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詩と詩と思しきものの観察及び観測

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詩と詩と思しきものを観察または観測したものです。
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#ミディアムポエム

濃淡の話[詩]

濃淡の話[詩]

 帽子は目深に被りなさい。影/法師/のリンパ液が透明なまま地面をつたっている。スニーカーの踵のあたりまで。じり、と足を動かして、おまえ、逃げようとしているのか(しかし何から、?)奥まったところ、薄暗いところ、に蟠る液晶と天気予報——しかし最近の夏の黒さよ。

昼下がりの駅のホームに、私は私の小さな犬を見た。今にも語ろうとする犬。おまえの犬は犬ではないと言われたけれど、私の犬は紛れもなく犬で、私は私の言語を持たない。犬を抱えたままバスに揺られた。私たちはみんな犬を抱えていて、マスク姿で街を歩く。犬を撫でるやさしさで、これでよいと思う。

カップヌードル・チリトマトの陽気な湯気を眺めながら、わたしはわたしとあなたを規定するすべてを投げ捨ててみたいと思った。そうすればわたしはあなたと湯気を揺らすこともない透明で限りなく不毛な踊りを踊ることができるのに。

幽霊

幽霊

夕方の駅前の路地の幽霊、しかし我々を形づくるのはつねに半透膜であるから、坂道の商店の曇ガラスに透けながら映り込んでしまう。皮膚表面の微小な穴を透過せよ、領主がひとり静かに晩年を送ったあの城でおまえがそうしたように。冬の街に鮮やかなものはおまえの虹彩だけとなる。