ヒルデ・オストビー&イルヴァ・オストビー『海馬を求めて潜水を』


見たものを忘れない超絶的記憶力を備えた男や、海馬を手術で切除した男、またエリザベス・ロフタスの虚偽記憶実験などの認知科学や心理学の豊富な事例に加えて、文学作品からの引用がちりばめられており、誰もが一度ならず感じたことのある幾多の記憶の諸相が並べられているエッセイ。記憶の不思議をまとめようとする動機は、拙著『記憶と人文学』と非常に似ているな、と(僭越ながら)感じられた。併せて読まれることおすすめします(笑)

生物の記憶の様々な段階についても、単細胞の粘菌がエサを求めて迷路を越えてゆく実験にも言及。「粘菌、クラゲ、鳴禽類、ウナギ、オオカバマダラ、吸血コウモリ、ツノメドリ、そして象は異なる記憶の謎を代表している」という一節から人間の記憶への考察も深まってゆく。
ロンドンの複雑な路地を走るタクシー運転手は海馬が発達しているという話も興味深かった。

村上春樹『ノルウェイの森』の一節が挙げられてることには驚いた(私も拙著で同じところ触れてるので)。村上は欧州でも人気のあらわれなのか(まさか、原著がノルウェーだから、ではないよね)



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