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とある女の手記~抜歯入院記録~

これは、左下顎水平埋状智歯*(ひだりかがくすいへいまいふくちし)と診断された30代の女が、初めて全身麻酔で抜歯した際の記録である。たった一人だとしても、誰かの役に立つことがあれば嬉しい。

*左下顎水平埋状智歯・・・横になって歯茎の中に埋まっている状態の左下の親知らずのこと


全身麻酔で抜歯することになった経緯

私の場合、CTで確認したところ下記の状態が判明。
・親知らずが横に倒れた状態で、ほとんどが歯茎に埋まっている⇒歯茎の切開が必要
・歯の根元が釣り針のように曲がっている⇒抜きづらい
・根元が舌の神経に近い⇒誤って神経が傷つけば麻痺が出る可能性がある
・顎の骨に穴が開いている*⇒穴から歯の破片が落ちてしまったら、体内に入り込むことになるため感染症のリスクが高まる。
 
また、
・口内の奥が治療箇所のため嘔吐反射が起きやすい
・持病がなく健康体

これらのことから、部分麻酔よりも体の負担やリスクが少ないと判断、全身麻酔での抜歯を選択した。

*顎の骨に穴が開いている・・・本来歯の根元は顎の骨の内部に収まっているが、私の親知らずは横に倒れた状態で外側に向かって生えていたため、根本付近(顎の内側)には骨が生成されておらず、穴が開いていた。


入院グッズ(2泊3日版)

・前開きのパーカー(防寒用)
・パジャマ
・バスタオル1枚
・フェイスタオル2枚
・歯磨きセット
・スキンケア類
・トラベルセット(シャンプー、コンディショナー、ボディーソープ)
・マスク(予備含め)3枚
・保温できるマグカップ
・お絵描き練習セット(iPadとApple Pencil、イラストのお手本1種)
・充電器類

入院1日目(手術前日)・・・まさかの訓練

10:00
朝の入院受付は混むと聞いていたけどタイミングが良かったようで、待つことなく済ませる事ができた。

10:30
看護師さんによる血圧、身長、体重の測定と病棟・病室案内を受けた。
入院中ずっとお世話になるバーコード付きのネームバンドも、この時に左手首に巻かれた。

10:50
今日はもう予定なしとの事で、早々とフリータイム。
よっしゃ!絵の練習するぞ〜!と思ったら、充電してきたはずのApple Pencilが使えず…充電されるまで指で描く事に。

12:00
ちょっと楽しみにしていたお昼ごはん。
内容はハヤシライスとサラダ、それとバナナ1/2本のデザート付。
病院!って感じの器とトレイに乗せられた食事は、病院!って感じの薄味だったけれど、しっかりお肉も入っていて美味しかった。
抜歯後しばらくはこの硬さのお肉は噛めないだろうな〜と思いながら完食。
パッと見「少なっ!これがカロリー的に成人女性の適正量なら、私は普段かなり食べ過ぎじゃん…」と思ったけど、ご飯200gとバナナの威力は凄まじく、予想外にお腹いっぱいになった。
ごちそうさまでした。

14:00
「火事だー!」の叫びと共に、病棟で避難訓練開始。
ランドリー室で火事が発生した設定のようだ。
「訓練です~」の前置きの後、ハンカチで口をおおい体勢を低くして逃げるよう指示があった。もちろん、それよりずっと前に「今日は避難訓練があって、逃げてと声がかかるけど、逃げなくて大丈夫ですから~」と言われていたので、のんびり絵を描き続けていた。
私の病室はランドリー室から近かったため、訓練の様子が良くわかる。
初期消火では鎮火できず、防災班に消火がバトンタッチされるも延焼している模様。結構被害が大きくなりそうだ。
暫くすると訓練が終わり、無事日常に戻っていった。

16:00
予約していたシャワーへ。
さっぱり。

18:00
夕食の時間。
メインが赤魚の粕漬焼き、副菜はインゲンのお浸しと卯の花炒り、デザートにリンゴ2切れ。
粕漬焼きなんて普段は食べないから、テンションが上がった。
りんごも甘くてみずみずしい。
全部で550kcalらしいけど、メインよりも存在感を放つ200gの大盛りご飯のおかげでちょっと疑ってしまう。
明日は朝から食べられず、食事は夕食時にお粥かららしいので、有り難くゆっくり味わって食べた。

18:40
担当医から現在の体調と、明日の手術についての簡単な確認があった。
すんなり抜ければ翌日退院。
厄介な事になれば退院は最長4日後。
仕事の休みは今日を含め3日しか取らなかったから、何としてでも2日後には退院したい。

23:20
ひたすら絵を描いていて、気がつけばこんな時間。明日のために寝よう。


入院2日目(手術当日)・・・親知らずとの別れ

5:38
ふと目が覚めて起床。
普段は娘の寝相の悪さに必ず1回は夜中に起こされるから、久々の爆睡。

6:10
看護師からアルジネードウォーターなるものを2本貰った。
さっぱりとしたスポーツドリンク風味で美味しい。
1本あたり2500mgのアルギニンが入っているらしい。
へ〜と思いながらパッケージの裏面を見て、カロリーが100kcalある事にちょっとビックリした。2本あるから、ちょっとした軽食くらいか。
薬じゃないから飲みきらなくて良いですよ〜と言われたけど、飲食NGとなる7時までにのんびりと飲み干した。

7:50
手術着を渡される。

8:40
手術室へ。
自動ドアからエントランスのようなところに入ると、10人くらいの医師などが待機していた。朝一はこれから手術を行う医者たちで混雑するとのこと。
名前等の確認の後、9番の手術室へ通された。
エントランスや通路もそうだったが、手術室の中は想像以上に広かった。ドラマと違う。この感想を伝えると、
「ふふ、そうですよね〜」
「ドラマではよく壁が銀色のステンレスだったり、上から手術の様子が見られる造りになっていたりするけど、そんなの実際はないよね(笑)」
「ないない(笑)」
と手術担当の看護師達が教えてくれた。

麻酔科医が到着して、いよいよ手術の行程が進められた。
担当医と麻酔科医、数名の看護師達によって手術箇所やアレルギーの有無、手術同意書等の確認が行われた後、手術台へ案内される。
横たわると体に心電図、右腕に血圧計、左腕に点滴、左手人差し指にパルスオキシメーター、顔に酸素マスクが装着された。
自分の心臓のリズムが機械音で聞こえ始める。
脚や胴体を固定されながら天井を見つめていると、身体が外側からぐゎっと重たくなった。薬が効いてきたようだ。パルスオキシメーターに爪の先が当たってるのが気になっていたけど、もうそんな事どうでもいい。
気持ち悪さは無いですか?と問われ、大丈夫ですと返したけど、口を動かすのも億劫なくらい身体が重くて上手く喋れなかった。

「これから本格的に麻酔が効いてきますからね〜」という声が聞こえたので、抗う事なく目を閉じ深呼吸を繰り返した。

聞こえますか〜?の声に目を開けると、看護師が私の顔を覗き込んでいた。
どうやら手術が終わったらしい。
(本当に寝ている間に終わるんだ。全身麻酔の威力、恐るべし・・・)
そんな感想が頭に浮かんだ直後、強い喉の痛みに気づいた。続いて、口内の何とも言えない不味い味、口元の麻痺感、全身のダルさ。結構きつかったが、幸いにも心配されていた吐き気は無かった。
担当医に声を掛けられ視線を向けると、目の前に親知らずと思しき物体があった。
事前の説明の通りいくつかに分解されており、もとの形がよく分からない。
「すんなり抜けましたか?」と問うと、「うん、まぁ〜…40分、1時間くらい?」と返された。
すんなり抜けたら30分と言っていたので、奥歯が抵抗したようだ。

10:30頃(たぶん)
ベッドが動かされ、虚ろな状態で病室に戻される。
水を飲めるのは一時間後と言われたので、しかたなく喉の痛みと共に寝る事にした。

11:30頃(たぶん)
看護師に起こされる。
歩けるかの確認の後、ようやく水を飲む事ができた。
相変わらず喉が痛い。それに加え麻酔が切れてきて手術箇所がかなり痛い。
「猛烈に痛いが10だとして、今痛みはどれ位ですか?」と聞かれたので、「7〜8くらいです」と答えると、「それは痛いですね」と苦笑いされ、痛み止めを持ってきてくれた。

12:00
廊下が少し賑やかになり、食べ物の香りがカーテンを抜けて伝わってきた。
昼食時間のようだ。
・・・そういえば夫に手術が終わったことを伝えていない。
心配してるだろうから連絡しなきゃと思ったけど、身体はダルいしスマホは取りづらい貴重品ボックスの中だ。
諦めてもう一度寝る事にした。

13:07
ようやく夫に電話する。
軽く会話して電話を終え、病室に戻る。
ダルさが残っていて絵を描く気になれなかった為、寝る事にした。

15:20
目が覚める。
が、もう一度寝る。

17:00
検温と血圧測定のために起こされる。
抜歯の影響で熱が出ていた。
それでも経過は良好らしく、翌日には退院できると伝えられた。
一安心。

18:00
夕食の時間。
お粥だけだと思っていたが、有り難い事におかずも付いてきた。
献立票の《全粥 300g》の表記にちょっと笑った。多い。
おかずは鶏の生姜焼きとブロッコリーのお浸し、かぼちゃを蒸した物で、どれもそのまま飲み込めるくらい細かく刻まれている。デザートのキウイは1/2個が12等分されていた。
恐る恐るお粥を口に運ぶ。美味しい。そして痛い。
歯茎を縫われているため、顎を動かしたり口をすぼませたりすると痛みが走った。とはいえ、習慣のせいで噛まずに飲み込むことには抵抗がある。痛みに耐えつつ咀嚼した。
朝昼抜きにも関わらず空腹感は全くなかったが、どうやら胃は食べ物を欲していたようだ。お粥300gなんて食べられないと思っていたが、おかずと共に完食できた。
唯一食べられなかったのは、お茶ゼリー。
麻痺が残っていた場合でも嚥下しやすいようにしてくれているのだけれど、麦茶味のゼリーはどうしても食べきる事が出来なかった。

19:00
痛み止めを飲む。

19:20
恐る恐る歯磨きをする。
口をすすぐ以外は特に痛みはなかった。

19:30
ダルさもなく痛み止めが効いてきたので絵を描く事にする。

22:00
アップルペンシルの充電が切れる。
しかたなく指で描く事にした。

22:30
指では埒が明かなくなったため、寝る体制に入り、忘れない内に手記をまとめる。
少しづつ痛みが出てきた。

23:30
左腕が点滴から開放される。

0:00
痛い。

0:35
巡回の看護師に薬をお願いする。
痛み止めの服用は6時間空ける必要があるため、午前1時に持ってきてくれるとの事。点滴が外されたためか、空腹感もでてきた。

1:00
痛み止めを飲む


入院3日目(手術翌日)・・・痛みと共に日常へ


6:04
携帯のアラームと活動を始めた周囲の生活音で目が覚めた。昨夜は寝るのが遅かったうえに、3時前と4時半過ぎに起きたからまだ眠い。

6:40
看護師に声をかけられハッとした。ベッドでゴロゴロしていたら2度寝していたかようだ。
検温してまた1人になると、再びウトウトした。

7:14
3度寝から目覚め、いい加減ちゃんと起きることにした。
洗面所で鏡を見ると、左頬から首元にかけて少し腫れている。軽く触れると痛みを感じた。できるだけ優しく洗顔し、髪を梳いでいると朝食が運ばれてきた。

7:30
朝食を食べる。
メニューは全粥300gと豆腐のあんかけ、昨日より粗く刻まれたほうれん草のお浸し、海苔の佃煮、ヨーグルトだった。
点滴がない事もあり、昨日と比べてテンポよく食べられる。
全体的に薄味だから、ヨーグルトの日常的な甘さがより強く感じられた。
今回もお茶ゼリー以外は完食できた。

8:30
歯磨きや着替えを済ませた後、しばらくして担当医が巡回にきた。
口内の確認と抜糸の日程を調整してもらった。

8:40
身の回りの物をバッグへ詰める。
できるだけ荷物を持たないようにしたおかげで、あっという間に荷造りが済み、暇を持て余した。

9:25
会計のスタッフが入院&治療費の請求金額が書かれた紙を持ってきた。
金額を見て、限度額適用認定証を取得しておいて良かったと思った。

9:33
精算するために1階の精算窓口へ向かう。平日なのにかなり混雑していて、待合スペースのソファは殆ど埋まっていた。
番号札をとり順番を待つ。無音で流れている情報番組のお料理コーナーをぼんやりと見た。

9:50
精算を終え、一旦病棟に戻って処方された薬の説明と退院後の注意事項の説明を受ける。入院中の全ての行程が終わると、左手首に巻かれたネームバンドが外された。

10:08
無事退院。病院まで夫が迎えに来てくれた。


後日談・・・抜歯箇所の抜糸

私の仕事の都合で、抜糸は退院後2週間以上過ぎた平日に行われた。
9時の予約に間に合わせてバスで病院に向かう。
手術から10日ほどで頬の腫れは完全になくなった。処方された抗菌薬と痛み止めを飲み切るころには抜歯の痛みは治まっていたが、口の動かし方によっては縫合箇所が引っ張られて軽い痛みや違和感がある。食事や会話、欠伸にさえも気を配らなければ痛みを感じるので、かなり煩わしかった。でも、それも今日でお終いだ。
9時ちょっと前に呼び出しがあり、診察室へ向かう。
担当医と挨拶を交わし診察用のイスに座ると、待ちに待った抜糸が始まった。

が。

めちゃくちゃ痛い。
歯茎にピッタリとくっついた糸を切るのだから、当然ハサミを歯茎に押し当てる必要がある。場所が場所だけに、歯茎に当たるのはハサミの先端だ。
私は比較的痛みに強い方だが、グッとハサミを押し当てられる度に顔を思いっきりしかめてしまうくらい、とても痛かった。

抜糸が終わると担当医から左下顎水平埋状智歯の抜歯に関する全ての工程が完了した旨が伝えられた。
初診から数えて約半年お世話になったこの先生とも今日でお別れだ。もちろん、右下に残された最後の親知らずが悪さをしない限り、だが。(ちなみに右下の親知らずも横に倒れた状態で完全に歯茎に埋まっている水平埋状智歯だ)

「やっぱり、抜きづらかったですか?」
せっかくだから聞きたいことは聞いておこうと、歯茎の疼きに耐えながら質問すると、苦笑いで「そうですね」と返された。

特殊な器具を用いたわけではないが、抜歯中に歯が穴から落ちないように、口内から指で親知らずを支えながら抜歯したらしい。
「全身麻酔を選択して良かったと思います」といわれ、選択が正しかったことにホッとした。

「お手数をおかけしました。」と頭を下げ、お礼を言って診察室を出る。
時刻を確認すると9時7分だった。


おまけ・・・入院中に練習で描いた絵(模写)

ステキなイラストを描かれる遠田志帆さんが手掛けた「medium 霊媒探偵城塚翡翠」の装丁を模写していました。

模写

模写比較

比べてより顕著になる、力量の差。
個人的には、Wi-Fi環境がなくてイラストに合ったブラシがダウンロードできなかった上に、ペンの充電切れで一部指で描いたにしては頑張った方(だと思いたい)。
はぁ・・・。
遠田先生のような美しいイラストが描けるようになりたいな。
今後も練習、頑張ろう。

あ、小説の内容は言うまでもなく素晴らしいもので、数日間は余韻から抜け出せませんでした。

Special Thanks

厄介な状態の親知らずを抜歯してくださった担当医のW先生。
そしてお世話になった病院の関係者の皆様。
入院中、ワンオペで娘をみてくれた夫・シュウ。
初めて丸一日以上離れたけど、泣くことなく過ごしてくれた娘・オジョー。

そしてニーズが低く拙い文章をここまで読んでくれた方々。

本当にありがとうございました。

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