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「実感のある文章を書きたい」フリーライター歴18年のnaominさんインタビュー

フリーランス歴5年以上の方にお話をうかがう連載の記念すべきお一人目のゲストは、ライターのnaomin さんです。

彼女に注目するようになったきっかけはこのtweet でした。

これを読んで初めて、自分も胃に食べ物を入れることで体が落ち着く感覚が好きなのだと気がつきました。

naomin さんの感覚が研ぎ澄まされているのは文章に対しても同じで、時にはっとさせられます。

もうすぐフリーランス歴18年になるnaomin さんに、zoomでお話をうかがいました。


--- 現在のお仕事について聞かせてください。

最近の仕事は、ビジネス系の雑誌や書籍、ネット媒体で経営者のインタビューをまとめたり、口述をゴーストライティングするようなものが多いです。ライティングというと、自分の意見を主張することをイメージする人が多いのですが、私の場合、ずっと広告分野で仕事してきたので、仕事は常に「誰かの意見や主張の代弁」です。だから、インプットする相手の言葉と、アウトプットする文章の間の透明なフィルターになることが自分の役割だと思っています。書き上がった文章を、インタビュイーが読んだとき、「これは自分が書いたものだ」と錯覚できるぐらい、私の存在が透明になった場合、その文章はよくかけた、という感じです。


--- フリーランスとして働き始めるまでの経緯は?

大学卒業後、新卒で地方新聞の広告制作会社に就職して、そのまま8年半働きました。会社員時代は行政の広報など堅めの仕事が多くて、ライティングをする機会もありましたが、どちらかというと工程管理や編集、営業がメインでした。いろんな関係先と細かいやりとりをするのが結構苦痛だったので、ライターだと文章を書くのに集中できそうだな、と思って独立しました。

7年目ぐらいで辞めようと決めたので、その後は、フリーになったときに実績として説明しやすそうな仕事に特に力を入れるように意識していました。できるだけコンペに参加して、企画書を書いて、プレゼンして仕事を取ろうとしてましたね。目的意識が明確だったので、その時期は全戦全勝でした(笑)。

ただ、ちょっと後悔しているのは、1社目は5年ぐらいで辞めて、種類の違う広告代理店などに転職して3年ぐらい別の経験を積めばよかったな、ということです。そうすれば、もう少し幅広い仕事を経験できたのにな、と思います。


--- 独立するのに不安はありませんでしたか?

あまり不安はなかったですね。そういう性格なので(笑)。それにその会社のOBはフリーになる人が多かったので、割と既定路線でもありました。


--- 2002年からフリーランスとして働き始めたそうですが、現在までの道のりを教えてください。

関西のライターの仕事って、ボリュームとしては飲食店取材が多いような気がするのですが、私は大してグルメでもないし飲食系の語彙が少ないので、そのジャンルはほとんど手がけていません。

フリーになって直後は、「企画書がかけるライター」として重宝されました。中小の広告制作会社で、一手に営業を引き受けている社長とかの営業先に同行して、会議の議事録をまとめたり、その場で出たアイデアを企画書にまとめたりする、秘書みたいな仕事をよくやっていました。意図せず前職の経験が役に立った形です。ビジネス文書を分かりやすく書くライターって、いそうであまりいないんですね。

その後は、ファッション通販のカタログのコピーを書いたり、企業の年史編集をしたり、学校とか企業の生徒募集とかリクルーティングのパンフレットを作ったりする仕事が増えて、「ライター」といっても、コピーライティングや印刷物の企画編集系の仕事がメインになりました。今のようなビジネス系の記事執筆が中心になったのはここ10年ぐらい。すべて紹介で、環境に流されて仕事の種類が変遷しているので主体性がないですが、今は、ある程度ボリュームのある文章をしっかり書く、いわゆる「ライターらしい」仕事に落ち着いていると思います。


--- 常々、語彙が豊富な方だと感じます。

ありがとうございます。インプットはインタビューが主体なので、いろんな業界の、いろんなプロの話を聞く機会は人より多いと思います。自分でもこの10年で語彙は増えた実感があります。業界によって、同じことを表現するにもボキャブラリーのセットが違いますよね。新しい語彙を仕入れると、意識して原稿に埋め込んで、自分のものにするようにしています。意味のぴったり重なるところで適切な語彙を使えると、身体的に「気持ちいい」んですよね。


--- 食べることに対するコメントなどからも身体感覚が鋭い方だと思っていました。

グルメの仕事が苦手なぐらいで、味覚も特に鋭くはないんですけど、身体性は確かに大事にしているかもしれない。イメージだけできれいごとを語ることだけはないようにしたいとは思ってます。いくら論理が通っていても、体温とか、汗臭さがない文章って信用できない感じがしませんか。「熱い」って書いてある文章が本当に熱いかどうか、「痛い」という言葉が本当に痛いか。上っ面だけになっていないか。人の文章でも自分の文章でも、そこはすごく気になります。


--- naominさんは、自分のどんなスキルが評価されていると思われますか?

昔からよく使うたとえなんですが、世の中には風船を持ってる人と、空気入れを持ってる人がいると思うんですよ。風船というのは、主義主張や思想。空気入れというのは、その表現手段です。私は風船は持ってない人間なのですが、空気入れは持っているので、素敵な主義主張のある人の風船にうまく空気を入れたいんですね。中には両方持っている人がいて、そういう人の役には立ちませんが、風船だけはあるのに、うまく空気が入れられなくて困っている人って、意外と世の中に多いでしょう。

「よき空気入れ」としては、集中して異分野の情報をインプットするのは得意です。相手の言葉を注意深く聞くので、その人の言いたいことの核がどこにあるかを見極めるスキルはけっこう高い気がします。やはり、知らない分野について書くことの謙虚さを忘れず、文章を書くたびに自分で腹落ちするまで学ぶ、という姿勢は、文章代行業としてすごく大事な部分だと思っていますし、実際にそのスキルを評価してもらっていると思います。

まあ、それは能力というよりは努力だし、かけた時間が大切だったりしますけど。世の中には下手な文章はたくさんあふれていますが、それは、書いた人に文才がないというより、ただ単純に、しつこさや謙虚さ、かけた時間が足りないように思います。ギャラからいえば1日で終わらせなきゃいけない仕事に、丸5日かけても、資料をとことん読み込んで、自分の腹の底から納得して文章にする気があるかどうかで、アウトプットの質は変わってくると思います。


--- どうやってお仕事を探していますか?

これまでの仕事で知り合った人からの紹介の数珠つなぎです。私を実際に知っている人が「この人にはこの仕事が任せられそうだ」という判断で新しい仕事を紹介してくれるわけですから、そういう流れに任せていると、やはり自分に向いた仕事が自然に舞い込んでくる感じがします。取材先の企業から別件の仕事を頼まれたり、一緒に取材したカメラマンがクライアントを紹介してくれるようなケースもあります。


--- フリーランスを辞めようと思ったことは?

辞めようと思わなくても、仕事がなくなれば辞めざるを得ないので(笑)、自分の中では、どうしても仕事がなくなったら「ここなら雇ってくれるだろう」という会社は脳内に常にキープしています。幸いこれまで実際に頼ることはなかったですけど、食えなくなった時の逃げ道は、なんとなく自分の中には常にあります。


--- 心身のメンテナンス方法は?

村上春樹じゃないですけど(笑)、基本的に毎日走るようにしてます。あと、よく寝ること。ライターってなんか走る人が多いと思うんですが、書くという仕事と走るという身体活動は相性がいいと思います。



--- これからどんなお仕事をされたいですか?

特にビジョンはないのですが、今は長い文章を自分なりに構築する仕事が面白いので、この方向性で質を上げたいと思っています。文章は実体のないものですが、長い文章を構築する作業は、「ものづくり」に近い感覚があります。色んな企業に取材に行きますが、やはり一番テンションが上がるのがものづくりの現場に行ったときです。広告ってふわふわしたイメージの世界だし、基本的に虚業なので、農業なり工業なり、確固たる形のあるものをつくる「実業」に対する憧れがあるんですね。

とはいえ、曲がりなりにも文章を書く仕事を長く続けてきて、これまで言葉になっていなかったことを言葉にすること、風船に空気をきれいに入れる仕事は、実業に取り組む人の役に立つ、という自分の仕事の意義も分かってきました。自分のスキルはそこにしかないので、少なくともそこで社会に役立てるような仕事ができればいいなとは思います。


*naomin さんには、本記事の編集と修正もしていただきました。ありがとうございました。

*naomin  さんのブログ:うだうだと考える日記

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