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シナリオ 「家族の定義」#03

○円山公園

広い大きな池の周りで写真を撮って歩く絵美。
楽しそうに橋から池を見ている家族を眺める絵美。
どこからか携帯電話の着信音が鳴る。
ポケットを探る絵美。しかし携帯電話は見当たらない。

絵 美「あれ…ない…」

着信音が止むと同時に、電話をしながら絵美の後ろを通る女性。

周りを見渡し、公衆電話を見つける絵美。

 
○公衆電話

電話をかける絵美、しばらく呼び出し音が鳴っている。

男の声「…はい」

絵 美「(動揺しながら)あ、えーと、その…」

男の声「…あ、この携帯の持ち主さんですか?今、交番に届けようと…」

絵 美「あ、すみません。取りに行きます。なので…」

男の声「今、どちらにいますか?」

話を遮り、質問する男。絵美、戸惑い疑うような表情。

絵 美「円山公園の池にですけど・・・」

男の声「偶然ですね。僕もこれを届けたら行こうと思ってたんです」

絵 美「はぁ…」

男の声「じゃあ、今からそちらに向かいます。枝垂桜で待ち合わせにしましょう」

絵 美「え!?そんな…」

男の声「ついでなんで。そうですね…あと10分ほどで着きますので」

絵 美「ちょっと…!」

電話が切れる。絵美、唖然とした表情。

 

○ 円山公園・枝垂桜

首から立派なカメラをぶら下げている電話の相手の男・谷淳平(33)。
谷をじっとみる絵美。

谷「どうぞ」

携帯電話を手渡す谷。

絵美「すみません。ありがとうございます」

微笑みで返す谷。
沈黙し気まずい雰囲気にどうしていいかわからない絵美。絵美のカメラをじっと見る谷。

谷「写真…好きなんですか?」

絵 美「へ?は、はい!」

谷「実はさっきから気になっていたんです、そのカメラ。僕が昔使っていたものと同じです」

そう言いながら、再び絵美のカメラを見る。
そんな谷を見つめる絵美。

絵 美「…よければ、一緒に写真撮ってまわりませんか?」

突然の提案に驚き、顔をあげる谷。

谷「え?」

絵 美「え、あっ、突然すみません!その、立派なカメラなので、どんな写真を撮るのか気になって…」

谷のカメラを見る絵美。きょとんとしている谷。

絵 美「いえ、その~、すみません。今のなしで!気にしないでください!」

手を大げさに振って、弁解する絵美。

谷「いいですよ」

絵 美「(間抜けな声で)えっ?」

谷「よかったらついでに、京都案内して頂けませんか?」

絵 美「…はい!」

満面の笑みで頷く絵美。

 

○精神科病院・廊下

カルテを持って歩いている郁子。そのまわりには精神病患者がうろついている。

【飯島優子】と書かれた表札がある病室のカーテンを開け、病室を覗く郁子。
中には誰もいず、窓から木漏れ日が差している。カーテンを閉め、辺りを見渡す郁子。
一人窓辺で外を眺めている患者の後ろ姿を見つける。

郁子「飯島さん」

郁子の声に無反応の患者・飯島優子(48)

郁子「飯島優子さーん」

また無反応な優子。
優子の隣に来る郁子。

郁子「飯島さん」

肩に手を置く郁子。

優子「…今日は、晴れるかしら」

窓の外を眺めたままの優子。
窓の外は雲ひとつないくらいの快晴。

郁子「今日はいい天気ですよ」

優子「もうすぐ、10月になるわね」

どこかわからないが遠くを見つめている優子の横顔。

郁子「(優しく微笑み)まだ6月ですよ、飯島さん。そろそろ診察のお時間ですから、部屋に戻りましょう」

おとなしく従う優子。名残惜しそうに窓から離れる。

#04へ続く


※追記
今時、公衆電話って…と思った人はこちらの記事を読んで下さいね。



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