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『友人の本棚~1分で読める感想文~』Vol.68「i(アイ)」

悩みというのは、一生懸命に生きれば生きるほど、大きくなるのかもしれない。もしも誰かの心にトゲとなって刺さったまま、未だに抜けない言葉があるなら、僕はそのトゲを抜いてあげられる人になりたいなと、そんなことを思った。

「この世界にアイは存在しません。」入学式の日に、数学教師は言った。その言葉は、アイに衝撃を与え、彼女の胸に居座り続けることになる。読みながら、久しぶりに心をかきむしられるような気持になった。

引用は、地震が起きたときに避難せずに東京に残りたいと言ったアイと、アメリカに住む親友のミナとのやり取りから。

「ありがとう。」
「お礼なんて言わなくていい。その代わり、ごめんなさいも言わなくていいからね。あんた今、言おうとしてたでしょ?」
「うん。してた。」
「だめだよ。謝ったらだめ。アイがそこに無事でいてくれること、私は本当に嬉しいんだよ。その苦しみごと、アイがそこにいてくれたらそれでいいんだ、私は。分かる?」
「うん。」
「思う存分いなさい。そこに。」
「うん。」
ありがとうと、ごめんなさいを言ってはいけないのであれば、何を言えばいいのだろう。アイは言葉に困った。でも、先にミナが「それ」を言ってくれた。
「大好きだよ」
アイもそうだった。ミナのことが大好きだった。だから言った。
「ミナ、私も大好き。」
その言葉は、美しい雨のようにアイの心を洗った。ミナはアイの心に、忘れていた健やかさを戻してくれた。
「大好き。」

ありがとうとごめんねの間に、いや間ではなく、それを内包した言葉が「大好き」だったんだ。大好きには、ありがとうも、ごめんねも、他にも多分、たくさんの言葉が入る、とってもとっても大きくて広くて深い、そんな言葉だったんだと、改めて感じた。

大好き。もしかしたら、これがこの世にある言葉の中で、二番目に嬉しい、メダルで言えば銀メダルなのかもしれない。「すごいね」よりも「素敵だね」よりも「尊敬します」よりも。大は小を兼ねるというけれど、大好きにはたくさんの嬉しい気持ちが全てつまっているのだろうと思った。

そして栄えある第一位、金メダルはやっぱり「あいしてる」かな。

……

この本を読み終えたとき、こんなにキモイことをすらすら書けるほどに、僕の心は色んな感情を内包していた。もう、語彙力とかどうだっていい。とりあえず、めっちゃ良かった。

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