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《23年上半期》過去の本屋大賞ノミネート作品の読書記録

去年の秋くらいから、小説に対する読書熱が高まってきていて、いろんな作品を読んできた。その中でも過去の本屋大賞ノミネート作品は、自分では普段選ばない作家と出会う良いきっかけになっている。

この半年、読んできた本屋大賞ノミネート作品について振り返ってみる。
ちなみに、第20回(2023年)は全作品読んで感想も別記事にアップしているので、この記事の中では省略する。興味ある方は以下をご覧ください。


2023年1月から6月に読んだノミネート作品

※掲載順は読んだ順番。ネタバレなし。

medium 霊媒探偵城塚翡翠/相沢沙呼

2020年本屋大賞 第6位
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▼ 感想
ミステリ好きではあるんだけど、特殊設定ミステリはちょっと邪道と思ってて、話題のこの作品もここまで読んでなかった。だけど、、、もっと早く読めばよかった。食わず嫌いは良くない。「すべてが、伏線」のキャッチコピーは伊達じゃない。
あとがきで、作者がアマチュアマジシャンであることに触れられているが、そういった背景がこういう物語の組立につながるというのは興味深い。

自転しながら公転する/山本文緒

2021年本屋大賞 第5位
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▼ 感想
プロローグと、本編の始まりがかなり違ってどういう展開でプロローグの場面までたどり着くのだろうか、と思いながら読み進めた。仕掛けはエピローグで明かされる。タイトルは意外と早い段階で回収され、自分の内側の悩みと外側の悩みがぐるぐるする感じが伝わってくる表現だなと思った。
後半になるにつれて面白いなと思う場面が増え、ラストは良いところに落ちたなと思った。人間の強さも弱さも、良い面も悪い面も、0か100ではなく、その時々によって揺れ動くものだし、そういった感情や行動の描写が丁寧なところにリアリティを感じさせるものがあるなと思った。

ライオンのおやつ/小川糸

2020年本屋大賞 第2位
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▼ 感想
終末医療のホスピスで残りの日々を過ごす主人公が穏やかな死を迎えるまでの話。全体的に優しい時間や想いにあふれていて、でも少し寂しさも感じる話だった。人生の終わりをこんな形に満足に、穏やかに終えられるなら幸せだろうなと思う。でも、ここまに到達するまでの物理的・心理的準備も大切だと思った。死を迎えることに覚悟を持てれば、自分に素直に生きれるだろうか。残す方の人のことも考えてしまいそう。

騙し絵の牙/塩田武士

2018年本屋大賞 第6位
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▼ 感想
小説を愛し、物語を作ることが宿命のような男の話。斜陽産業である出版業界の変化にあらがっていくような話かと思ったら、タイトル通り、「このままでは終わらないだろうな」というところからの急展開。エピローグで語られる速水の過去が、これまでの速水の行動や思考を裏付けていく。
大泉洋にアテレコして作られたみたいだけど、計算してふざけ、真面目と愛嬌を行ったり来たりする役どころはまさに大泉洋。普段はあまり映像化された作品を観たいと思わないんだけど、この作品は映像化された作品を観てみたいと思った。

満願/米澤穂信

2015年本屋大賞 第7位
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▼ 感想
ミステリ短編集。各話のメインキャラの視点で話が進むので、読み手もその気持ちで読むと思うけど、そこかしこの違和感の正体が最後に明かされる構成。表題作は、この本に収められている6作品すべてに共通するといえる、「表面的なものと、裏に隠されたものは違う」というテーマをまさに表した作品。ミステリ的な表現をすると真の動機の解明に重きが置かれている作品群といえる。

お探し物は図書室まで/青山美智子

2021年本屋大賞 第2位
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▼ 感想
いろんな悩みを抱えながら生きている人たちが、ふとしたきっかけで訪れたコミュニティハウスの図書室で、「何をお探し?」と司書の小町さんに声をかけられたところから人生を見つめなおす物語。本のセレクトだけでなく、付録にくれる羊毛フェルトが良い役割を果たす。
小町さんの「書物そのものに力があるというより、あなたがそういう読み方をしたっていう、そこに価値があるんだよ」というセリフの通り、本やフェルトアイテムの解釈は与えられたものではなく、自分自身で見つけたもの。悩みの答えは意外と自分の内面にあるのかなと思う。
どの話も前向きな終わりで、ちょっと悩んだときに読みたい一冊。

屍人荘の殺人/今村昌弘

2018年本屋大賞 第3位
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▼ 感想
あらすじには具体的に書いてない展開になって、ちょっと想像していたものとは違った。けれど、設定をトリックやそこに「投影されるそれぞれのエゴや心象」として活かしてあって、意外性でミステリっぽさを演出するようなものではなかった。登場人物の心情や背景なども丁寧に書き込まれていて、それを設定や展開とリンクさせていて、ミステリなのに本屋大賞の上位に入ったのもうなずける。

億男/川村元気

2015年本屋大賞 第10位
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▼ 感想
生きていくうえで、ほとんどの人がかかわりを持つはずなのに、そのことを学校では教えてくれないものの典型がお金の話だと思う。特に日本では。
この話の主人公・一男はそういう典型的な日本人の姿といってもいい。真面目に働いているのに、弟のせいで家族と離れ、幸せではない生活を送っている。宝くじが当たって、お金で幸せを取り戻そうとする一男は、ベンチャーで成功した親友・九十九を訪ねたところ、九十九は三億円とともに失踪する。九十九の行方を追いながら、いろんな成功者(=お金を持つ人)と会い、それぞれのお金との向き合い方に触れる中で、お金と幸せの関係を自分なりに考えていく話。お金と自分の関係を見つめなおすことは、自分の幸せの意味を見つめなおすことなのかもしれない。

アイネクライネナハトムジーク/伊坂幸太郎

2015年本屋大賞 第9位

▼ 感想
良い意味で伊坂幸太郎っぽくないなと思った。
登場人物がクロスするタイプの連作短編。日常そこかしこで起きてそうな話だけど、小さな偶然も重なって前向きになれる話ばかり。年代が行ったり来たり、視点が話ごとに変わったりで人間関係が複雑に感じるけど、たぶん整理しながら読めば、そんなに複雑じゃないと思う。もう一回頭を整理して読んでみたい。
あとがきにこの作品が生まれた経緯があって、それもまた物語のよう。斎藤さんは、"あの"斉藤さんなのか!

正欲/朝井リョウ

2022年本屋大賞 第4位
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▼ 感想
タイトルは正しい欲、なんだけど、何が正しくて正しくないのか、そもそも正しいとか正しくないとかあるのか、読み終わったときにそんな気持ちがぐるぐると回っていた。多様性の時代、と言われるけど、その多様性すら限界的なものだと突きつける作品。
100%他人を理解することなんて不可能だと思う。でも尊重することはできる。他人に対する寛容は、自分に対する寛容につながるのかもしれない。逆に、正しくあろうとすればするほど、自分が生きにくい世界を作っているのかもしれない。
「正欲」は誰もが持つものなのに、正しさは人によって異なる。きっと正解・不正解ではなく、そういう考え方もあるということを知るということが大事なのかなと思う。

神様のカルテ/夏川草介

2010年本屋大賞 第2位
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▼ 感想
10年ぶりくらいに再読した作品。
地方病院の人で不足の厳しさを描きつつ、そこに携わる心優しい人々の交流。一止の古風な話し方も相まって、そんなに昔の設定でもないのにノスタルジーを感じる。一止とハルの柔らかなやり取りは、何度読んでもほっこりさせられる。特に第三話の終わりのやり取りが良いと思う。
都会や未来にばかり良いものがあるように見えることもあるけど、身近にも大事なものがある。
『足もとの宝に気づきもせず遠く遠くを眺めやり、前へ前へと進むことだけが正しいことだと吹聴されるような世の中に、いつのまになったのであろう』(作中より引用)

島はぼくらと/辻村深月

2014年本屋大賞 第3位
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▼ 感想
島に住む高校生4人の青春を軸とした優しさにあふれた話。4つの章に分かれていて、島で育ったひと、Iターンでやってきたひと、仕事でやってきたひとなど、取り巻く様々な大人たちと関係していくことで、島に残ること、島を出ることの意味を少しずつ理解していく。
島育ちの幼馴染ということで築いた関係性は、端から見るとうらやましい気もする一方で、高校卒業と同時に離れ離れになることが分かっているということは残酷にも思える。
最終盤には、少し大人になった話が描かれていて、余白のある、良い終わり方だったと思う。


全部で12作品読んでた。月に2冊ペースだから、まあまあかな。

ノミネートされてなかったら読まなかった作品、知らなかった作品も多いし、これをきっかけで初めて読む作家との出会いもある。今年で20回目の本屋大賞だけど、これからも本への興味を拡げてくれる賞として、長く続いてほしいなと思う。

以上

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