2021年日本シリーズ総括③第4戦 また投手戦、少ないチャンスで明暗

2021年日本シリーズ第4戦(東京ドーム)の先発はヤクルトが石川雅規、オリックスが山﨑颯一郎。

ヤクルトのベテラン左腕、石川雅規はプロ20年目、通算177勝を挙げており、2015年、ソフトバンクとの日本シリーズで第1戦、第6戦に先発して以来の登板だが、その2試合はいずれも敗戦投手となり、日本一を逃している。
40代投手が日本シリーズのマウンドに上がるのは、史上8人目である。

一方、オリックスの190cm長身右腕、山崎颯一郎は勿論、日本シリーズ初登板・初先発である。
山本由伸と同級生、2016年ドラフト同期入団のプロ6年目だが、2019年にトミー・ジョン手術を受け、育成契約となった。そこから再び支配下登録を勝ち取って、今季プロ初勝利を挙げている。
石川が41歳で、山﨑颯一郎が23歳。
石川が通算177勝で、山﨑颯一郎が2勝。
年齢とプロのキャリアは石川のほうがはるかに上だが、身長は山﨑颯一郎が23cmも上回るという投げ合いとなった。

ヤクルトは初回、二死から3番の山田哲人がセンター前にクリーンヒットを放ち、続く4番・村上宗隆が捕えたように見えたが、バットを折られてライトフライ。山﨑颯の立ち上がりを捕らえられず、無得点。
一方、石川も初回、2番の宗佑磨にレフト前に運ばれたが(シリーズ4試合連続安打)、その後は3番・吉田正尚から空振り三振、4番の杉本裕太郎をセンターフライに打ち取る。

そして、試合は2回に動く。
ヤクルトは2回裏、先頭のドミンゴ・サンタナがライトスタンドへ叩き込み、シリーズ2号となるソロホームランで1点先制。
続く6番・中村悠平は、マウンドの山﨑颯と同じ福井出身だが、ショートへの内野安打を打って、郷土の先輩の意地を見せる。
だが、山﨑颯はオスナ、西浦直亨と連続三振に斬って取り、1点で食い止めた。
3回も先頭の1番・塩見泰隆にレフト前に落ちるヒットを打たれ、3番・山田哲人にも四球を与えたが、4番・村上宗隆をショートフライ、5番・サンタナをサードゴロに打ち取る。
4回は三者凡退、5回は塩見泰隆に四球を与えたが、3番・山田哲人の打席の初球、塩見がスタート。しかし、捕手・若月健矢のストライク返球でタッチアウト。塩見の盗塁失敗にも助けられれ、三者凡退。
山﨑颯は5回を投げて、被安打4、5奪三振、2四球ながら、失点はソロホームランの1点だけに抑えた。

一方、石川は2回表、先頭の5番・T-岡田を四球で歩かせたが、すぐに6番・安達了一をショートゴロ併殺で打ち取った。
結局、石川は2回から5回まですべて三者凡退と、オリックス打線に付け入るスキを与えない。
5回を終わって、ヤクルトが1-0とリードして、後半戦へ。

先に動いたのはオリックスベンチだった。
オリックスは6回表の攻撃、一死走者なしで「9番・投手」の山﨑颯に打順が廻ったところで、代打・大下誠一郎を告げた。
大下は初球を打っていい当たりのサードライナーに倒れた。
2死走者無しとなったが、1番・福田周平はセンター前にヒットを放つ。
続く2番・宗の当たりもライト前へ。
これを右翼手のサンタナが捕球寸前にグラブで弾いてもたつく間に、スタートを切っていた一塁走者の福田は一気に三塁を蹴り、ホームイン(記録は宗のヒットとサンタナのエラー)。
オリックスが同点に追いついた。
サンタナは自ら打ったホームランを帳消しにしてしまう手痛いエラー。
しかし、石川は続く3番・吉田正尚をセカンドフライに打ち取り、なんとか同点どまりでイニングを終えた。

オリックスはここからブルペン勝負。
この日は、2016年以来の日本シリーズのマウンドとなるベテラン右腕の増井浩俊。
しかし、6回裏、増井は先頭の山田哲人にいきなり四球を与えてしまう。
続く、村上宗隆の打球は低いライナーとなって一塁方向を襲うが、一塁のT-岡田が倒れながらキャッチし、山田が還れずダブルプレー。
これでオリックスにツキが戻ったかと思いきや、増井は続くサンタナにも四球を与え、二死一塁。
ここで6番の中村悠平にライト前に弾き返され、二死一、二塁となって、右打者のホセ・オスナを迎えたところで、オリックスは増井を諦め、3番手にサイドスロー右腕の比嘉幹貴を投入。
だが、比嘉もヤクルト打線の流れを止めることができず、オスナにセンター前に弾き返されて、2-1とヤクルトに勝ち越しを許してしまう。

ヤクルトも7回からは2番手・石山泰稚を投入。
石山は4番・杉本裕太郎を空振り三振、5番・T-岡田にシフトの逆を突くレフト前ヒットを許したものの、6番・安達了一、7番・紅林弘太郎を抑えた。
こうなれば、ヤクルトはシーズン通りの「勝利の方程式」だ。
8回からは3番手で清水昇が上がる。
清水は代打のアダム・ジョーンズを空振り三振、続いて、代打のスティーブン・モヤが東京ドームの天井に当たるヒット(記録はファーストへの内野安打)を許したが、続く福田をショートゴロ併殺打に打ち取り、ピンチを切り抜けた。
オリックスも7回は4番手の左腕・富山凌雅、8回はタイラー・ヒギンスが三者凡退に抑える。

試合は8回裏を終えて2-1。
オリックス9回表の攻撃は2番・宗から始まる好打順だが、ヤクルトは前日の第4戦に続き、スコット・マクガフを投入して逃げ切りを図る。
マクガフは宗をセンターフライに打ち取ると、続く3番・吉田正尚にはライト前に弾き返され、一死一塁。
長打が出れば同点、一発が出れば逆転、という場面で打席に杉本裕太郎を迎えた。
しかし、杉本は微妙なストライク判定に泣かされた後、ショートゴロに倒れ、二死。
マクガフは続くT-岡田もフルカウントからファーストゴロに抑え、ゲームセット。
ヤクルトは、「石川ー石山ー清水ーマクガフ」という継投で逃げ切り、ついに20年ぶりの日本一へ王手を懸けた。

この試合の勝負のポイントは4つあったと思う。

①オリックス打線は、石川雅規の丁寧な投球に惑わされ、何もできないままゼロを重ねてしまった。
石川に左腕から繰り出される緩急を使われ、パ・リーグではあまり例がない投球スタイルだったかもしれない。
特に2回、先頭のT-岡田が四球で出塁した後、6番の安達が引っ張ってショートゴロ併殺打でチャンスを潰したのは痛かった。

②オリックスは先発の山﨑颯から継いだ2番手の増井が警戒のあまり、山田哲人に四球を与え、さらに二死走者なしからオスナにも四球を与えてしまい、それが失点につながったところは悔やまれる。
これも0-1と1点ビハインドで迎えた6回、山﨑颯の打順で代打を出さざるを得なかったことで、6回に増井が投入された。
その後、7回の富山凌雅、8回のタイラー・ヒギンスがゼロで抑えただけに、山﨑颯一郎が6回まで行っていれば、という「たられば」を考えてしまう。

③さらに、オリックスは攻撃面では8回先頭の若月の代打でアダム・ジョーンズを起用したが、順番からすれば、スティーブン・モヤが先ではなかっただろうか。
仮に無死一塁になったとして、モヤもジョーンズも併殺のリスクはさほど変わらないとすると、走者を置いて、より一発が期待できるジョーンズのほうがヤクルトバッテリーに与えるプレッシャーは大きかったように思える。
また、その後、モヤの代走で俊足の佐野を起用しておきながら、バッテリーを揺さぶることができず、1番の福田が併殺打に倒れたのも痛恨であった。

④逆にヤクルトは少ないチャンスをものにし、シーズン通りの勝利の方程式で1点差を守り切ったのは大きかった。

特にこの試合、ヤクルト、オリックスともに、3番・4番の二人(山田哲人・村上宗隆、吉田正尚・杉本裕太郎)は併せてわずか1安打ながら、ヤクルトは5番のドミンゴ・サンタナがソロホームラン、7番のホセ・オスナがタイムリー安打で1打点づつ挙げており、今日も外国人選手の差が出てしまった。

ヤクルト・石川雅規は6回、77球を投げて被安打3、5奪三振、1四球、1失点(自責点0)で、嬉しい日本シリーズ初勝利。
2015年の雪辱を晴らした。
日本シリーズで40代の投手が登板するのは、石川で史上8人目だが、勝利投手になるのは1950年の若林忠志(毎日)以来で実に71年ぶり。
しかも、セ・リーグではこれまで最高齢で勝利を挙げた2003年の工藤公康(巨人)の39歳5か月を抜いて、40代投手の勝利は初。
41歳10か月での勝利は左腕投手としても最高齢。
石川がまた歴史に名を連ねた。

試合後、ヒーローインタビューに呼ばれた石川は
「自分によかったね、と言ってあげたい」
「年齢は関係ない。ルーキーの時のような気持ちで投げている」
と語った。

ヤクルトはホームの東京ドームで連勝し、3勝1敗で早くも王手。
一方、オリックスは崖っぷちに立たされた。
日本一になるには3連勝しかなくなった。

しかし、オリックスが第5戦に勝って、神戸に帰れば、第6戦に山本由伸、第7戦に宮城大弥がおり、勝負はまだわからない。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?