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サブカル大蔵経889梯久美子『狂うひと』(新潮文庫)

島尾敏雄『死の棘』を読んだ時の違和感を解消したく、帯に広告されていた本書を購入。大著かつ労作でありながら、その読後感はいまだ謎めいています。

ピースが多すぎて完成できないパズルのように、読者を困惑させ、もどかしい今頭の中に置き去りにすることになる。p.513

狂わせた「あいつ」の存在について、どこまでが事実なのか。そして、ミホとは。

だからこそ惹きつけられる作品なのかもしれません。

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死をもって完結するはずだった恋は敗戦によって生の方向に舵を切る。ミホは復員した島尾を追い、老いた父を1人残して闇船で島を出た。p.13

 死の棘の前後。島を出て還った物語。

死者の名刺を受け取ったのは、あとにも先にもこのときだけである。p.23

 奄美で一人暮らしのミホを訪ねる著者。序盤でのミホとのやりとりが濃密すぎる。

死の棘 妻の場合 妻の側からp.38

 ミホも書こうとしていた。演劇的夫婦。

死の前提のもとで、言葉、それも「書かれた言葉」によって恋愛を盛り上げることにおいて、島尾とミホは共犯関係にあった。p.113

 古事記と万葉集が引用された書簡。ミホが求めていたもの。

ミホの前では絶対にその話をしない方がいいと、みな口をそろえた。p.137

 ミホの来歴について。この書き方『つけびの村』に出てくるような。村のタブー。

青年団の活動などでもつねに中心にいたミホは、若い男たちから憧れと思慕の視線を向けられることに慣れていた。p.229

 これは梯久美子さんの視点なのだろうか。ミホのプライド。

繰り返し出てくる「カテイノジジョウ」とは、長男が両親の諍いをそう呼んだ言葉だが、これは戦後に人気を博したコメディアンのトニー谷が昭和28年に流行らせたギャグからきている。p.452

 閉ざされた世界である『死の棘』と、現実であるテレビのつながりが新鮮。

よそ者の夫と、その夫に気のふれた姿を書かれた妻。それが帰島当時の島尾とミホだった。p.645

 死の棘の果て。その後。なぜ島尾は死の棘を書いたのか。

この日ミホに付き添っていた島尾の義妹は、「お姉さんが一番堂々としていた」と言ったという。p.732

 天皇来賓の授賞式に島尾の代理で出席。

ミホはここでマヤが言葉を失ったことを「生涯の十字架」と言っているp.813

 ミホは、娘マヤの病因を探る

自宅の寝室で倒れているのを見つけたのは孫の真帆(漫画家・作家のしまおまほ)だった。p.819

 紡がれていく島尾サーガ。

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