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クジラアタマの王様と2020年

「クジラアタマの王様」は2019年に出版したので、新型コロナウイルスとはまったく関係ない。

2020年に入るまでは実験的な表現方法を用いた、伊坂幸太郎著作のエンタメ小説だった。

主人公たちの夢の世界と現実世界がリンクする中で、
双方の世界で大きな問題に対峙する。胸糞の悪さを爽快な快進撃で回収する物語だ。

著者の鋭い洞察力と表現力で、大衆の恐怖が正義に、そして知らないうちに悪意にスライドされる有様をかなりリアルに描かれている。

それがこのご時世にとてもリンクしているように感じてしまうのだ。

私はとある地方都市に住んでいるが、この地域初の新型コロナウイルス発症者の情報が出たとき、発症者の情報を知人が詳しく知っていて私は恐怖した。
知人はSNSを使わないので、井戸端会議的な口伝えで、私よりも詳しく知っていたのである。

発症者のプライベートに明らかに踏み込んだ情報を拡散しているので問題である。
それを問題とせずに口にしてしまうのが恐ろしい。
それは元々の田舎の気質か、恐怖のせいか私には分からないのだけど。
万が一自分が発病者になってしまった時、周りに情報を拡散されたらどう思うのだろう。

ある一定年齢に達してしまうと、時間もないのでついつい実用書やビジネス書を読みがちだが、人は読書で追体験することで、現実の自分には経験できないことも取得できる。

今年はカミュの「ペスト」がよく売れたそうだ。
パンデミックを描いた代表的な小説だ。
ただ、海外文学はとっつきにくいよ、と思う人に(登場人物の名前を忘れる問題、文化の違いを理解できないので没入感に乏しくなる問題とか…それで私は結構離脱してしまう)「アタマクジラの王様」を勧めたい。

もしも世界の誰しもが、読書を通じてパンデミックを体験したならば、世間にもう少し優しい目線を持てたと思う。

疾走感のあるアクション表現と痛快な伏線回収で純粋にエンタメ小説として楽しむためにもお勧めだ。


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