「記憶」をめぐるポータルサイト(Portal Site of Memory Studies)
記事一覧
三宅香帆『なぜ働いていると本が読めなくなるのか』
タイトルが一人歩きしている感もある(それだけ秀逸なネーミングということです)話題の本。
「本」が必ずしも「書籍」だけではなく、いわゆる「余暇」が取れなくなることを指していることは一読すれば分かります(読まないコメントが多いこと・・、それも話題の書の宿命でしょうか)し、タイトルの問いかけへの直接的な回答は最後の章とあとがきに記されているわけですが、本書の本領がそこではないことは、読み始めてみるとし
ルース・オゼキ『あるときの物語』
原著2013年、翻訳は2014年、そして私にも縁があってこの2024年にルース・オゼキ『あるときの物語』に目を通す。
(時には過酷な)「いま・ここ」ではない時間と場所、そしてそこにいる(あるいはもういないかもしれない)人を思い浮かべて、その「あなた」に向けて言葉を紡ぐ「想像力」の重要性が、独特な形で表現されていた。「夢」を媒介して「時間を遡る」ことで、過去と現在が変容してゆく様子が、作中で展開さ
柴崎友香『あらゆることは今起こる』
柴崎友香『あらゆることは今起こる』。最近で一番楽しみにしていた本。ADHD診断を受けた柴﨑さんの日常(書内でも考察される言葉)や見えている世界、の様子がその苦労も含めて率直に記されていて、記憶と場所との繋がりなど、彼女の小説をより理解する導きにもなってくれそう。診断を受けることを「地図」を作ることに喩えているのは、なるほど、とも思いましたが、むしろそうした見え方が彼女が人文地理学に惹かれた一因かも
もっとみる『「記憶」で読む『鬼滅の刃』』を出版しました
このたび、小鳥遊書房より『「記憶」で読む『鬼滅の刃』』という本をださせていただきました。何やら、流行の尻馬に乗っかった(しかも遅れ気味に)ように見えるかもしれませんが、これまでまとめてきた『記憶と人文学』や『カズオ・イシグロを読む』とも繋がっている仕事のつもりです。
記憶研究は趣味といえば趣味なのですが、趣味は片手間ではなく本気で取り組むから面白い、というスタンスで、これからも真剣に取り組んでゆこ
「風景論以後」展@ 東京都写真美術館
東京都写真美術館での「風景論以後」展「日常的な風景が、国家と資本による権力構造そのもの」という図録の言葉にも表れる、1960年代以降の日本での風景論にもとづく感性で撮られた写真群。一見何気ない風景写真に撮影者の視点を感じ取るという、見る側の姿勢も大いに刺激される展示。ゆっくり廻るのがよいです。その中に見たことあるものがと思ったら、こちらの表紙にも使われてる、広島の街を撮り続けている笹岡啓子さんの作
もっとみる映画『アフターサン』
映画『アフターサン』(シャーロット・ウェルズ、2022)
イギリスに住む11歳の娘と31歳になる父親との、トルコでの一夏の休暇旅行の思い出を、父親と同じ歳になった娘が回想する。父親と娘がその後どうなり、また、(このような回想のそもそもの一因とも思われる)娘とその「家族」がどうなるのか、という点も後からじわじわと気になってくる静かな佳作。
(以下具体的描写に触れながらの感想)
ホテル滞在というこ
『現代思想』5月号(鷲田清一)
『現代思想』(鷲田清一特集)学生時代から好きで割とマメに追ってたし、しなやかなその文体に憧れもあったので、面白く読んでます。鷲田さんは(良い意味で)中心となる思想的な芯(キーワード)がないことが特徴だと思っていたので、『現代思想』で特集が組まれるのは個人的には意外な感じもしました。それはもちろん鷲田さんに思想がないという意味ではなくて、それは概念モデルでなく思索の実践(パフォーマンス)においてこそ
もっとみる日常記憶地図
「日常記憶地図」(https://my-lifemap.net/)のサトウアヤコさんから以前に参加したワークショップをもとにした「作品」のカードを送っていただく。大学時代の東広島市と結婚間もない頃に住んでいた松本市の当時の地図を見ながら、私と妻が話したことをまとめてもらったもので、あらためて印字されたものを見ていると、「地図を見て想起」→「言語化して発話」→「文字起こしを確認」→「印字されたカード
もっとみる山名淳編『記憶と想起の教育学』
『記憶と想起の教育学』(勁草書房)
「教育学」と題されてますが、歴史的事件(ホロコーストや震災)を教育の題材にすることから、ルソーやアーレントの思想にとっての「記憶」の意義、記憶の「継承」の問題など、広く人文学的なテーマを取り上げています。
https://www.keisoshobo.co.jp/book/b616924.html
声をかけていただいて、私も門外漢ながら震災や原爆、ホロコース
イギリス詩人Roger Robinsonの詩集Portable Paradise
カリブ文化・思想についての濃密な記事を連載中の中村逹先生からご教示。トリニダード・トバゴがルーツの英国詩人Roger Robinsonの詩集。2017年に発生したグランフェル・タワー火災についての鮮烈な詩群も含めて、ストレートな言葉づかいながら「分かる」とは軽々には言えない厚みを感じさせる作品。ウィンドラッシュ事件への言及もあり、中村先生にお返しした後は自分でも入手して再読しようと思います。そして
もっとみる森直久『想起』読書会でした
『想起』読書会、盛会でした。
まずは森先生による詳細な自著解説。
強調されていたのは、想起が特別な形での「知覚」だということ。自己の二重化つまり、「かつての私」と、かつても含んだ「いまここ」のあいだでの隔たりということができるでしょう。
そして大澤真幸の『身体論』にも依拠しながら以下のような、身体にもとづく三種のプロセスを分類。
「分化する自己(環境と自己の即応=抑圧身体)」再認、プルースト的
森直久『想起』読書会に向けて
森直久『想起』の読書会もあるので再読しながら、「身体」がキーワードになってたので、同シリーズの長滝祥司『メディアとしての身体』や河野哲也『間合い』もつまみ読みで参照。スポーツや武道(剣道)、能などを具体例に挙げて、身体を通じた世界との対峙やコミュニケーションについて興味深い考察を展開。それぞれ示唆に富むと同時に、身体感覚や内観の言語化とその共有ってやっぱり難しいし、慎重にやらなくてはな、ということ
もっとみる土田知則『二一世紀のパトリック・モディアノ』
土田知則『二一世紀のパトリック・モディアノ』(小鳥遊書房)。「記憶」が主要なテーマということで、紹介していただく(深謝)。一口に記憶がテーマと言っても、作家ごとにアプローチが全然違うので、本書はテクストに寄り添いながら過去の「謎」や「虚実のゆらぎ」が表される様子を丁寧に描いており、精読のお手本としても学ぶところ多かったです。記憶の話と言うことで、拙著で取り上げた点とも響き合うところあるなと、共感し
もっとみるカズオ・イシグロのガイド本を出します
カズオ・イシグロのガイド本を出させてもらうこととなりました。水声社より10月25日発売です。
これから読んでみようか、という方はもちろんですが、「イシグロか、結構詳しいぞ」という手練れの方からもご感想やご意見など伺いたいです。それなりに長くイギリス文学とイシグロの研究にたずさわってますが、みなさんとも一緒に理解を深めてゆきたいです。
『クララとお日さま』までの全八長編読解+キーワード集で2200円
ヒルデ・オストビー&イルヴァ・オストビー『海馬を求めて潜水を』
見たものを忘れない超絶的記憶力を備えた男や、海馬を手術で切除した男、またエリザベス・ロフタスの虚偽記憶実験などの認知科学や心理学の豊富な事例に加えて、文学作品からの引用がちりばめられており、誰もが一度ならず感じたことのある幾多の記憶の諸相が並べられているエッセイ。記憶の不思議をまとめようとする動機は、拙著『記憶と人文学』と非常に似ているな、と(僭越ながら)感じられた。併せて読まれることおすすめしま
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