カミングアウトの必要性
前回の記事で生みの親はナチコが適任と判断し、私は生活を支えるべく死ぬ気で働く決意をしました。
この時点で妊活開始までにやるべきことは
•スケジュール計画&収支予想
•公正証書作成
•両親へのカミングアウト
順番もこの通りかな。
いやいや、おまえ親へのカミングアウトは済んでるって言ってなかったか?
そうです私はカミングアウト済み。子どもがほしいこともバッチリ伝えてあります。
そう、このカミングアウト先はナチコのご両親。ここまで話を進めておきながら大変言いにくい話なのですが、なんと相方の両親は娘がレズビアンであることを知らないのです。何度かナチコの家族には会っているけど、もてなされ具合からしておそらく私は世話好きなルームシェア相手だと認識されている…悲しきかな。
先述した通り、子どもを産み育てるなら私たちの関係はきちんとしておきたい。それは女ふたりから生まれてくる子の味方を作っておく意味でもあるし、私たちの関係を証言してくれる存在を持つことへの必要性を感じたからでもありました。お互いの両親から理解を得ておくことは必須事項なのです。
となるとですよ?
勤め先への事前報告も必要な気がしてきませんか。
だって妊娠中のナチコの身に何か起きたときにいきなり「実は以前からお付き合いしている女性がおりまして、えぇ女性です。そうです同性愛者です。で、彼女は現在妊娠中なのですが…いや私と彼女の子どもでして」なんて言ってられないし、こんな切羽詰まった状況で全てを暴露する事態は何がなんでも避けたい。それに妊娠中は何もなくとも出産時は立ち会いたいし、子どもに何かあったときナチコが駆けつけてやれないなら私が走るしかない。
という経緯で会社へのカミングアウトもタスクに追加。ドナーが決まり次第、信用できそうな上司にありのままを伝えることにしました。
ちょっと話が飛躍するのですが、私は職場でのカミングアウトに対してほとんど抵抗感がありません。
19歳で実家を出て以来、自分のセクシャリティを神経質に隠すことなく生きてきました。別にわざわざ言うことはしませんが、嘘をつくくらいなら正直に話すスタンスでいます。
オープンに生きようと決めたのは母へのカミングアウトがきっかけでした。全く別の話題から始まった口論の勢いで打ち明けてしまうという、典型的な悪いカミングアウト例です。とても残酷な知らせ方をしてしまいました。あのとき母の瞳からさっと光が消えたのを見た瞬間、相手を傷つける意識を持ってセクシャリティを振りかざした自分をひどく軽蔑しました。内臓が捻じ曲がり、骨が溶けていくような感覚でした。突然のことに泣き出してしまった母には申し訳ない気持ちでいっぱいでしたし、今でも悔やんでいます。
それ以来、私はセクシャリティを隠さずに生活するようになりました。実の親に打ち明けたことでこわいものがなくなったというのも本音ではありますが、必要に迫られたカミングアウトはろくなことがないという結論に至ったことが最大の理由でした。
というわけで少し前の記事にも書いた通り、大学への入学直後の私は盛大に弾けました。それまで隠していた反動から、隠さない生活どころかもはや「歩くカミングアウト」状態です。いわゆる男ウケとは縁遠い見た目だったので、親でもない中年男性からセクハラまがいな発言を浴びせられたこともありました。バイト先で私が同性愛者であることを知らずにゲイを笑いにして盛り上がる先輩もいましたし、それと似たような状況は今の職場にもあったりします。傷ついた過去は未だに生々しく記憶の中で横たわっています。
そういう人たちに大声で自分のセクシャリティを叫ぶつもりはありませんし、状況や相手によっては恋愛話を向けられても適当に誤魔化しつつやり過ごすこともあります。
でも、そうやって生きてきて辛くなったり落ち込んだりするうちにわかったことがあったんです。
それは差別的な発言をする人が、イコール全くの悪人ではないということ。
私が同性愛者であることを知った上で攻撃してくるならそれは悪意でしかありませんが、同性愛者を笑いのネタにしたり差別的な言葉を使う人の中には、その場に当事者がいないと思い込んでいるから安心して言葉にしただけの人もいます。
あえて当事者がいない(であろうと判断した)場所で発言したということは、かなり寛容な見方をすれば、その人は誰も傷つけたくないということです。少なくとも、当事者に向けてはいけない発言をしている自覚があるのでしょうね。根本的に悪気がない人なら、こちらが「ここに当事者がいますよ」と明かせば反省しますし、二度とその場にいない人を笑ったりしなくなります。
それを知っているから私はカミングアウトに怯えないし、あまり抵抗がありません。
「ここにいますよ!」と声を上げた時に相手がどう受け止めるかなんて、そんなの言ってみなきゃわからないじゃないですか。
だから私は怯えて隠れることを、少なくとも"正しい"とは思っていないのです。
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