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短編

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まとまりのない言葉たち。
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2018年10月の記事一覧

てんかびと

てんかびと

大抵の人間は転がっている。

転がされているのではなく
転がっているのである。

例えば仕事。

転がっているうちに仕事の山に埋もれて死んでいく。

例えば人生。

転がっているうちに他人の人生に足を伸ばしている。

大きな掌の上で
人間が産声を上げた、
それが地球の最初で最後の失敗だった。

自分の足では立たない、
二足でも四足でも歩かない。

世は未だに羊水に埋もれているのだ。

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ブルーハーツが死んだ夜

ブルーハーツが死んだ夜

雨が降った夜、
ペトリコールに包まれてブルーハーツは
終わりを告げた。

終わらないはずのロックンロールが
終わったのだ。

埃をかぶった盤、
見過ぎて皺を寄せた歌詞カード。

深夜2時過ぎ、
ラジオから流れてくる音楽は
流行りのポップソング。

たまらなくなった。
何もかもが虚しくなった。

itunesに落としたブルーハーツの曲、
イヤホンで聴いた。

耳から流れて、全身の細胞で呼吸を始める。

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前髪。10月、失恋。

前髪。10月、失恋。

______前髪を切る、視界良好

この度、私は失恋をした。

26年の人生で3度目になる。

彼の置いていったものは
よれよれのトレーナーと壊れたラジオ、
それと合鍵の3つ。

ちなみに彼は猫アレルギーの猫好き。
ネギ入りの卵焼きは許せないらしいし、
柔軟剤は多めに入れるのが約束。

彼の長年吸っていたたばこが変わったのは去年の冬だった。
その頃から私たちの関係は少しずつ灰になっていたのだと今頃

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