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月曜モカ子の私的モチーフvol.225「もっか女主人」 文 ナカジマモカコ

「もっか女主人」というタイトルだが今日のわたしは超作家。
まるまる一冊分の原稿の直しを終え今朝(というかさっき)壷井さんに送った。いつもは「あと2日...」とか「あと数時間...」とかって〆切を延ばしてもらったりするのだが今回はもう久しぶりに会う日が決まっているので、逆算して壷井さんが原稿に赤入れする日数を考えると数時間たりとも遅れられない。しかし店が時短明けで「大変忙しいんだ・・・・!」って感じで絶体絶命。間に合うんかい・・・って冷や汗でしたが先週から調整を始め「ともかく今週は飲まない」という手法で水木金土と営業前にちょっとずつ執筆を重ねて一冊の半分くらいを直し、昨日(というか今朝)3じ〜10じ頃まで一気にラストまでを直した。

お腹が空いてたまらないので、来年からの店のメニューにしようとテストトライアルを考えている「ピザ」を家で焼く。
滋賀県のがんこ堂から送って頂いた人気のトマトと、チーズと、冷蔵庫に残っていたバジルソースと、神楽坂イタリアボスの辛いオイルとを適当に乗せて焼いただけだけどびっくりするほど美味しくできた。
この感じでいいなら手軽で腹にたまるメニューになりそう。

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(本当は生でそのまま食べたほうが断然美味しいトマトなんです)

午前3時から10時半頃までぶっ続けで直して、それを一冊分読み返して12時半だったなので、一旦寝てから月モカをやろうと思いましたが、
今日またレディオの収録なので「もし寝坊して、月モカの時間を取れずに収録になったら・・・」と思ったら恐ろしくておちおち寝れない気分になったので、先に月モカを書くことにする。

(↑昨日は「ON AIR 」の週でした〜。詳しくは動画の概要欄をご覧ください、一発でどんな番組かわかります)

本当は今日は久しぶりに「ひとかどアーカイヴ」の方を更新してそれを月モカにしようと思ってたんだけど、そこまでのエネルギーが残ってないので、「ひとかどアーカイヴ」は近日中に書くことにして、そちらでは「女主人という職業」というタイトルにしようとしていたので、こちらは「もっか女主人」とする。
なんの話かと言うと「わたし別に、小説家じゃなくてもいいのかも職業は」という話。で、さらになぜそう思えるかと言うと、

それは、わたしはわたしの小説家としての能力を今、限界まで引き出せた気がしているから。

なんて言うか今回の新作、本当に頑張ったと思うのよね。
この月モカでも何度かお伝えしていた「わたしと音楽、恋と世界」を蔵入りして書くという葛藤を超えて、今わたしは、この新作が「とてもいい作品」だと感じる。
同時に「これが売れなかったらどうしよう」とか「売れて第一線に復帰するぞ!」というような感覚が、章を重ねるごとに薄れて、加筆修正するごとに消えて、今は別に「この作品が売れようと売れまいとわたしという人間の価値は変わらないし当面書くことで食べていく生活には戻れないだろう、また戻れないと感じる」と思っている。

こう感じたんだよね。
もしも奇跡が起きてこの本が当たったとして。
当たると多少作家にイニシアティヴが持てると思うんだけど、そうなれば次の新作は当然「わたしと音楽...」になり「船パリ」になり「うたたねの日々」と続いて「惑星会議」までたどり着きたいのだけど、
そこで絶対今の出版界って以前よりもっとタイトだから、
「いやいやそれは今世間が望んでないのでもっとこう、売れるような感じの別なお話を...」ってなった時それをやれるかというと、
それはちょっと無理かなあって(笑)

今回アジャスト執筆をラノベ以来久しぶりというか全力では初めてやってみたけどね。

ものすごく辛かったからね。笑。

この作業はいつかの「わたしと音楽、恋と世界」と「船パリ」のためだったからできたけど、この作業が「日々の職業」「生業」になるのはちょっとしんどいというかわたしには無理かなあって。
つまり自分は仕事がたくさんあるときに自分の意思で絶筆したので「わたしは職業作家に戻れるか」って感じで今回全力でトライしてみたけど、
うん、やっぱり職業作家の才能はないんじゃないかなって。

それはいい作品を書けないって言ってるんじゃなくって今書き終えた作品はすごくいい作品になったけど、わたしは来年はもう一つも新しい職業小説を書きたいと思わないから、じゃあ職業作家にはなれないやん、てこと。

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プロの定義って色々あるけど基本的には「それで生活費を稼いでる」ことと「同じクオリティで日々仕事(作品やサービスを提供)できる」
ってことが大事かなってわたしは思ってて。
わたしの作品、わたしの書くものはいつだっていいけど、
その仕事をするためにはスパンが開いちゃう。
何年も時間が必要なんだよね。
江國さんとかみたいにスルスル〜とたくさん本を出したりできない。
(江國さんも実際スルスル〜ではないのだろうけれども)
村上春樹になれたらいいけど、村上春樹になるのは多分、難しい。笑
そういう意味ではてらいなく、性懲りもなく日々のルーティーンとして出来ることが「酒場に立つ」ってことなんだよね昔から。
じゃあ職業「女主人やん」て思ったねん、ていうお話。

でね、でもね。加えて「わたしの人生けっこういいなあ」と思ったのはさ、
小説家って一冊でも世に本を送り出せばさその後一生書こうが書かまいが、それで食べてようが食べてまいが「一生小説家」なんだってこと。
書籍が存在する以上、小説家という職業は過去のものにならない。
元小説家って存在しない。
それに本当の意味で気づいたのは、実はすごく最近で、なんか新作悔いなく書き上げられて数字とかどうでもよくなって来たから気分的には引退、
引退というか趣味の作家として生きて、いっそ開き直ってTwitterのTOPの肩書きを「根津の酒場の女主人」にしよう」と思ったときだった。

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その時まずこう気づいたわけ。
今わたし「職業は女主人」と書こうとしたけど、
もしかイーディというお店が閉まった暁にはわたしはたちまち「元イーディ女主人」「元根津の酒場の女主人」となるのだなぁって。
でもさ「元小説家」っていう言葉って、ないよね。って。
小説家って作品が存在する以上引退がない職業。
それでやっぱりわたしを現すプロフの冒頭はこれが適切だろうと考え
「小説家&レディオパーソナリティ」とした。

なんていうかこう小説そのものは普遍的でみんな今でも100年前の小説とかを繰り返し読むのに小説家そのものは「今本を出してるか出してないか」で市場価値が問われてそれってなんか理不尽ていうか小説の本質と真逆よねとか思ってた。
「まじ儚い職業だぜ、しばらく本出してなかったら忘れられて、パッとしない物書きだと思われて作品も市場から絶版になって消えてってさあ」
って思っていた感覚が急に逆転して、
小説家ってなんて普遍的な職業なんだ! 
と思った。

今お店が回せていても、愛されていたとしても店が終わったらわたしはあっという間に元女主人になるのか。
なんて儚いの、そっちの方が。

それでわたしは「もっか女主人」という2021年の刹那を大切に生きながら、
生涯わたしからなくなることのない小説家という肩書きをわたしなりの胆力で慈しみ愛おしみながら、わたしなりのやり方でずっと本を出していこう。そう思った。

今わたしは「わたしと音楽、恋と世界」を理解しなかった文壇に興味がないから、この新作が成功しても今後よその出版社で知らない編集者と本を作るってあまりしたくないなあって考えてる。

あと「わたしと音楽、恋と世界」に対して割とひどいなと思える塩対応をした数人の出版関係者が今後また突然「一緒にやりましょう」って言ってくれても、ちょっと心がついていかないかなあっても思っている。
(心が狭いねわたしってば。でも思うとことあったよね)
まあ向こうがまたわたしと一緒にやりたいなんて思うはずはないけどね。
思っていたらあんな態度をわたしにも作品に対してとらなかったでしょう。

この新刊は自家出版だからジワジワ政策しかなくて、ドカンと大きくなんてまずは当たりようがないからそうはならないと冷静に考えているけど、
もしか当たってまた大手出版社から出せるようになっても、
だったら壷井さんとだけまた仕事したいな。
で、当たらなかったら、モカティーナ書房から、しくしくと本を出し続けていきたいなあって思ってる。

つまりなんか今わたし、壷井さん以外の編集者と本を作りたいと思ってないかも。(船パリの編集者さんだけは別)

大手からまたバンバン本を出して活躍したいならそんな閉鎖的なこと言ってられないけど、職業は女主人だと思ってるんだからそれでいいよね。笑。

職業女主人、趣味は小説。趣味だけど生涯小説家。
だってもう10冊近い本を、世に出しているもの。
その本がたとえ全て絶版になったって、読んでくれている人がいる以上わたしは小説家で、これから先も本を出すんだから。

そう思うと「女主人」って本当に儚い職業なんだな。
だからもっか女主人、全力で女主人を生きてゆこう。そう思った。

新作は、正直とてもいいです。

「わたしと音楽、恋と世界」をある視点からは超え、ある視点からはそれよりも大きな達成感と愛情を、本作に対して感じています。
何よりも気に入っているのは「しのごの言わずに読んでみて」と言えるような読みやすい本に仕上がったというところ。

「自分だけの気に入る自分だけの文学をコアに」っていう世界線を卒業しました。そこに到達した新たな中島桃果子を大変気に入っています。

そんなわけで、寝ます。笑。

作品はまだまだ折り返し。壷井さんからまた直しが来て、一冊分また直して、その後いよいよ本づくり。いくらくらい予算がかかるのかなあ。
それも細かく調べていかないと。ハードカバーには、したい。

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          <モチーフvol.225「もっか女主人」2021.11.22>

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☆モチーフとは動機、理由、主題という意味のフランス語の単語です。
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長く絶版になっていたわたしのデビュー作「蝶番」と2012年の渾身作「誰かJuneを知らないか」がこの度、幻冬舎から電子出版されました!わたしの文章面白いなと思ってくれた方はぜひそちらを読んでいただけたら嬉しいの極みでございます!