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ハンノキ湿地に人がいない

良い天気の週末なので外に出たくなった。
気分転換もかねてハンノキ湿地に野鳥を見に行く。
途中、蜂の巣坂で三毛猫に会えるかもしれない。

期待したけれど、今日も三毛猫はいなかった。

暖かく風もない。
公園にはそれなりに人がいる。
ゆっくりと散歩している老夫婦、本格的に走っている人も結構いる。
百万歩コースから外れて、急な斜面の獣道を下る。

ハンノキ湿地は、めずらしく誰もいなかった。
普段、野鳥の撮影をしている人たちが数人来ているのだ。
なかでもパイプ椅子のおじさんは、カメラを三脚に固定して、同じ場所に必ずいる。大きな望遠レンズには迷彩色のカバーが付けてあって、帽子やバックもお揃いだった。
おじさんを先頭に、複数のカメラが横並びしている時もあった。
私のように、散歩の途中で立ちよる人や、撮影の様子を後ろで見学している人もいて、多い時には10人ほど、普段は3〜4人くらいだろうか。
水場のせいか、ここには野鳥が集まる。

誰もいないなんて、初めてかもしれない。
鳴き声を頼りに私は鳥の姿を探して、見つけるたびにオペラグラスを覗いた。
ひとりの時間は思いがけず新鮮だった。

水場には頻繁に鳥たちが飛来する。
シジュウカラ、ヤマガラ、こんなに多いなんて、驚きだ。
オペラグラスを離すと「こんにちは」と声がした。
初老の男性が少し距離をおいて立っている。
鳥が逃げないように、そっと来てくれたのだ。
私にも経験があるので、その気遣いは嬉しかった。
挨拶を返すと「あそこに、アオジがきてますよ」と、教えてくれた。
お腹の黄色い鳥が二羽、水場の岸で熱心に餌をついばんでいる。
パイプ椅子のおじさんが、餌付けをしているとのことだった。
それで鳥が多いのかと、妙に納得した。変だなと、なんとなく思っていたのだ。
彼は日によって撮影場所を変えるらしい。
ここには長く通っているようで、野鳥に詳しかった。
人がいないほうが、話しやすいのかもしれない。
つい話したくなると笑っていたけれど、話し方は心地よかった。

ハンノキ湿地で、人と話すのも初めてだった。


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