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サブカル大蔵経693柴田勝家『アメリカン・ブッダ』(ハヤカワ文庫)

東北とSFと仏教。長編よりもこの贅沢な短編集が好きでした。表題に興味を覚えて購入しましたが、ほかの短編でも仏教題材多かったです。たぶん一度読んだだけではまだわかっていない筋がある気がします。

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[雲南省スー族におけるVR技術の使用例]
自らの人生が仮想のものだと気づいてしまったなら、誰であれ正気を保つことなどできない/
ようやくそれが取り外された時、そこにあったのは厚い眼鏡のように盛り上がった眼鏡筋と、小さくすぼまった瞼だった。p.18.20

 実は現代の人類全てがこのゴーグルをかぶっているのでは?とふと思いました。

[鏡石異譚]
「後悔も含めて人生だからね。」p.97

この先きっと、私は多くの私に出会うだろう。p.100

 設定の妙だけでなく、台詞も印象深いです。私は多くの私に出会う。至言。

[邪義の壁]
「覚鑁は密厳浄土思想という、真言宗における浄土思想を広めた僧侶なんですよ。そして浄土真宗の中にも、その教義を受け入れた一団がいて、独自の教派を作っていったんです。」p.115

 隠し念仏ということは、岩手か?密教と浄土真宗の関係はもっと学びたいです。実は現在の教団こそ昔から見れば異端に映るかもしれません。すべての宗派において。

こうして見ると、あの壁は信仰の場などではなく、異端排除の歴史そのものですよ。p.126

 〈壁〉とは、解放なのか、束縛なのか。同朋なのか、差別なのか。併せ持つのが宗教なのかと思いました。その血と涙の歴史はすぐそばにある。

[一八七九年:龍動幕の内]
「なるほどね。君は人格神ではなく、汎神論の世界を尊ぶ訳だ」p.144

 孫文が熊楠に語る台詞。この熊楠の仏教理論こそが今の仏教に必要だと思います。

[検疫官]
感染した時には体よりも思想に害をなすだろう。つまり物語である。p.191

物語というウイルス以上の真のウイルス。現代を予言。

[アメリカン・ブッダ]
ブッダはサカ族の戦士として育てられた。/
そうして"六つの生き方"を繰り返す。p.258.305

 仏伝や仏教用語を、仏教の文脈から解放すると。柴田勝家さんは、それを僧侶に代わって思考実験してくれているのでは。その刺激を僧侶がキャッチできるか。

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