつけペン」という印象。ペン先が硬いために線の強弱はつけにくいが、筆圧や利き手の影響をうけづらい。線の種類は、豊富なペン先を付け替えることで解決する。
おすすめできる人は
硬いペン先が好み
豊富なペン先を使いたい
文字を書きたい左利き
逆におすすめできない人は
しなやかなペン先が好み
1本で線の強弱をつけたい
左利きの方が気をつけて欲しい点は、「ペンポイントがついているのは細字と中字」ということ。筆文字タイプは先端が40度曲がったペン先を採用している。このため、押し書きしたときに筆記線が安定しない場合がある。
1.0mm幅、2.0mm幅(カリグラフィータイプ)はペン先が平面状になっている。左利きでもカリグラフィーはできるが、用紙の角度を変えるなど工夫が必要である。(後日別記事にします)
▼今回使ったのはこちら。細字と1.0mm幅のセットである。
万能なつけペンは存在しない
「しなやかなペン先」にすると表現豊かな線を書けるが、押し書きにはむいていない。「硬めのペン先」にすると線の強弱はつけにくくなるが、筆圧や利き手の影響をうけづらい。
これは製品特性によるものなので、どちらが悪いとは言えないのだ。シンプルな構造である以上、今のところ万能なつけペンは存在しない。用途に合わせて選んで欲しい。
万年筆は使えるのに、つけペンが使えない理由
「万年筆が使えるのに、どうしてペンポイントが付いたつけペンが使えないのだろう?」と思う左利きの方もいるだろう。その理由は構造にある。
万年筆はつけペンとは違い、ペン軸内にインクタンク(コンバーターやカートリッジ)を持っている。また、出たインクの分だけ空気がインクタンクに入り、効果的にインクを押し出す仕組みがある。(気液交換作用)(4)
なので、つけペンとは違い、押し書きしても安定的にインクが出る傾向にあるのだ。
実際の筆記線
ここまで紹介したつけペンの実際の筆記線を見てみよう。今回は2種類の紙で試してみた。どちらも万年筆インクに対応した書き心地のいい紙だ。しかし、左利きがつけペンを使う場合、紙の厚さも書き心地に影響を及ぼす。
紙が薄ければ薄いほど、紙に穴を開けないように意識的に筆圧を下げるため、筆記線が安定しないのが理由に挙げられると思う。
こちらはマルマンのノートに書いたもの。標準的な紙の厚さ(70g/m²)。押し書きの場合、Gペンは紙が引っかかってマトモに書けない。また、押し書きでインクの出が悪いため、全体的にインクが薄くなった。
こちらはツバメノートに書いたもの。標準より紙は厚め(81.4g/m²)。押し書きの場合、やはりGペンは紙が引っかってしまう。紙の厚さのおかげで、hocoroの筆記線が安定した。また、フールス紙の特徴である吸水性の高さが、インクの発色を上げている。
よく知らないまま諦めてしまうのはもったいない
私が考える、左利きのつけペン選びのポイントは以下の3点。
硬めのペン先※を選ぶ
できれば試筆する
万年筆インクに対応した厚めの紙と合わせる
※筆圧コントロールが上手な方は、やわらかいペン先でも使いこなせる
確かに、左利きはつけペン向きではない。だけど、元々絵は描けるし、よく選べば文字だって書ける可能性だってある。インクを直接付けるアナログ感や、たくさんのインクを楽しめる。
この記事がつけペンを使いたい左利きに届いて、誤解なくみんながつけペンを楽しんで欲しい。
ただ、「筆圧が強い」などの理由で、どうしてもつけペンが使いにくい方もいると思う。次回の記事では、今回紹介したオードソックスなつけペン以外の選択肢を提案したい。
参考文献
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文具マガジンやっています。道具として使っている文具と、完全に趣味趣向の文具、どちらも好きで紹介しています。
▼「左利き向け文具」記事まとめはこちら。ボールペンや万年筆など書く文具から、ハサミや定規まで幅広く紹介。
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