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詩集「声を聞かせて」

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あなたの声をきかせて。 そしてこっそり私の声をきいて。
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#自由詩

嘘 ひとつ

.
今日の終わりに
嘘をひとつ ついた
あなたが
あんまりにも
泣きそうだったから

平気よ、平気
ひとりでも、大丈夫
だから いいの
ひとりきりに させて

明日 また 遊ぼうよ

夜の底で、ひとり

夜の底で、ひとり

伝えたかったはずの言葉は
もう 見失ってしまって
影さえ 掴めない

過ぎていく時間を
ただ
静かに眺めている

冷たい夜の底で、ひとり

積もるため息

積もるため息

何も言わないまま
ため息だけが積もって
あなたが
わたしが
遠くなっていく

たぶんこれで終わり
きっともう会えない

さよならも言わずに
沈黙だけが饒舌で

探していたのは

寂しさを埋めるための
恋をしただけ

出会いは
ただの偶然
さよならは
必然

涙は見せずに
お別れを

背中合わせ

背中合わせ

.
傷つけあうことしかできないのなら
さよならを

背中合わせの憂鬱に
どちらも気付けないで
抱えたのは
言わない虚しさ

ふたりになれなかった、二人

泣いたのは

泣いたのは

ねえ
彼女が泣いたのは
誰のせい

ねえ
彼女が泣いたのは
ねえ
なんの為

触れるはずの指先は
冷えて固まったまま
彼女の涙を拭えずに

ねえ
こぼした涙の行先は、どこ

ねえ、ほら、ねえ
声が失われていく

あいたい

あいたい

声が
言葉が
匂いが

記録の中
記憶の底

泣きたくなるほど
あなたに
会いたい

声を、聞かせて

声を、聞かせて

思い出が遠くなる前に
嫌いになってしまう前に

もう一度
声を 聞かせて

友達のままでいいから
もう一度
声を
聞かせて

優しい人

優しい人

いつだって
あなたは優しい人だった
いつだって
あなたは正しい人だった

忘れられた約束
波間にかき消された、声

繋がっていたはずの手は
いつの間にかほどけて

あなたは
ただ
優しい人だった

あなたも、わたしも

あなたも、わたしも

月のきれいな夜でした
触れられない距離を
三センチ残して

きっと いつか
思い出すのでしょう
こんなにも
切なくなった日のことを
他人事みたいな顔をして

あなたも
わたしも
ひとつにはなれずに

温もりのある場所

温もりのある場所

正しい人の
正しい声が
聞こえる場所はどこですか

心の先からしんと冷えて
自分を
未来を
見失いそうです

正しい人の
優しい声は
いつかのどこかに
今もあるのでしょうか

待っているのです

孤独を
抱きしめる為だけの言葉を
ずっと
探して

優しさとはなんでしょう
温もりとはなんでしょう

明日が
どこから来るのかわからずに

こうして
こうして
誰かを
何かを
探して待っているのです

答えを知りたくて

答えを知りたくて
君の手に触れた

寂しい横顔の
理由はなに

寂しい
悲しい

迷子になった、ふたり