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奔馬-豊饒の海-を読んで

正に刀を腹へ突き立てた瞬間、日輪は瞼の裏に赫奕と昇った。

奔馬での最後の一文であり、本作の主人公の勲が切腹する場面である。

奔馬の内容

親友・松枝清顕を看取った本多繁邦の前に、清顕と同じく脇腹に三つの黒子を持つ青年・飯沼勲が現れる。腐敗した政財界と疲弊した社会を変えんと志す勲は、右翼塾を主宰する父や塾生、恋人や財界重鎮らに翻弄され孤独を深めていく。本多の見守るなか、純粋さを求める青年は、たった一人の叛乱へした走るのだった。

前作である、春の雪を読了した私としては当然の流れだと思い読み出した。
しかし、繊細さを感じた春の雪とは異なり、より力強く、熱さを感じる作品だった。
そしてどこか感じる土臭さ。
しかしそれがだんだん洗練されているような様が、私の心を響かせた。

まず印象的なのは、勲と本多が滝の下で会う場面。
そこまでの本多はどこか暗く、周りの世界もモノクロに無理矢理色を足したような印象があった。
しかし、勲と出会い清顕の

「又、会うぜ。きっと会う。滝の下で」

この別れの言葉を思い出した瞬間から色がより鮮明に感じられた。

その後、本多は勲から「神風連史話」を借りその話に入っていく。
正直、私はこの「神風連史話」の部分があまり頭に入ってこなかった。分からなかった。
私は勲がどうなっていくのか、本多がどうするのかなどが気になるのに参考文献をひたすら読まされているように感じた。
しかし、この神風連について知らないとこの後の話をよく理解できないと感じた私は、「神風連資料館」へ行き「神風連とは」「神風連の乱の意義」「神風連の乱の傷跡」を学んできた。三島由紀夫が感じたものを少しでも感じたいと思ったのである。

↑神風連資料館の入館券、資料館説明書、資料館でいただいた館報

資料館に行ったことで、奔馬への理解、勲そして三島由紀夫への理解が少しは出来たように感じる。

また、この豊饒の海が面白いと感じたのは前作に出てきた登場人物や場所が出てくることだ。
時間軸は違うのに、点と点が繋がることで輪廻転生を確実なもののようにさせていく。
すごいの一言で済ませてはいけないが、本当にすごい。

私個人としては本多が弁護士になってからのスピード感がとても好きだ。
内容の素晴らしさ、面白さはもちろん。
本多の勲=清顕への友情が堪らなく好き。
清顕を助けることができなかったことを取り戻すかのように勲へ向ける思い。
それが友情なのだと感じさせられた。

そして、冒頭に出した最後の一文。

正に刀を腹へ突き立てた瞬間、日輪は瞼の裏に赫奕と昇った。

勲が切腹したのは夜中。
太陽など昇る時間ではない。
それを忘れさせる表現力。言葉。
すごい作品を読んでしまった。
という満足感で心は満たされた。

ページ数は少なくない。
だが、読む価値は大いにある作品だと思う。
残り「暁の寺」「天人五衰」も楽しみだ。

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