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サブカル大蔵経156菊地成孔『時事ネタ嫌い』(イーストプレス)

 懐かしく香ばしい事件や事象が、菊池成孔さんの見立てで語られると、すべての出来事にその後の不穏な兆候が予見されます。10年後の私たちに宛てて書かれたようなメッセージを、現在受け取りながら読むというパラドックス感が妙な感触です。

 彗星の如く現れた菊池成孔のペダントリーな言葉の矛先は、アルゼンチンの肉料理から前田日明まで幅広く、久々現れたサブカル界のスターでもありましたが、実家の料亭で育まれたその言説からは、頭の中でこねくりまわした学者やサブカル者とは別次元の血の香りがしましたし、ひとつひとつを丁寧に掘り起こして、ピンポイントで生ぬるい業界に鉄槌し続けた姿勢には学究的な音楽家としての職人的な矜持を感じました。孤高のようで読者たちに優しかった澁澤龍彦や橋本治亡き後、頼りたくなるアニキとして貴重な存在だと思います。

 いろいろなインタビューの中で印象深いのは、「カミノゲ」で、まだ若き吉田豪をネット上の神という見立てをしていたことです。先入観なく鋭いなぁと思いました。昨年吉田豪のネット番組「猫舌Showroom豪の部屋」で対談してたのも最高でした。

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ガリガリ君やキューピーマヨネーズのように、裸の王様たる不二家は、今やっと新しい才能の導入によって蘇生するチャンスを得た。p.18

 ブランドへの公平な見立て

オウムは漫画に見えた。ライブドアは漫画にすらならない。p.31

 ホリエモン的事象への観測

反韓感情を持つ人々を覆う不全感や苛立ちの根本にあるのは、日本と韓国の間に時差がないことであろう。p.40

 時間差のない異国という卓見

ヒルズとかミッドタウンとか、あれはデパートではありません。あれはモールの高級なものであって、どんなに高い物を買っても、モールで買う限り、それは安物なのです。p.50

 デパートの消えた日本。

日本人にとって挽肉とは何か。2007年
ミートホープ偽装事件。日本の家庭で作る洋食、即ちハンバーグや焼売、ミートソース等は、そもそも合い挽きのほうが旨いように出来ているのだということ。肉を併せることによって生じる、ノイズのような滋味なような現象を「旨味」とし、(中略)
予めミックスされたものばかり食べているから原色に対して腰が基本的に引ける。p.57.59

 挽き肉への不信感。私の母も同じこと言っていました。外ではあえてハンバーグは食べませんでした。日本家庭料理の肉におけるノイズ。原色よりブレンド。なぜか?

パソコンが美しくないから、パリコレ、ファッションショー取材ではいまだに手帳とサインペン。p.74

 仕事と美。

我が国での殺人事件の半数以上が近親者。他人なんて殺せませんよ。家族じゃあるまいし。p.92

 家族こそ危険。逆説的真理

政治家は老人であるべし。p.103

 私も年配の僧侶のお話を聞きたいです。いろいろもっとお任せしていいと思います。

私たちはどの程度黒人に関して知っているか、感じているか。寿司屋に黒人と白人の板前がいる。どっちに握って貰いたいか?p.113

 頭の中と実際と。

パソコンがタバコをいじめている。パソコンがドラッグの王、ドラッグの独裁者にならんとしている。パソコンはドラッグの側面が非常に強いです。p.128

 スマホが今やドラッグ王

カードの最悪点は紙幣と違って無臭なことである。p.159

 外国の紙幣は必ず匂った。それが貨幣の何かを伝えてくれた。

ホルモンヌや日本再生酒場などの流行現象は、昭和のオッサンに擬態するという、逃避的な闘争行為。何からの逃避か。p.224

 私も東京に行くたびに、大衆酒場めぐりをしています。なぜなのか…

スマートフォンをヤバイなこいつらと感じるのは、嫌な感じがしない、という点に尽きます。古来、賢人は、一番おっかないのは表面的には優しそうな奴だと言います。p.253

 今、たしかに、実際、ヤバいですね。

オアフ島に行ったら、夜中にタクシーで、観光客など一人もいかない危険なエリアまでスペアリブの弁当を買いに行く。p.258

 この店行きました。ものすごい量でした。よく帰ってこれたなと思います。

 本書は現在、同じイーストプレスの文庫ぎんが堂から出ているみたいです。さらなる追加原稿があるのか、確認してみようと思います。


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